23.知らないフリと、サプライズ計画。
「今日さ、部活終わったら行きたいとこがある。」
「う、うん。」
まだ窓の外は薄暗い。
雅の朝練に合わせて、テーブルに並べられた朝ご飯を食べながら、雅と花蓮は見つめ合う。
「じゃぁ、部活終わりに体育館前に行くね。」
「うん・・・今日はどこに行くとか聞かないんだな。」
「えっ!?あ、うん、買い物とかかと思ったけど?」
「あ、あぁ。そんなとこ。」
「う、うん。」
サプライズを目論む雅と、大体全てを把握している花蓮は、ぎこちなく会話する。
「ごちそうさまでした。
じゃぁ、朝練行くわ!」
「うん。いってらっしゃい。」
「いってきます!」
雅は笑顔で学校に向かった。
「あっぶね〜!いらん事言って口を滑らすとこだったー!」
雅は、日課のランニングをしながら学校へ走った。
「はぁ。雅くん、私がサプライズに気づいてると知ったらがっかりするだろうな。記憶を操作できればな〜。」
花蓮は、食器を洗いながら独り言を呟いていた。
そして、夕暮れ時。
体育館の前で、いつもと違い花蓮は少し緊張して待っていた。
「お待たせ、行こうか。」
「う、うん?なんでジャージ?カバンは?」
いつもは制服に着替えるジャージ姿の雅を、花蓮は不思議そうに見つめる。
「ちょっとな。」
「まぁ、いいけど。」
花蓮は、不器用な雅になるべく深く聞かない様に気を使う。
「こっちだ。」
雅は、学校の裏山の方へ花蓮の手を引く。
「うん。」
「えっ?ここ?」
「うん。」
花蓮は、雅に手を引かれ、一番上が見えない石で仕切られているものの、土むき出しの階段の前に立っている。
「私、登山できるカッコしてないのですが。」
「問題無い!さっ!」
雅は、花蓮の前に背中を向けてかがむ。
「さっ?何?」
「乗れ!」
雅は顔だけ振り返り、笑顔で言う。
「う、うん。」
花蓮は恐る恐る雅の背中に乗った。
「うっ、これは、色々マズイ。」
「雅くんが乗れといいましたが?」
「よっ。」
雅は、掛け声と共に、花蓮を背負って立ち上がった。
「煩悩よ静まれ〜。」
「頑張れ・・・ねぇ、まさか、私を背負って、この階段登るつもり?」
「あぁ。そうだ。いくぞ?」
「う、うん。」
ハァハァハァ。
雅は、階段を一段一段、必死に登る。
「ねぇ。」
「何だ〜?」
「歩くよ?」
「ダメだ!この階段を、花蓮を背負って登るって決めたんだ!」
「そ、そう。」
「そう。」
ハァハァハァ。
「あっ!あれ!頂上じゃない?」
「本当だ!ハァハァハァ。」
「あと一段!」
「あー!!」
雅は、頂上に着くと、叫びながら花蓮をおろした。
「ハァハァハァ。」
「大丈夫?」
「うん。なんとか。アレ、アレを見せたかった。」
雅は、木が生えていない、開けた方を指さした。
「わぁ!綺麗!」
花蓮の目には、チカチカと輝く夜景と、星空が写る。
「こんな所があったんだ!雅くん、あっち行こ?」
「あぁ。」
二人は、手を繋いで、展望台に登る。
「綺麗〜。」
花蓮は、酔いしれる様に、景色を回す。
「明日も学校だから、遠くにいくのは無理だったから、いつも見てる街だけどな。」
「うん、ありがとう。素敵な誕生日だ。」
花蓮は、嬉しそうに微笑む。
「やっぱり意識してたんだ。言ってくれよ〜。妃鞠が教えてくれなかったら、俺知らなかったんだぞ?」
「ごめん。雅くんの誕生日は?」
「俺は、8月。」
「何日?」
「21日だ。」
「一緒だね。21日。」
「そうだな・・・花蓮!」
「はい。」
「誕生日おめでとう。」
「ありがとう!」
花蓮は、嬉しそうに微笑む。
「でも、何で私を背負って登ったの?」
「それはだな・・・この山を花蓮を背負って登りたいと思ったのは。」
「思ったのは?」
「この景色を見せたいと思った時に、花蓮に登らせるのは申し訳ないと思ったんだ、だから、背負うか。って思ったんだけど、背負って登りきったら、自信が付くと思った。
だから、言う!
俺は、花蓮に色々助けてもらってる。
だから、花蓮が大変な時は、花蓮の事、俺が背負ってやる!
だから、ずっと一緒に歩いていこう。」
雅は、ポケットから箱を取り出し、花蓮の前に開けながら差し出した。
「指輪?」
「うん。婚約の証。
今は高い指輪は買えないけど、いつか、ちゃんとしたの渡すから。」
「うん。ありがとう。ずっとの指輪でもいい。うれしい!」
花蓮は雅を見つめ、微笑む。
「付けていい?」
「はい。」
花蓮は、左手を差し出した。
「え?左手?」
「だって婚約の証なんでしょ?」
「う、うん。」
「覚悟しなさい。」
雅は、躊躇無く花蓮の左手の薬指に指輪をつけた。
「覚悟なんてとっくにしてる。
花蓮こそ、覚悟できてるのか?」
「もちろん!」
花蓮は、雅の顔に近づき、キスをした。
「旅行以来だな。」
雅は照れくさそうにする。
「モミモミもしますか?」
「そ、それはまたの機会に。」
「分かった。」
雅は、少し俯く花蓮の顔に手を当て、もう一度、キスする。
二人は微笑みあった。
「花蓮。」
「な〜に?」
「いい雰囲気の、しかも誕生日の所、大変申し訳ないんだが。」
「何?」
花蓮は、何を言い出すのかと、不安そうにする。
「実は。」
「実は?」
「涼と妃鞠が、俺の荷物を持って、俺の家の前で待っている。」
「はい!?急いで帰らないと!」
「うん。」
「・・・もう1回だけ。」
花蓮は、照れた顔で雅を見つめる。
「うん。」
雅は、花蓮を抱きしめて、キスをした。
少し見つめ合うと、花蓮はパチンと手を叩く。
「夢の時間はおしまい!急ごう!」
「そうだな。涼は大丈夫だろうけど、妃鞠はカンカンに怒ってるだろうな。言ってないし。」
「えー!涼くんだけにしか頼んでないの?」
「う、うん。」
「それはマズイわ〜。帰りは歩くね。
自分の足で歩く事もできますから。
でも、この先、疲れた時は背負ってね。」
「任せろ!」
二人は、手を繋ぎ、階段を一段一段おりて行った。
「あ〜!帰ってきた!雅!ふざけんなよお前ー!」
案の定、妃鞠はカンカンに怒っている。
「花蓮、お誕生日おめでとう!」
妃鞠は、切り替えて、花蓮に笑いかける。
「ありがとう。妃鞠、涼くんも、ごめんなさい。」
「いいのよ〜。花蓮のためだし。それにしても、雅はもう少し頭使いなさいよ〜。なんで私達がカバン持って、オードブルとケーキ買いに行かないとダメなのよ!」
「悪い。ステーキ食ったんだから、許してくれよ。」
「まぁ、花蓮のためだし多めに見てやる。あっ、でも涼には今度、何かおごるのよ?」
「もちろんです。
涼様と、妃鞠様には感謝しております。」
「調子いいわね〜。」
あはははっ!
「さっ!時間無い!パーティーしましょ?」
「えっ?」
花蓮は驚いている。
「花蓮の誕生日パーティーよ。
早くいこっ!」
妃鞠は、花蓮の手を引いて雅のマンションに入って行く。
「涼、ありがとう。」
雅は、改めて涼にお礼を言う。
「全然。花蓮ちゃん喜んだか?」
「あぁ、サプライズ大成功だ!」
「良かったな。俺達も早く入ろうぜ!」
「そうだな。」
こうして、花蓮の気付かないフリの努力もあり、サプライズは大成功した。




