10.秘密の断片。
「さぁ、何をつくろうかな。
佐藤君は何が食べたい?」
「特にリクエストは無い。ただ。」
「ただ?」
「池下の作る料理が楽しみだ。」
「あんまりハードルあげないでよ。」
「大丈夫だ!紫色の泡だった料理とかじゃなかったら美味しく頂くよ。」
「ふふっ。魔女的な?大丈夫、そこまで酷くはないから。」
「うん、期待してるよ。」
スーパーで悩みながら歩く花蓮の後ろを雅はカートを押しながらついて回っている。
「わっ!ジャガイモ安っ!
あっ、玉ねぎも!」
咄嗟に花蓮は、ジャガイモと玉ねぎを手に取る。
「う〜ん。カレーか・・・肉じゃがか。」
「肉じゃが!食いたい!」
悩んでいる花蓮に、雅は訴えた。
「母さんの肉じゃが、うまかったな〜。」
雅は、小さく呟く。
「プレッシャーを感じます。
お母さんの美味しい肉じゃがにかなう気がしないので、カレーにします。」
カレーの材料を探そうと歩き出す花蓮の手を雅は握る。
「なぁ、池下。」
「な、何?」
「肉じゃが、作って欲しい。」
「・・・分かった。美味しくなくてもがっかりとかしないでよ?」
「うん!」
雅の期待に満ちあふれた表情に、花蓮はドキッとした。
「肉じゃが、肉じゃが。」
肉じゃがが楽しみでならない雅は、肉じゃがの歌を作曲中。
スーパーから帰ってきた花蓮は、キッチンに立ち、肉じゃがを作っている。
その姿を雅は歌をくちづさみなが、嬉しそうに見ている。
「ねぇ。」
「何?」
「見すぎじゃない?恥ずかしいし、集中できないのですが。」
「ごめん。なんか良くわらんのだけど、嬉しくて。」
「そっ。あっち向いてて。」
「その期待には答えられない。
なんてったって好き・・・肉じゃが〜。」
危ない!好きな子が料理してる姿は男のロマンとかいいそうになったー!
「え?なんですって〜?」
い、今、好きな子がどうとか言おうとした?
キャー!咄嗟に言うのやめたけど、佐藤君顔赤いし〜。
雅は、火照る顔を隠そうと花蓮から顔を反らした。
「期待に答えられないんじゃないの?」
池下花蓮、追撃します!
「い、いや。ちょっと休憩。」
「早くポジションに戻らないと、チャンスはすぐにいってしまうよー。」
「それもそうだな。」
雅は、体を反転させて、花蓮に視線を送る。
「げっ。」
回復早すぎっ。
「げってなんだよ。」
「何でもなーい。さっ、できました。」
「おー!食べよう。」
「これから煮込むの。」
花蓮は、サッと洗い物を済ませると、雅の隣りに座った。
「お疲れ様。」
「うん、あんまり期待しないでね。」
「期待しかない。」
「もぅ。」
花蓮は少し困った様な顔をして俯いた。
「なぁ。」
「何?」
「池下、一人暮らしなんだろ?何で?」
「う〜ん。それは・・・えっと。」
「すまん。言いたく無いなら大丈夫だ。」
「少しだけ。私、色々あって地元にいたくなくなったんだ。でも、お父さんもお母さんも仕事があるから引っ越すのとかはできないから、一人で遠くの高校に通う為に。」
「そっか。」
「もっと仲良くしてくれたら、続き教えてあげる。」
それには色々問題あるんだけど・・・保健室の美人が私だと知ったら、佐藤君怒るかな。
「・・・もっと?」
雅は、何を考えているのか、顔が少し赤い。
花蓮は不審者を見る目で、雅を見る。
「ねぇ。」
「はい!」
ばっ、バレた?
「バレてますよ?」
「・・・。」
「黙るな。で、佐藤君は?」
「ん?」
「佐藤君は何で一人暮らし?」
「俺は、バスケのためだ!色んな高校を調べたけど、この高校で全国大会を目指したい、そう思ったんだ。
学力高めだったし、受験は必死で頑張ったら何とかなったんだけど、入学してからもこんなに勉強に苦労するとは思っていなかった。」
「ふふっ。勉強は私が教えてあげるよ。」
「本当か?!鬼に金棒だな!」
「ちょっと意味違うと思うよ。」
花蓮は呆れた視線を送りながらも、幸せを感じていた。
ピピッ。ピピッ。
雅の筋トレ用のタイマーが、肉じゃがの完成を知らせる。
「できたみたい。盛り付けるから、雅君はテーブルに運んで?」
「うん、任せろ!」
テーブルに並べられた料理を見つめ、雅は感動している。
「味噌汁付きじゃん!」
「ご飯は、まさかの炊飯器が無いから、チンするご飯だけどね。
炊飯器くらい買えば?」
「俺は使わないからな。池下が毎日作ってくれるなら、明日にでも買いに行くぞ?」
「じゃあ、明日買いにいきましょ?」
「うん、いいけど・・・ん?それって?」
「あんな冷蔵庫見せられたら心配ですからね。」
「いいのか?」
「えぇ。幸い、私の家はここから近いので。」
「そっか。ありがとう。
食べていい?」
「どうぞ。頂きます。」
「頂きます!」
雅は、期待に満ちあふれた表情で、肉じゃがをほうばった。
「うまい!うまいよ池下!」
「そ、そう。良かった。」
「母さんのとは違うけど、同立1位だ!う〜ん。味噌汁もうまい!」
「お味噌汁は、粉末出汁と味噌溶かせばできるから、誰でも同じだよ?」
「そうか?うまいけどな。」
「そう、嬉しい。」
花蓮がニコッと微笑むと、雅はドキッとした。




