11.ホラー映画は禁止。
「いやー!久しぶりに手づくりの料理を食べたよ。ありがとう。」
「どういたしまして。」
二人は、後片付けを終え、ソファーでくつろいでいる。
「風呂入る?」
「えっ?一緒にってこと?」
「はぁー!違うわ!」
雅は焦っている。
「ふふっ。冗談だけど?」
「過激な冗談はよせ。
罰として、本当に一緒に入るぞ。」
雅は真面目な顔をして、花蓮の腕を掴んだ。
「えっ?ちょっと!」
花蓮は焦った表情をしている。
「ははっ。あはははっ!焦ったか?
やられたら、倍返ししないとな。」
「む〜。」
花蓮は膨れている。
「あっ・・・服が。」
「あぁ、俺ので良ければ貸すけど?」
「服は借りたとして、下着が。」
「・・・そ、そうか。やっぱり今から送ろうか?」
「無理!しばらく一人で寝れないよ!」
花蓮の脳裏にあの旋律の映像が繰り返し蘇る。
「じゃあ。」
雅は立ち上がると、クローゼットを物色し始める。
「この色なら透けないだろ。」
「薄いね。」
花蓮は、雅の差し出した服を不満そうに見ている。
「ここ、割と高級マンションだから、夜暑いんだよ。俺なんて、年中半袖と短パンで寝てるからな〜。」
「まぁ、いいわ。じゃあ、入ってくるね。」
「あ、あぁ。」
花蓮は、脱衣場ドアを閉めた後、再びドアを開ける。
「のぞくなよ。」
「お、おぅ。」
花蓮は、服を脱ぎ浴室に入り、ドアを閉めた。
「・・・。」
脳裏にまた、ホラー映画の映像が流れ出す。
「無理だ。」
ガチャ。
花蓮は、浴室のドアを少し開けた。
「佐藤く〜ん。」
花蓮が呼ぶと、雅が近づいて来る足音がする。
「どうした?」
脱衣場のドアの前で雅が呼びかける。
「そ、その。入ってきて。」
「はい?」
「冗談じゃくて、本当に。」
ガチャ。
雅は恐る恐る脱衣場のドアを開けた。
浴室のドアの少し開いた隙間から花蓮の目が覗いている。
隠れているつもりの花蓮だったが、雅からは、スリガラス越しに花蓮の体がうっすら見えていた。
「おっ、おい!」
雅は、目をそらした。
「えっ?・・・キャッ。
・・・見えてた?」
「い、いや。薄っすらと。」
「バカ。エッチ。」
「不可抗力だ。で、何だよ。」
ドアの隙間から花蓮の白い腕が出てくる。
「そこ、そこにいて。」
「・・・もしかして、怖いのか?」
「・・・はい。」
「はぁ。分かった。」
「ありがとう。」
ガチャ。
雅がドアの横に座ると、花蓮は安心してシャワーを出し、体を洗い始めた。
・・・下半身さんが、反応しそうです。
池下さん、これは拷問ですか?
「佐藤君、いる?」
「はい!」
「はい!ってどうしたの?」
「バカ、この状況は色々大変何だよ!」
「・・・ごめん。お経でも唱えてて。」
「南無妙法蓮華経〜。」
「ふふっ。本当に唱えた。」
「いいから早く終わらせてくれ。」
「はぁ〜い。」
雅は、拷問に耐え続けた。
「佐藤君、出る。」
「あ、あぁ。」
ガチャ。
雅は、ようやくと言う気持ちで、脱衣場を出て部屋に戻ろうとした。
「佐藤君!」
「今度は何だ?」
雅は、疲労困憊している。
「ドアのとこにいて。」
「はいはい。雅は、諦めてドアの横に座る。」
ガチャ。
しばらくすると、ドアが開いた。
「お待たせ。ごめんね。お風呂どうぞ。」
「うん・・・えっ?」
「どうしたの?」
雅の視線は、下着を付けずに雅の服を着た花蓮の胸元に引き寄せられる。
ポインッ。
「あぁ、これ?」
「風呂で一体何が?」
雅は、真剣な顔で考えている。
「いつもは小さく見せる下着を付けてるの〜。」
花蓮は軽蔑の眼差しを送る。
「そんな技術が・・・と、いう事は、それが池下の本当の姿だという事か。
ん?盛るのはしってるが、あえて小さく見せる必要はあるのか?」
雅は、顎に手を当てながら花蓮のそれを見つめる。
「見すぎ!」
花蓮は胸元を隠した。
「色々あるの。」
「そっか。
それにしても、服、薄かったな・・・透けなければいいと言う物でも無かった。
俺は今日、約束を守れるだろうか?」
「そう言うのは、心の中でこっそり思ってもらえるかしら?
我慢はするけど多分無理宣言に聞こえて危険を感じるのですが?」
「まぁ、頑張るよ。風呂入る。」
「う、うん。」
トントントン。
雅が脱衣場で服を脱いでいると、ドアがノックされる。
「どうした?」
「今日は、一人になるとまずいみたい。
ドアの前に座ってていい?」
「はぁ。ホラー映画はもう禁止だな。
入っていいぞ。」
「う、うん。」
花蓮が脱衣場に入ると、雅はシャワーを浴びていた。
「背中大きいな。」
花蓮は、スリガラス越しに見える雅の背中を見つめ、小さく呟いた。
花蓮は、雅の背中をしばらく見つめていた。
「池下、でるぞ?」
「うん。」
「いや、廊下に出てもらえないでしょうか?」
ガチャ。
浴室のドアが開き、バスタオルを持った花蓮の手が隙間から差し込まれる。
「とりあえず拭いて。
・・・私が一人になる時間をなるべく減らす努力をしなさい。」
「・・・えらく上からおっしゃいますね〜。」
「お願いします〜!」
「はいはい。承知しましたー。」
雅は、体を拭き、花蓮を脱衣場から出すと、すぐに服を着た。下だけ。
「いいぞ。」
「遅い!って!上も着てよ!」
上半身裸でドライヤーを持った雅を見て、花蓮は目を伏せた。
「だって暑いし。我慢しろよ。」
「ゔ〜。着てくれないなら私も脱ぐよ?」
「お、おぅ。」
雅は少し嬉しそうにする。
「おぅじゃなーい!」
花蓮はさけびながら、籠に置かれた雅のTシャツを頭から被せた。
突然視界が暗くなり、バランスを崩した雅が、花蓮にもたれかかる様に倒れそうになる。
ドンッ。
雅はとっさに、壁に手を付き、もう片方の手で花蓮を抱き寄せた。
「おぃ、危ないだろ?」
「ふふっ。ごめん。顔が出てたらドキドキしたかもね〜。カッコが態みたい。」
シャツを顔に被ったまま、上半身裸の雅を見て、花蓮は笑う。
「あのな〜。」
シャッ。
花蓮は、雅のTシャツを引っ張り、顔を出させる。
「・・・。」
二人は見つめ合い、しばらく機能停止した。
「壁ドン、ありだね。」
ドキドキに耐えられなくなった花蓮が冗談めかして言う。
「はぁ。今日はご褒美デーなのか、厄日なのか。」
雅は、壁についた手を引きながら、花蓮を抱き寄せた腕もほどいた。
「きつい?」
「きっーついわ!」
「ごめん。」
「・・・別にいいよ。元はと言えば、俺がホラー映画見せたのが悪いんだし。」
「そうね。見るんじゃなかった。
・・・一人になると、ふとした時にあの映像が蘇るわ。」
「責任とって今日は一緒にいてやるよ。」
「あのさぁ。」
「何?」
「今日だけで許されると思ってたら甘いと思うよ?」
「明日も、あさっても、記憶が薄れるまでいるよ。」
「一生薄れなかったら?」
「・・・一生でもいいよ。」
「・・・。」
花蓮は、何も言わずに、嬉しそうに微笑んだ。




