13.初めて入る女子の部屋。
チュンチュン。
小鳥のさえずりが聞こえてくる。
「ゔ、う〜ん。」
雅は、目をゆっくりと開いた。
・・・俺、寝られたのか。
あ〜。池下、以外と寝相悪くて、途中で離れてくれたんだったか。
まぁ、何発か蹴りを食らったが、寝ぼけていたし、それほど痛くは無かったが。
体に外傷は無いだろうか?
雅は、ゆっくりと体を起こす。
うん、痛いところはない。
ふと、隣を見ると花蓮がいない。
「もう起きたのか?」
部屋を見回すと、キッチンにいた花蓮と目が合った。
「おはよ!」
「あぁ、おはよう。」
雅は起き上がり、キッチンに向かう。
「着替えたんだ。」
「うん、昨日洗濯したの乾いてたから。
何〜?ちょっと残念だった?」
「ま、まぁ。」
「あら、正直ね。」
「うるせっ・・・おっ!朝ご飯か!」
「まぁね〜。もうできるから、座ってて。」
「うん。」
テーブルに目を向けると、卵焼きとほうれん草のお浸しが置かれている。
嬉しそうに雅は座る。
「はい、お味噌。あとご飯も温まってます。」
「いや〜何だか、新婚生活みたいだな。」
雅は、嬉しそうに花蓮の作った朝ご飯をみつめている。
「・・・新婚って。」
顔を赤くして花蓮は俯いた。
「食べていい?」
照れた花蓮に気づくことなく、雅は満面の笑みを花蓮に向ける。
「ど、どうぞ〜。」
花蓮は少し不機嫌そうにしたが、雅は、朝ご飯の魅力にとりつかれている様だ。
幸せそうに卵焼きをほうばる雅を見て、花蓮はニコッと笑った。
「ねぇ。」
「何?」
「何もしなかったね。」
「ゲボッ、ゲボッゲボッ。」
「ちょっと大丈夫?はい、お茶。」
ゴクゴクゴク。
「はぁー。いきなり変な事言うなよ。」
「だって、それなりの覚悟はしてたから。」
「えっ?良かったの?」
「ダメだけど。まだ。」
「だろ?」
「・・・あっ、そうだ。私、寝相悪かった?」
ちっ、告白させる様に誘導するつもりが、上手く引き出せないばかりか、まだとか言ってしまった事に焦って、話題を変えてしまった。
花蓮は少し悪い顔をしている。
「あ〜。何発か蹴りをもらったのを寝ぼけていたが覚えている。」
「や、やっぱり。ごめん。
小さい時からお母さんに言われてて、でも自分じゃどうしようもないし、一人まで寝るようになってからは、なおったかのかどうかも分からなかったから。」
「まぁ、大丈夫だ!俺は鍛えてるからな!」
「ふふっ。ありがとう。
・・・ねぇ。」
「何だ?」
「顔見てないよね?」
「池下のか?」
「うん。」
「見てない、と言うかなんで顔見られたくないんだ?」
「そ、それは・・・諸事情というか。」
「まぁ、いいけど。見てもよくなったらそのメガネ外してくれ。」
「う、うん。」
後片付けを済ませ、二人はソファーに座る。
「そう言えばさ、池下の家、ここから近いのか?」
「近いよ。と言うか、昨日佐藤君は私の家の建物内に入りました。」
「・・・。」
雅は、昨日の事を思い出しそうと、記憶をまきもどした。
「・・・。」
「あの〜。鼻の下伸びてません?」
「黙ってくれ、今、記憶を順番に巻き戻している所だ。」
「明らかに、一時停止ボタンを何度か押してますわよね?」
「あら、一時停止ボタンではなくってよ?スロー再生ボタンですわ〜。」
「ふふっ。あはははっ!バカ。変態。」
「あー!!もしかして、まさか!スーパーの上?」
「正解です。」
「こんな近くに住んでたんだな!」
「私も昨日驚いた。」
「普通なら、スーパーで会ったりしてたのかもな。」
「そうね。スーパー初めて言ったって言ってたもんね。」
「そうだな。俺の行動範囲は、学校、コンビニ、ドラッグストアのみだったからな。」
「ほんと良く生きてこられたわね。」
「特に支障はなかったんだけどな。」
「こ、これからは、私がちゃんとできる様にしてあげる。」
花蓮は、少し不安そうに呟く。
「有難い!」
雅の向ける満面の笑みに、花蓮は嬉しそうに笑い返した。
「さぁ!それじゃあ約束の炊飯器を買いに行きますかー!」
雅は、立ち上がると、服を脱ぎながらクローゼットに向かう。
「い、池下?」
上半身裸になった雅の背中に、花蓮は抱きつきながら顔を押しつけた。
「昨日言ったよね?服着てって。」
「あっ、ごめん。でもこれは?」
「いう事聞かない子にお仕置きです。」
「こんなのお仕置きにならないけど?
むしろ、ずっと服着ないぞ?」
「バカ。早く着替えて。」
花蓮は、腕をほどくと、雅の背中を優しく押した。
「はいはい。」
あー、下半身さん、大人しくしていて下さい。
こんなのが続くと、非常にマズイな。
と、言うか・・・聞き流してしまったが、さっき、池下、まだって言った?
よな?ちゃんとしたら、いいって事だよな。
雅は停止している。
「ねぇ、どうしたの?」
「い、いや、まだ問題の回答中だ。」
「何それ?」
花蓮は、言ってる意味が分からず、不思議そうにした。
二人は、家電量販店へと、向かう。
「演舞・・・これがいい。これしかない!」
「一番高いけど?」
二人は、炊飯器置き場の前で炊飯器を物色している。
「池下が作るおかずと、演舞。
・・・想像しただけでヨダレが。」
「私も、この炊飯器で炊いたご飯食べてみたいけど、高すぎない?」
「大丈夫だ!俺、物欲無いから、仕送りが繰り越し貯金され続けて、その辺の大人より貯金が貯まっている。」
「まぁ、すごいわね。」
「もっと少なくても良いって言ったんだけど、母さんが、寂しい思いをさせたせめてもの何とかとか言って、ずっと同じ額を振り込んでくれるんだよ。」
「・・・お母さんも佐藤君が寂しいのは気付いてたんだね。佐藤君が頑張るから甘えさせてもらったと思ってるんだろうね。」
「そう、だから、この炊飯器くらいは贅沢させてもらう。」
「じゃぁ、買おう!」
花蓮は嬉しそうに、演舞を抱きかかえる。
「持つ、持つ。」
雅は、花蓮から演舞を奪うと、レジに向かった。
二人は、演舞に巻かれたニ本のヒモを、一本づつ持ち、ワクワクしながら家に帰った。
演舞を家に置き、その後、スーパーで買い物をして、冷蔵庫に食材をしまった。
そして、今、雅は期待を胸に、スーパーの上のマンションのドアの前にいる。
ゴクリ。
雅は、ドキドキしながら、開けられたドアの敷居をまたいだ。
「おじゃまします。クンクン。」
ん〜。いい匂いがする。
「ちょっと!犬ですか!」
「はい。もう、あなたの犬になりたい。」
「何それ。変態の気配がちょいちょいするのですが。」
「うん。俺はきっと変態なんだ。
そして、君の犬。」
「もぅ、怖いからやめて。
早く入る!」
花蓮は、優しく雅の背中を押した。
「狭いな。」
「佐藤君の家が広いの。学生が住むには十分すぎるくらいよ。」
「そうか・・・ところで、変態公認ついでに、お願いがあるんだが。」
雅は、チラチラと花蓮のベッドを見ている。
「嫌な予感しかしないのですが?」
「そ、その。」
「何でしょうか?」
花蓮は、不審者を見る様な眼差しを雅に向ける。
「ベッドに寝ころんでいいでしょうか?」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・・。」
「・・・・・。」
無言の睨み合いが続く。
「あー!もぅ分かった!」
雅の捨てられた子犬の様な目に、花蓮は負けた。
「やったー!」
雅は、ゆっくりとベッドに座るとうつ伏せに寝ころんだ。
枕に顔を沈め、クンクンしている。
「変態ね。」
「なんとでも言えー!」
「匂いフェチだったのね?」
雅は、枕から顔を浮かせて、花蓮を見る。
「そう言う性癖はない。ただ。」
「ただ?」
「池下の匂いが集約されたこのベッドと枕にロマンを感じずにはいられない。」
「ロマンを変態色に汚すのはやめて頂けますか?」
「失礼。ロマンと言うのは適当だ。
今すべき事を今しなければ、後悔する。
そう思っただけた。」
「カッコいい風に言ってますが、あなた今、ただの変態にしか見えませんよ?
他の子のベッドに同じ事したら、嫌われますよ〜?」
「大丈夫だ。
池下のベッドだからしてる。
逆に他の子のベッドに同じ事するのは抵抗さえ感じる。」
雅は、終始、枕に顔を埋め、花蓮の香りを満喫している。
「それって?」
さぁ、告りなさい!
もう逃げ場所はありませんよ?
「・・・。」
さぁ!さぁ!
花蓮は、雅の次の言葉を待っている。
「俺さ。」
「うん。」
「以外とロマンチストなんだよ。」
「ん?」
不穏な空気?
「だから、変態好意を満喫している今する話じゃないな。」
「そ、そう。」
ちっ。交わされたか。
でも、今って事はそのうち?
でも、もう限界なのよね。
「変態さん。」
「何だ〜?」
「仰向けになって。」
「何でだ?」
バサッ。
不満気に仰向けになる雅の上に、花蓮は乗りかかり、抱きついた。
「おっ!おぃ?!」
「この方が良くない?本物の香りを堪能せよ。」
花蓮は、雅の頭と、枕の間に顔を埋めるようになり、耳元で呟いた。
「こ、これだと、匂いが嗅げないのですが?」
やめろー!
やめてくれー!
もぅ、無理だ!
これで我慢するとか絶対無理だろ!
「ハァハァハァ。」
雅は、緊張と興奮で息が荒くなる。
「あらら〜、私のワンちゃんは息を荒げてどうしたのかしら?」
「池下ー。」
「なんですか?」
「俺はペットであり、変態であり、男だ。」
「知ってるよ。
ふふっ・・・何か私の太もものあたりに当たってる。」
「わざとだな?」
「・・・私が我慢できなかったのはここまでだけど・・・続きがしたいなら、嫌じゃないよ?」
「バカ。・・・今日じゃない。
今日じゃないんだ。
もし、子供ができて、二人の馴れ初め聞かれたら今日の事説明するのか?」
「・・・子供って。そんな先の事?」
「嫌だった?気持ち悪かったか?
・・・俺さ、父さんと母さんがどんなふうに付き合ったとか、プロポーズしたとか、聞いた事があるんだ。
二人は、幸せそうに教えてくれたし、今も仕事ばかりだが、仲はとてもいい。
まず恋ができないにも関わらず、俺も、そうなりたい。
ずっとそう思ってた。
だから、俺にとってそれは、大切な事なんだ。」
「・・・嬉しい。」
バサッ。
花蓮は起き上がると、ベッドから降りた。
「ごほんっ。私は、荷造りがあるから、変態君は枕の匂いでもかいでてくれたまえ!」
花蓮は、恥ずかしそうに言うと、クローゼットからタイヤ付きのカバンを引っ張りだしている。
「カバンでかくないか?」
「だって、しばらくの着替えとか、冷蔵庫の食材、鍋とかも足りないし、いっぱい運ばないといけないから。」
「ん?池下さん?聞き間違えでなければ、今日からしばらくここへは帰らないと言う事でしょうか?」
「そうですね。しばらく帰らない予定です。」
「そ、そう。」
「ダメ?」
「いいけど。」
「良かった。」
花蓮は、雅に微笑みかけると荷造りを始めた。




