28.振り出し。
まだ外は薄暗い。
カチカチカチカチ。
「まだ5時前か。」
雅は、今日から夏休みというのに、いつものクセで早く目が覚めた。
隣りの花蓮を見ると、目を開いてこちらを見ている。
「朝一番に顔を見れるのは幸せだな。」
「雅くんって本当にバカ真面目だよね?
あれだけ一緒に朝を迎えたのに、私の顔、見ない様にしてくれてたんだもん。」
「見るなって言うから。俺、嘘つくの下手みたいだし、バレるだろうしな。
誕生日プレゼントの時も、怪しいから尾行したんだろ?」
「ちっ、覚えてやがったか。」
「おぃ、おぃ、まさかそれが本性じゃないよな?」
「さぁ〜、どうでしょ?ふふっ。」
「まぁ、いいや。」
雅は、花蓮に近づき、おはようのキスをする。
「まぁ、今日からは、こんな感じなのかしら?」
「そうだな〜。とりあえず、ブレーキは壊れた。」
「修理しないとね。」
「ブレーキ直さなくても、花蓮刑事が事件を防いでくれるんじゃなかったのか?」
「・・・イザとなると。」
「あはははっ。いいよ。いつでも。」
「そんな事言って、今晩言い寄ってくる雅くんが想像できますが?」
「・・・否定はできないな。」
二人は体を起こし、母二人を見る。
「良く寝てるね〜。」
「あぁ、寝てる。」
「部活も9時からでしょ?もう少し寝る?」
「いや、昨日のムラムラが残ってるから、部活中にこの状態では。」
「それは?まさか?母の前で?」
花蓮は、口を手で覆う。
「バカ。違うわ。ちょっとランニングしてこようと思ってさ。」
「あぁ、そう言う対処法もあるのね。」
「そうだ。これまでは、夜クタクタじゃないと眠れなかったから、毎日、限界を超えて自分を追い込んでいた。」
「す、すごいわね。」
「まぁ、一回戦勝てたのは、多分そのお陰ってのもある。」
「それは、それは。」
花蓮は微笑む。
雅は、静かに立ち上がり、ジャージに着替えると、ランニングに出かけていった。
花蓮は、玄関まで雅を見送ると、部屋にもどり、良く眠る母二人を見た。
「・・・まったく。覚悟できてたのに、恐くなってきたじゃない。」
花蓮は、今日の夜の事を想像すると、気が気ではなかった。
「・・・妃鞠いわく、痛いらしいな。」
花蓮は、少し俯くと、音を立てないようにしながら、朝ご飯の準備を始めた。
「おはよ〜花蓮ちゃん。」
「お母さん、おはよ。」
「いい匂いがするから目が覚めちゃった。」
「花蓮ちゃんおはよ〜。」
「おはようございます。」
花蓮は、雅の母へは、笑顔を忘れない。
「ちょっと!花蓮ちゃん!お母さんにもその笑顔下さいよ!」
「え〜。」
花蓮は、笑って誤魔化しながら、朝ご飯の準備を進める。
「わぁ〜美味しそうね〜。これが雅を虜にした料理ね?」
「あはははっ、まぁ、美味しそうには食べてくれます。」
「いいお嫁さんになるわね〜。」
「頑張ります。」
花蓮は、照れて少し俯いた。
ガチャ。
「ただいま〜。」
雅は、母達がまだ寝てるかと思い、静かに入ってくる。
「おはよ。」
二人の母は、同時に声をかけた。
「あぁ、起きてたんだ。おはよう御座います。」
「まぁ、朝からランニング?頑張り屋さんなのね。」
花蓮の母は感心する。
「まぁ、今日から朝練無いので。」
あなた達のせいで、せざるおえなかったんですがねー!
あぁ、地獄の練習前に、体力を削って大丈夫だったのだろうか?
雅は、この後の練習の事を考えると、気が重かった。
「朝ご飯できたよ〜。」
花蓮は、テーブルに卵焼き、お浸し、焼いた鮭、味噌汁を並べる。
「あら〜!ありがとう!」
母二人は、嬉しそうに席についた。
「雅くん、椅子2つしかないから、私達はこっちね。」
花蓮と雅の分は、リビングテーブルに置かれている。
「まぁ!このご飯、美味しいわ!」
母二人は、ご飯のおいしさに驚いている。
「あっ、炊飯器がいいだけですよ?」
「何?炊飯器でこんなに変わるの?
帰りに買ってかえりましょ?」
二人は、炊飯器を遠目に見ながら、興味津々の様だ。
花蓮の朝食に大満足な様子で、母達は嬉しそうに完食した。
母達は、朝食を終えると、花蓮と後片付けをしてくれている。
「じゃあ、部活行くわ!」
「待って!お弁当。」
「えっ?ありがとう!」
コンビニで弁当を買おうと思っていた雅は、嬉しそうに弁当を受け取り、学校へと向かった。
花蓮が振り向くと、母二人はニヤニヤしながら花蓮を見つめている。
「さぁ、花蓮ちゃん。恋バナしましょ?」
雅の母は、ニヤニヤしながら花蓮の手を引き、リビングへ引っ張った。
「ただいま〜。」
雅は部活を終え、疲れた様子で帰ってきた。
「おかえり〜。」
「花蓮、どうした?」
ぐったりした花蓮を心配そうに見つめる。
「お母さん達に、根掘り葉掘り聞かれて、ぐったりです。」
花蓮は、ソファーに座り、俯いた。
「おのれ、あやつら!俺が留守の間に。」
雅は、ニヤニヤした母の顔を想像して、イラッとした。
「まぁ、大丈夫!」
花蓮は、立ち上がり、キッチンへ向かった。
「ごめん。さっきまでお母さん達いたから、晩御飯の準備、今からなんだ。」
「それは全然いいけど、外食にするか?」
「あぁ、そうね〜。何だか疲れたし、そうしようか?」
「たまには外食もいいよな!」
雅は、カバンの荷物を出して、クローゼットを物色する。
花蓮は、雅のバスケの服を洗濯機に入れて回し、弁当箱を洗った。
「よし!行こうか!」
「うん!」
二人は仲良く手を繋いで近くのファミレスへと向かった。
寝る準備が完了した花蓮は、ベッドに座り指輪を見ていた。
「短期間に色々あったな〜。」
花蓮は独り言を呟く。
「もうすぐ雅くんの誕生日だな。
何を返そうか?」
花蓮は一人、悩んでいた。
「えらく考え込んで、大丈夫?」
風呂から出てきた雅は、花蓮の様子を見て心配そうにする。
「うん。大丈夫。」
花蓮は、小さく深呼吸をする。
「雅くん。」
「何?」
雅も、寝る準備が終わり、花蓮の隣りに座った。
「ぎゅってして。」
花蓮は、雅に寄りかかるり、雅の胸元に頭を置いた。
雅は、ぎゅっと、花蓮を抱きしめる。
「なぁ、花蓮?」
「何でしょうか?」
「とても幸せだよ、俺。」
「・・・私も幸せだよ?」
「だからさ、無理にがんばらないでいいよ。」
「・・・う、うん。でも・・・大丈夫だよ?」
「いやっ。・・・実は。」
雅は、照れた表情で目を反らした。
「実は?」
「花蓮の顔も目も、あのメガネでちゃんと見てなかっただろ?」
「うん。」
花蓮は、雅が何が言いたいのか分からずに不安気な表情をしている。
「その。緊張するというか、メガネをはずした花蓮には、まだそう言う事ができないというか。」
「えっ?それって私の顔が好みじゃなかったからって事?」
花蓮は体を起こし、泣き出しそうな表情をしている。
「ち、違う!花蓮の顔も目も好きだ!」
雅は、花蓮を抱き寄せた。
「メガネの花蓮とでも、最初、好きだと気づいていて一緒に寝たら、眠れなかったし、ムラムラもした。
でも、最初からそう言う事をしたいと思ってた訳じゃないんだ。
その、花蓮への気持ちが、振り出しに戻った?」
「何故疑問形?・・・要するに、ヘタレ?」
花蓮は、また、体を起こして雅をニヤニヤしながら見つめている。
「言い方。」
雅は、目を細めて花蓮を睨む。
「ふふっ。」
花蓮は嬉しそうに笑った。
「だからさ、焦らずにゆっくりでお願いしたい。」
「昨日は?昨日はしようとしてたよね?」
「・・・正直、母さん達が来て助かった。花蓮としたいと思ったけど、キスした時に気づいたんだよ。
多分、緊張で俺の下半身さんは反応しなかっただろう。」
「あらら。分かりました。」
花蓮は、雅の胸に頭を置いた。
「雅くんがまた、したいと思ってくれる様に、振り出しからがんばりま〜す。」
「がんばるのか?」
「はい。」
「よろしく頼む。」
雅は、緊張しながらも、花蓮をベッドに寝かせ、隣りに横になった。
「寝よう。」
「そうだね。」
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
二人の恋は、これからも続いていく。
「完」




