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消しゴムを貸しただけで。  作者: 蓮太郎


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2/10

2.保健室の女神。

ダムダムダム。

キュッ、キュッ、キュッ。

バスケットボールが跳ねる音。

体育館の床にバッシュがこすれる音。


あぁ、この音。

たまらん!


試験勉強期間から1週間以上お預けを食らっていた雅は、興奮の中にいた。


「アップ終了。試合も近い!

今日は、試合形式で進める。

チーム分けはこれだ!」

キャプテンがホワイトボードを叩く。


「おーやったぞ!試合!試合!」

雅は嬉しそうに、涼に言う。


「俺は出れないしな〜。」


「す、すまん。」


「バカ、すぐ追いついてやるよ!」


「そうだな。涼と試合出たら楽しいだろうなー!」

雅は、目を閉じて想像する。



「おい!雅!早くコート入れ!」


「は、はい!」

想像に引き込まれていた雅は、キャプテンに呼ばれ、急いで配置に付く。


ピー。

笛の音と共に、コートの真ん中でボールが投げられる。

バスッ。


「よし!専攻はこっちだ!」

同じチームの部員がボールを取ったのを見ると、雅は走る。

「雅ー!」


雅にパスが渡り、ゴール前での一対一。


雅は、先輩部員を前に、ドリブルで抜きにかかる様に見せ、揺さぶられた先輩部員を前に、高く飛び上がる。


パシュッ。


雅の放ったシュートは、正解にゴールをとらえ、ネットの音だけを鳴らした。


「よっしゃー!」


「くっそー!」

先輩部員は悔しそうにボールを手に取る。


一軍と二軍の試合は、もちろん雅のいる一軍優勢で進んでいた。


「ん?池下?」

雅の視界の端。

体育館の開いた窓の向こうに、花蓮の姿が写る。

「帰ったんじゃなかったのか?」


「雅ー!」

ドスッ。

バタン。

一瞬気を抜いてよそ見した雅の顔面に高速パスが直撃する。

雅は、衝撃で顔から倒れ込んだ。


「雅!大丈夫か?」

パスを出したキャプテンが駆け寄る。


「だ、大丈夫です!すいません!」


「・・・大丈夫じゃないな。」


「えっ?」

雅は、ヒリヒリと痛むおでこを触る。

「血だ。」


「血だ、じゃねーよ。何でよそ見してたんだ?」


「すいません。」


「まぁ、いいわ。保健室行って来い。

お前は、大切な戦力なんだ、怪我は勘弁だぞ。」


「はい。すいません。

すぐ戻ります。」

雅は、仕方なく保健室へトボトボと歩く。


あー。せっかくの試合なのに。

なんで池下に気を取られてしまったんだろう。


雅は、俯き、反省しながら保健室のドアを開ける。


「失礼しまーす・・・誰?」

雅の視界の先には、長い髪を結い直そうとしている美人が立っていた。


「ちょ、ちょっと!大丈夫?」

美人は髪を結うのを中断して、長い綺麗な黒髪をゆらしながら、心配そうに駆け寄る。


「大丈夫、大丈夫。先生、バンソウコウ下さ〜い!」

雅は、美人はさておき、おでこから流れる血を止めたかった。

白いTシャツにも血が付いている。


「先生今いないの。す、座って!

と言うか、バンソウコウでなんとかなるのそれ?」


「なるだろ?早く試合に戻りたいし。」


「バカなの?今日は安静にしなさい。」

美人は、雅に呆れながらも椅子に座らせると、向かいの椅子に座り救急箱の中をあさる。


「見えない。メガネどこ置いたか分からないし。」

美人は小さい声で呟いている。

どうやら視力に難ありの様だ。


「それボケてんの?ツッコんだ方がいいやつか?」

美人の顔から救急箱までの距離、約5センチメートル。

雅は、美人を不思議そうに見つめる。


「ち、違うよ!あっ!あった。」

美人はお目当ての消毒液を見つけると、体を起こし、雅の顔に顔を近づける。

おでこの傷を見ている様だ。


「えっ?」

雅は驚いて少し離れた。


「ちょっと、手当できないでしょ?」

美人は何事もないように言う。


「い、いや、顔近すぎるって。」


「いいから。」

美人は、雅の腕を引き、顔を再び近づける。


「分かったよ。」

雅は、目を閉じて、黙って手当を受けた。


「よし!見かけより大したことなかったよ。血だらけで入ってくるからびっくりした。」

消毒をして、バンソウコウを貼り終えた美人は、安堵の表情を浮かべる。


「あ、ありがとう。君は?

タメ口でしゃべってたけど、上級生?」



・・・気付いてない?

メガネ無しの私の事覚えてないし、気付かないなんて、少しショックだな。

でも、バレたくないし、秘密にしよ。

「秘密。」


この美人、牛乳瓶では無く、メガネを取り、髪をほどいた花蓮だった。


「秘密って何だよ?教えろよ。」

雅は、不満気に花蓮を見るが、

花蓮の視界は顔が認識できない程ぼやけている。


「・・・試合、終わるよ?」


「あーー!!ヤバい!俺、行くわ!

ありがとう!」

雅は足早に保健室を後にした。


「まったく。バスケバカ。頑張れ。」

花蓮は、小さく呟いて立ち上がると、ゆっくりと歩いてメガネを探した。

「あったー!視界良好!」


花蓮は、髪を束ると、先生に任された保健委員の手伝いを再会するのだった。


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