12.逆に部屋が広いから仕方ない。
ソファーにぐったりと座る雅のとなりで、花蓮は温かいお茶を飲みながら、くつろいでいる。
「なぁ、そろそろ眠い。」
「あら、こんな薄着のレディーが隣りにいるのに、眠くなるものなのね。」
「そう言う事は言わないでくれよ。
考えない様にしてんだから。」
「触りたい?」
「・・・。」
「無視かよ。」
「寝るからベッドにいけ。」
「ちぇー。わかりました〜。」
不満気に、花蓮はベッドに寝転がった。
目を閉じると、ホラー映画の映像が鮮明に思い出される。
「・・・ダメだ。怖い。」
カチカチカチカチ。
無音の空間に鳴り響く時計の音が恐怖をあおる。
「あー!無理ー!」
ベッドで体を起こしながら花蓮は叫んだ。
驚いた雅は、ソファーの向こうから顔を出している。
「どうした?!」
「怖いんだよ〜。佐藤君が遠い。
なんでこんなに広いんだよ〜。」
「ここにいるから、大丈夫だ。
非科学的な存在はいないんじゃなかったのか?」
「・・・考えが変わりました。
奴らは多分、いる。」
「ははっ、あはははっ!
やっぱり池下面白いな。」
「笑い事じゃないんだよ〜。
・・・ここ、来て。」
花蓮は、ベッドの自分のとなり辺りをトントンと叩く。
「・・・やっぱりそうなるんだな。」
「やっぱり?」
「多少の覚悟と期待はしていた。」
「・・・何もしちゃだめだよ?」
「・・・。」
「おぃ。」
「善処する。」
雅は、不満気に言うとソファーから起き上がり、花蓮のとなりに寝ころんだ。
二人は、背中を向けて目をつむる。
「おやすみなさい。」
「うん、おやすみ。」
カチカチカチカチ。
「時計の音が怖い。」
「これ以上はどうしようも無いだろ?
頑張って寝ろ。」
ガサガサ。
「おっ、おい!池下!」
「お〜、これなら何とか寝られそうだ。」
花蓮は、何やらガサガサと動いた後、雅に背中から抱きついた。
「お、俺が寝れんわ!」
「メガネ取ったから、こっち見ないでよ?」
「人の話聞いてるか?」
「なんで?落ち着かない?」
「落ち着くか!当たってるんだよ。」
「うん。当ててるからね〜。」
「はぁ。早く寝ろ。」
雅は、諦めた様にため息をつく。
「私が寝たからってソファー言っちゃ嫌だからね。」
「分かった。」
ホラー映画見せるんじゃなかったー!
これは、嬉しいが、辛い。辛すぎる!
待て、これが数日続く場合、俺は・・・人間って何日寝ないと死ぬのかな?
まぁ、いいか。
明日のことは明日考えよう。
雅は、必死に目を閉じ、煩悩を断ち切ろうとした。
・・・眠れるわけない。
下半身さんがついに反応してしまった。
気づかれない様にしないと。
幻滅されるかも。
「佐藤君。」
雅が眠れずにいるのに気付いている花蓮は、話しかけた。
「はい!」
「ふふっ。」
「な、何で笑うんだよ。」
「分かってるから、大丈夫。
私がわがまま言ってるんだから、別に幻滅したりしないよ。」
「・・・心を詠んだのか?」
「そんな能力はありません。
ちょっと話そう?」
「え?うん。」
「佐藤君は、なんでそんなにバスケが好きなの?」
「何でか・・・バスケが俺を救ってくれたから?かな。」
「どんなふうに?」
「小学生になった時からかな。
父さんは産まれた時からだけど、母さんも、仕事に本格的に復帰してさ、俺はずっとひとりぼっちだった。
だんだん卑屈になってさ、友達付き合いもしなくなった。」
「寂しかったんだね。」
「すごく。何でも欲しいものは買ってくれたし、家政婦さんが世話してくれたから、何の支障もなかったけど、俺は貧乏でも父さんと母さんと毎日笑って過ごしたかった。」
「うん。貧乏にならないと分からない事は沢山あると思うけど、その気持ち、分かるよ。」
雅を抱きしめている腕に、花蓮は少し力を込めた。
雅は、花蓮の手を握る。
「で、三年生の時に一人寂しく公園を散歩してたんだけど、そこで、少し年上の兄ちゃんが、バスケしてたんだ。
すごく楽しそうでさ、カッコ良く見えた。羨ましそうに見てたら、一緒にやるか?って言ってくれて、それから一年間一緒にバスケしたんだ。」
「楽しかったんだね。」
「うん。楽しかった。
でも、兄ちゃん達は、中学生になって部活が始まって、公園に来なくなった。
でも、一番良くしてくれた兄ちゃんがさ、最後に公園に来た日に、自分のボールをくれたんだ。
また一人になったのは寂しかったけど、バスケをしてる時は、寂しいのを忘れられた。
だから、毎日、毎日、ボールがボロボロになるまで一人でバスケしたんだ。
ボールがボロボロになったら、何個でも買ってくれたし、有難い話だけど、寂しかったよ。
でも、中学生になって、仲間ができて、一緒にバスケをする様になったら、毎日が楽しくて、寂しさなんて吹き飛んだ。
だからバスケが大好きになったんだ。」
「そっか。佐藤君がバスケに出会えて良かった。
あの棚の上のボール、もしかしてそのお兄さんにもらったボール?」
「そう。もう使えないけど、宝物なんだ。」
「素敵。」
「あぁ。」
「スー。スー。スー。」
「寝た?」
・・・寝たな。
あ〜、長い夜になりそうだ。
雅は、棚の上のバスケットボールを見て笑顔になった。
来週からまたがんばろう。
「池下、ありがとな。大事な気持ちを思い出したよ。」
雅は小さく呟いた。




