24.決戦。
花蓮の誕生日からしばらく、ドキドキしたり、癒されたり、二人の幸せな日々は特に変わりなく過ぎていった。
そして、夏休み目前。
雅達バスケ部は、コートの中で円陣を組んでいる。
夏の大会、一回戦。
相手チームは、まさかの前回敗北をきしたあのチーム。
春の大会は、全国大会までは行かなかったものの、予選3位と言う好成績で話題になった。
そして、春の大会と違うのは、涼が、メキメキと実力を上げ、ベンチ入りしている事。
「さぁ!前回敗北した相手にリベンジだ!予選3位のチームだ。
ここで勝ったら全国だって夢じゃない!行くぞ、全国!!」
キャプテンが叫ぶ。
「おーーー!!!!」
部員達は、大会に響き渡る程に叫ぶ。
「おーーー!!!!」
相手チームも、気合い十分だ。
「やっばっ!鳥肌〜。見て見て。」
観客席に座る妃鞠は、花蓮に腕を見せる。
「私も〜。」
二人は腕を並べて笑った。
「涼、試合に出れるかな?」
「出れるといいね!涼くんは、ポイントガード?だよね?」
「そう、そう。指令塔ってやつ。」
「雅くん、涼くんが出てる時、楽しいって言ってた。ゲーム展開によっては、3年生のポイントガードと交代もあるかもね!」
「あー!楽しみ!花蓮はいいな〜、最初から雅くんでてるんだもん。」
「まぁ、それは否定できないわね。」
「あっ、始まるよ!」
コートの真ん中でボールが投げられた。
パスッ。
ジャンプボールは、キャプテンが力づくで押し返した。
雅にボールが渡る。
「久しぶり。」
「今回も勝たせてもらうぞ。」
雅は一瞬、睨みあった。
次の瞬間、一瞬で相手選手を抜き去った。
「くっそ!前より速い!」
相手選手は必死に追いかける。
守りに戻った選手達に、雅は囲まれる寸前で、高く飛び上がった。
「させるかよ!」
身長2メートルはありそうなセンターが雅の前で飛び上がった。
雅は、シュート態勢から、センターの選手の足元をバウンドさせ、パスをだした。
ゴール下、キャプテンがボールでネットを揺らした。
「よっしゃー!」
雅は叫ぶ。
「雅!早く戻れ!相手が速いの忘れたか!」
「はい!」
雅達は、それぞれ配置についた。
「あれは、ゾーンディフェンスだねー。」
「何それ?」
花蓮に妃鞠は問いかけた。
「ディフェンスには二種類あるみたいよ?決めた相手をディフェンスするマンツーマンディフェンスと、決めた範囲をディフェンスする、ゾーンディフェンス。」
「成る程・・・花蓮、めっちゃ勉強したね〜。私なんか本読んでてもあんまり分からなかったよ。」
「私、本好きだから。」
花蓮と妃鞠は、視線はコートに釘付けにしながら、話している。
ダムダムダム。
「今回は、ゆっくり攻めてくるんですね。」
雅は、構えながら、キャプテンに呟く。
「と、言うかあんなポイントガードいました?」
「雅、お前、相手チームの事興味なさすぎだ。前回の大会のポイントガードは、普段はベンチだったそうだ。
あいつが伝説の中学生最強のポイントガードだ。」
「えっ?気合い、入れます。」
「あぁ。」
相手チーム5人は、ゆっくりと歩きながら、センターラインを越えた。
ポイントガードは、手を上げ、人差し指を天井を指すようにあげる。
「ゾーンでいいのか?」
ポイントガードは、センターラインを越えた所で、シュート態勢に入った。
「はぁ!ふざけんな!」
雅は叫びながら、シュートを防ぎに向かうが、放たれたシュートは、綺麗な弧を描き、ネットを揺らした。
相手チームは、ディフェンスにゆっくりと戻ると、ゾーンディフェンスで待ち構える。
「くっそ!」
雅は苛立っている。
ゴール下でボールを持ったキャプテンは、ポイントガードではなく、雅にパスをだした。
「雅。」
キャプテンは、呼びかけると、笑う。
雅は、小さく頷いた。
「さぁ、切り替えて一本いきますか!」
雅は、相手のポイントガードを真似て、天井に人差し指を向ける。
「こい!」
相手チームは気迫がすごい。
雅は、ゆっくりとドリブルでセンターラインを越えた。
そして、シュート態勢に入る。
「はぁ?」
相手チームのポイントガードは、血相をかいて雅に迫る。
パシュッ。
雅のシュートは、ゴールのネットを揺らした。
「やられたらやり返さないとな!」
雅は叫んだ。
「お前、気に入らねー!ぶっ潰す!」
プライドを潰された気分の相手チームのポイントガードは、不機嫌そうだ。
オーーー!!!!
試合開始早々、展開が面白すぎて、観に来ていた観客達は大興奮だ。
「か、カッコいぃ。」
花蓮は、雅に見惚れている。
「雅、すごいね。」
「うん、ほんとすごい。」
ダムダムダム。
ゆっくりとドリブルでセンターラインを越えたポイントガードに、雅は迫る。
「ちっ、マンツーに切り替えやがったか。あのまま打ち合いってのも面白いと思ったのによ〜。」
「バーカ、もう打たせねーよ。」
相手チームは、雅達を崩そうとパスを回すが、半年前とは比べ物にならない守りで一向に崩れない。
「あ〜!ムカつく!」
「あと5秒で時間切れだぞ?」
雅がさらに挑発すると、
相手チームのポイントガードは、ドリブルしたまま、雅に背を向け、ゴールと反対に走る。
「はぁ?」
雅は、何をしようとしているのか分からず、戸惑ったが、追いかけようとした。
相手選手は、背中に目でもついているかの様に、ゴール付近にボールを高く投げた。
見えにくい動作で、離れた選手からはボールが投げられたのが見えていない様だ。
「秘策だよ。」
振り向くと、ニヤニヤと勝ち誇っている。
投げられたボールが落下し始めるが、キャプテンは気づいていない。
「キャプテン!上!」
キャプテンが頭上のボールに気づいた時には、相手のセンター選手が高く飛び、ボールを掴んでいた。
ガタン!
そしてそのまま、ゴールにぶち込んだ。
「おぃ、おぃ、高すぎだろ。
ダンクってNBAかよ。」
雅は、あっけにとられている。
「見たか!」
ポイントガードの選手は、雅に叫んだ。
「あぁ、見た、見た。すごいな。
でも、負けねぇ!」
雅は叫び返す。
「雅、行くぞ!」
「はい!」
キャプテンは切り替えて、ボールを掴んだ。
3年生のポイントガードにボールが渡り、攻めに転じる。
相手の守りも、半年前より格段に硬くなっている。
「くそっ!」
雅達は、突破口を見出せず、苦戦する。
ブー。
攻撃時間の時間切れをブザーが知らせる。
「くっそ!」
雅は悔しそうに、床を踏む。
「雅、切り替えろ!」
ゆっくりと攻めて来ていた相手チームは、突然、素早く動き出した。
パシュッ。
的確なパス回しで、一瞬の内に、ボールはゴールのネットを揺らした。
「ダメだ。タイムアウト!」
キャプテンが叫ぶと、ブザーが鳴る。
「ねぇ。分からなかった。なんでこっちが攻めてるのに、相手チームのボールになったの?」
妃鞠は細かいルールについていけていない様だ。
「攻撃には時間が決められてて、それを過ぎてもシュートしてないと、相手チームのボールになるの。
あと、タイムアウトは、流れを変えたい時とか、どうしても話したい時とかに取る休憩みたいな感じかな?」
「成る程。」
キャプテンは、何やらタイマーの所へ駆け寄り話している。
すぐにベンチに座り、何かを話している様だ。
妃鞠がベンチを、見つめていると、涼がジャージを脱いでいる。
「ねぇ!花蓮、見て!涼でるかも!」
「うん、出そうだね!」
二人はうれしそうに微笑む。
雅達の高校には、監督がいない。
ベンチの端で、急出勤の教師が、いい感じで負けるのを機嫌悪そうに期待している。
雅は、だからこの高校に決めた。
自分達で切り開く勝利、未来、そして全国。
それが雅の憧れた未来。
「よし!いくぞ!」
キャプテンが吠える。
「おーーー!!!!」
「見て!涼がコートに!」
「良かったね!雅、嬉しそう!反撃開始だね!」
「うん!」
花蓮と妃鞠は、嬉しそうに見つめ合った。
ダムダムダム。
「さぁ!一本いきますか!」
涼はご機嫌に叫ぶ。
「補欠が、何を吠えてる?さぁ、こい!」
ポイントガードと見た涼につく相手チームの選手は、さっきまで雅についていた、相手チームのポイントガードだ。
「雅につかなくていいのか?俺の見た所、雅を止められるのはお前くらいだが?」
「俺がお前からボールを奪えば済む。」
ニヤリと相手選手は笑う。
ダムダムダム。
「やってみろよ。」
涼は、相手選手を抜きにかかった。
「低っ、しかも速い!」
涼は、一瞬で相手チームのポイントガードを抜き去ると、センター達に囲まれる。
涼は、回転しながら飛ぶと、ゴールに背を向けたまま、ボールを投げた。
涼の投げたボールでは、回転を帯びたまま、体育館の天井近くまで飛んだ。
回転の止まったボールは、そのまま落下し、ゴールのネットを揺らす。
「よしっ。」
涼は、小さく呟く。
「な、何だあれ!」
相手チームのポイントガードが叫ぶと、会場は盛り上がる。
おーーー!!!
「見た?花蓮!涼!すごい!カッコいぃー!」
妃鞠は感動の余り、涙ぐんでいる。
「すごいね!反撃開始だ!」
花蓮も嬉しそうにする。
「よっしゃー!俺の時代きたー!」
涼は、ディフェンスに戻らずわざとらしく喜んでいる。
「涼!戻れ!」
キャプテンは叫ぶ。
相手チームは、不機嫌そうに、ゴール下からパスを出した。
横目で様子を見ていた涼は、瞬時に反応して、パスを奪った。
そのままドリブルで走ると、涼は、ゴールのネットを揺らした。
「これで逆転だ。」
涼は、冷静に戻り、相手チームを挑発する。
「何やってんだよ!」
「す、すまん、バカだと思って油断した。」
相手チームは言い合いをしている。
涼は、ディフェンスの配置に走って戻った。
「涼!」
雅が呼びかけると、涼は手を高くあげる。
雅は、涼の手にパチンと、ハイタッチした。
「よっしゃー!勝つぞー!」
「おぅよ!」
雅と、涼は笑い合う。
ここから、涼に揺さぶられた相手チームはぐずれ出す。
ブー。
第一クウォーターが終わり、雅達のチームが10点差を付けつつ、休憩に入った。
「勝った、勝ったでしょこれ!」
妃鞠は嬉しそうだ。
「妃鞠、涼くんにご褒美あげないとね。」
花蓮は茶化す様に言う。
「あー!もぅ、何でもしてあげるー!」
妃鞠は、興奮状態だ。
「花蓮も雅にご褒美あげなよ〜!」
「そうだね。」
花蓮は、何か決意をしたような、少し険しい顔をして言った。
二人はこの時、勝負の厳しさを理解できていなかった。




