25.決着。
ブー。
第二クウォーターの始まりのブザーが鳴る。
「あれ?あのガード、下ったな。」
雅は、コートに入る相手チームのメンバーを見て涼に話しかけた。
「ほんとだ。変わりのやつは身長小さいな。」
涼は、少し嫌な予感がした。
選手達が配置に付くと、コートの中心でボールが投げられた。
ジャンプボールは、キャプテンが優勢だ。
相手のセンターの方が最高到達点は高いが、キャプテンは、飛ぶ速さと、力でカバーしている。
パスッ。
キャプテンの弾いたボールは、涼の手元に渡る。
「さぁ!行きますか!」
涼は叫ぶ。
「させねぇよ?」
新しく出てきた選手は、涼対策だった様だ。
涼は、ドリブルで抜こうとするが、相手選手はしつこく涼を押さえる。
「くっそー!しつけーよ!」
涼は、次第に押され、コートの隅に追いやらた。
「涼!」
雅が涼の近くに走り叫ぶ。
「くそっ!」
涼は、雅にパスを出した。
「あれは何?ズルくない!」
相手チームのディフェンスは、4人がゾーンディフェンスで、一人が涼にべったりとついている。
「涼くんを警戒してるみたいね。
一人捨てて、4対4の戦いに持ち込むつもりね。」
「そんな〜。涼、可哀想!」
妃鞠は不満気だ。
「大丈夫、涼くん一番体力あるから、きっとあの選手はついて行けなくなるよ。」
「うん!涼、私とのデートよりランニング優先するくらい頑張ってたもん。
あんな奴に負けたら承知しない!」
妃鞠は、祈る様に見守る。
4対4の戦いは、突破口を見いだせず、放たれたシュートは、ゴールの金具に弾かれ、相手のセンターがリバウンドを取った。
「反撃開始だ!」
センターが叫ぶと、相手の得意の速攻が展開される。
パスッ。
瞬く間に、相手のシュートがネットを揺らした。
キャプテンは、ゴール下で涼を見るが、相手のしつこいディフェンスに、パスさえ受け取れない。
「ちっ。汚え戦い方しやがって。」
キャプテンは、小さく呟くと、雅にパスを回す。
雅は、優れたフォアードだが、ゲームメイクは苦手だ。
自分を上手く操ってくれる涼の様な指令塔がいてこそ、能力が発揮される。
このまま、涼はボールに触れず、攻めもパッとしない展開が続く中、相手チームは、順調に点差を縮めていく。
ブー。
第二クウォーターが終わる頃には、雅達は、2点差で負けていた。
「くっそ!」
雅は悔しそうにベンチに座る。
「涼を下げるか。あいつがいたらこのまま少しづつ点差が開く展開しか予想できない。」
キャプテンは、相談する様に選手達に言う。
「キャプテン!このまま出して下さい!」
「涼?」
「もう少しだと思います。」
「・・・成る程な。」
キャプテンは何かに納得した様だ。
「よし、このままのメンバーでいく。
さぁ!反撃開始だ!」
「おーーー!!!!」
雅達は、叫び声を上げると、コートに入る。
「諦めるかと思ったよ。」
涼についている選手が、コートの中心の円の外で話しかける。
涼の顔は、満身創痍と言わんばかりに疲れ果てている様に見える。
「負けるかよ。」
涼は小さく呟いた。
ジャンプボールが投げられ、雅にボールが渡る。
雅は、高速でゴールに向かい、ネットを揺らした。
「よっしゃ!同点!」
そのまま、苦しい戦いは、第三クウォーターの半分くらいまで続く。
「わぁ!」
涼を追い続けていた選手が足をもつれさせて突然転ぶ。
「ピピッ」
審判が笛を吹くと、試合が一時止められ、汗で濡れたコートがモップで拭かれた。
「大丈夫か?」
コケた選手に他の選手が駆け寄る。
「大丈夫。」
小さく呟くと、涼の元へ駆け寄る。
涼も、涼に付く選手も疲れ果てている様に見える。
「そろそろ限界か?」
涼は、相手選手に話しかけた。
「問題無い。お前も限界だろ?」
相手選手は、息を切らせながら言う。
涼は、相手が限界の様に見えた所で、しんどそうな顔をする演技をやめた。
「なぁ、マラソンでさ、ゴールまであと少しって所でさ、さっき走ってきたコースをもう一周してこいって言われたら、人って絶望すると思わないか?」
「な、何が言いたい?」
「俺、息切れしてないの気づかなかった?まだまだ行けるよ、俺は。
絶望は、人の体力を更に奪う。
じゃぁ、悪いな。」
だんだん相手に合わせてスピードや動きを調整していた涼は、トップスピードで相手選手を揺さぶり、振り放した。
「雅!反撃だ!」
「きたきたー!」
雅は興奮した表情で、涼にパスを出す。
なんとか食らいついた選手を、涼は簡単に抜き去る。
コートの中心に突然現れた涼に、相手チームは対応が間に合わない。
3人が涼に飛びかかった所で、涼は、ゴール下のキャプテンにパスを出した。
パスッ。
キャプテンは、悠々とネットを揺らした。
「おぃ!何してんだ!」
「ハァハァハァ。すまん、次は止める。」
膝に手を付く相手選手の肩を、涼はトンと叩き、ディフェンスのポジションについた。
「化け物かよ。俺は、オフェンスが下手だから、ずっとディフェンスだけを頑張ってきた。体力には自信があった。
誰よりも。なのに何だ。ポイントガードとか優れた能力の上にあの体力。
ぐっそーー!!!」
相手選手は、ほえた。
「お〜恐ぇ〜。涼、気をつけろよ。
牛粗猫を噛むとか言うだろ?」
「油断はしない。あいつも俺と同じだから。」
涼は、雅の冗談に笑わずに答えた。
「すまん、あいつも必死だもんな。」
雅は、反省して真面目な顔で構える。
ここから、雅達の猛攻が続く。
ブー。
第三クウォーターが終わる頃、点差は15点差。
雅達がリードしている。
そして、最後の10分が始まる。
雅達はコートに立つ。
相手チームは、ギリギリまでメンバーに悩んでいる様だ。
相手チームの5人がコートに入る。
「あいつ、春の大会のガードだよな。」
雅が、涼に話しかける。
「ガードが二人か。吉と出るか、凶と出るか。」
涼は目を細めた。
コートの中心でボールが投げられる。
キャプテンはまたしても押し返して、ボールは涼に渡る。
「お前で俺を止められるか?」
涼は、最強中学生のガードと対峙する。
「グダグダいわずかかって来い。」
「はいよ!」
涼は、トップスピードで切り込む。
「くっ、やっぱり速い。」
必死に食らいついてくるが、涼は、突き放し、体一つ前に出た。
「行くぞー!」
涼は叫ぶ。
「スイッチ!」
涼に付いていた選手が叫ぶと、涼と雅のディフェンスが入れ替わる。
涼は!急ブレーキをかける様に止まる。
「成る程、速い二人が雅と俺を協力して守るって事な。」
涼は小さく呟くと、雅に視線を送る。
雅は、頷くと、涼と同時にコートの反対側へ走る。
配置に付くと、涼が切り込むと同時に、キャプテン達は中心を開ける様に動いた。
「中ががら空きだ!」
涼は、ドリブルで切り込み、ゴール前で飛んだ。
「バレバレだよ!」
中学生最強ガードが、反対側から涼を防ぎにかかった。
涼はニヤリと笑う。
「バレバレに動いたんだよ。」
涼は、スリーポイントラインにフリーで立つ雅にパスを回した。
美しい雅のシュートフォームは、時が止まった様に錯覚する。
雅の指先から離れたボールは、綺麗な弧を描き、ゴールに吸い込まれた。
パスッ。
ネットにさえも微かにしか触れず、ボールは、ゴールの中心を落下した。
「よしっ。」
雅は静かに呟いた。
ディフェンスにもどりしな、雅と涼はハイタッチする。
「さぁ、勝とうか!」
「おぅよ!」
二人は、闘志に満ちた笑いで見つめ合った。
ここからは、完全に雅達のペースだった。
ブー。
試合の終わりをブザーが告げる。
「勝ったー!!!」
涼は、雅に飛びつき、抱き合う。
終わってみれば、20点差という大差で雅達は勝利した。
「ありがとうございました!」
コートの中心で挨拶が交わされた。
「お前ら、強くなりやがって。来年の春は負けないからな。」
中学生最強ガードの選手が悔しそうに雅と涼に言う。
「あぁ、俺達も負けん!」
3人は握手し合った。
「頑張れよ。全国期待してるわ〜。」
ガードの選手は、そう言い放ち、コートを後にした。
「勝ったのよね?」
「うん、勝った。」
やったぁー!
観客席で花蓮と妃鞠は抱き合う。
「あー!ヤバい!めっちゃ面白かったし、感動したー!」
妃鞠は大興奮だ。
「うん!春負けたチームにこんな圧倒的勝利、感動だよー!」
花蓮も興奮している。
二人は、冷静に戻ると、体育館の入り口まで歩き、雅と涼が出てくるのをベンチで待った。




