6-7 無もない練兵
夜。砦の内側。
治療班の灯りが揺れ、薬草の匂いが壁に染みている。焚き火の赤が、鎧の影を濃くした。
ガルドが太郎とイルスを呼んだ。
ミラもいた。眠そうな顔をしていない。きっと寝ていない。
「今日、死んだのは二人だ」
ガルドが淡々と言った。
数字が喉に刺さる。太郎は返事ができなかった。
「だが、崩れて死んだやつはいない。昨日までなら、崩れて三人増えてた」
ガルドは焚き火を見つめ、短く息を吐く。
「線は使える」
イルスが小さく頷く。
「若いのが、声を出せるようになりました。逃げる前に、見る……それが効いてます」
ガルドは太郎を見る。
「明日から、出撃前の五分を正式にする。人数を増やす。第一小隊だけじゃない。前線に出るやつは全員だ」
太郎の指先が冷たくなる。
「俺、そこまで面倒見れるか……」
「面倒を見るな。型にしろ」
ガルドの言葉は短い。
「お前がいなくても回る形にしろ。イルス、覚えろ。明日からお前が前で言え」
イルスが息を呑む。
「俺が……?」
「お前は前で戦える。だから前で教えろ」
ミラが静かに口を挟んだ。
「縄の刻印、追加で用意できます。視覚で“線”を残したほうが早い。あと、訓練用の術式も増やす。痛みの調整もできる」
太郎は焚き火の赤を見つめた。
ここは異世界だ。武器も魔法も、命の軽さも違う。
でも、“回る形”が必要なのは同じだ。
「……分かりました」
太郎は頷いた。
言葉は軽くしたくない。軽くすると、明日が死ぬ。
「五分の言い回し、もっと削ります。誰でも言えるやつにする」
ガルドが一度だけ頷いた。
「明日も戦う。明日も死ぬかもしれん。だが、減らせる死は減らせ」




