3.特に用は無いんだけど。
「お疲れ!」
雅は朝練を終えると、急いで教室に向かった。
まだ時間の早い校内。
生徒達はほとんどいない。
ハァハァハァ。
「確か、あいつ朝早かったよな。
いるかな?」
ガラガラ。
雅が、教室を見回すと一人机に座り本を読んでいる花蓮がいた。
「お、おはよう!」
「おはよう。」
花蓮は、本から視線を動かさないまま、挨拶をする。
「・・・おい!挨拶は目を見てするんだ!」
雅は、顔を近づける。
「キャッ!」
本から視線を写した花蓮は、雅の顔が突然至近距離に現れて驚いた。
「す、すまん。」
花蓮は、顔をそらして俯いている。
耳が少し赤い。
「べ、別に。少し驚いただけ。」
「なぁ、池下、昨日ありがとうな!
助かった!」
雅は、満面の笑みを浮かべて花蓮を見つめる。
花蓮は、ようやく雅の方を向いた。
「うん。大丈夫だった?」
・・・あっ、しまった。
「・・・何が?」
額の傷の事だと思った花蓮に大丈夫だったかと聞かれ、雅は、不思議そうにしている。
「あー!赤点の事?
まぁ、回避できた自信はあるけど、分からないよな。」
「そ、そう。」
花蓮は、バレてないと思い、安堵の表情を浮かべる。
すぐに本に視線を戻した花蓮を、雅は不満気に見つめる。
「池下ってよく見ると、綺麗な顔してるし、髪も綺麗だな。」
雅は、自分の席に座り、頬杖をつきながらボーっと花蓮を見つめながら言う。
「な、何?まさか口説いてんの?」
不意を突かれた花蓮は、驚いて雅を見る。
「やっとこっち見たな。」
雅はニコッと笑った。
花蓮は、目を再び反らした。
「何よ。」
かっ、可愛い!
何今の笑顔!
やめてー!
「どうしたらこっち見てもらえるか考えたんだ。それで、褒めてみた。」
「何それ?お世辞だったって事?」
冷静に戻った花蓮は、不満気に本に視線を戻す。
「お世辞・・・ではないかな。」
雅は、花蓮をずっと見つめている。
「も、もう!見ないで!」
花蓮は、本で顔を隠した。
「照れたのか?ちょっと可愛いぞ。」
「バカ!何なの?!」
花蓮は、本を少し下にずらし、盗み見る様に雅を見る。
牛乳瓶の底が本の上から覗いている。
「何、と言われてもな〜特に無いんだけど、池下と話してみたいと思ってさ。
」
「・・・わ、私をもて遊ぶつもりね!
それとも、何かの罰ゲーム?佐藤君が私と話したいなんてあり得ないでしょ?」
花蓮は、不信感に満ちた視線を雅に送る。
「はぁー!俺、絶対そんな事しないぞ!」
雅は少し怒っている。
「ご、ごめん。
その、佐藤君モテるし、私なんかと話す理由無くない?」
「理由と言われると困るな。」
「モテるってのは否定しないのね。」
「あぁ。俺モテるしな。
まぁ、彼女とかいた事ないし、好きとか分からんけど。」
「あっそ。羨ましい限りで。」
・・・彼女いた事ないんだ。
ちょっと嬉しい。
花蓮はまた本に視線を戻した。
「また本かよ。なぁー。」
「何?」
「別に何もない。」
「そっ。」
「・・・なぁー。」
「わ、私トイレ。」
花蓮は、立ち上がると、足早に教室を後にした。
トイレの鏡の前に立つと、大きなため息をつく。
「な、何なの?いきなり距離詰めすぎじゃない?ドキドキしてる。」
花蓮は胸に手を当てた。
鏡を見ると、赤くなった自分の顔が写っている。
「話せたのは嬉しいけど・・・急すぎだよ。」
しばらく鏡の前で項垂れ、花蓮は教室に戻った。
良かった。
杉下君来てる。
花蓮は安堵の表情を浮かべ、席に座った。
雅は、横目でチラチラと花蓮を気にしている。
「おぃ!雅!聞いてんのか?」
「す、すまん。何だった?」
「お前昨日から変だぞ?大丈夫か?」
「あ、あぁ。大丈夫。」
俺、池下に嫌われてんのかな?
明日また話しかけてみよう。
雅は、花蓮が人前で話しかけられるのを嫌がる気がして、気をつかった。




