1-2 魔族本部《クリフハウル》
しばらく歩くと、目の前に巨大な門がそびえ立った。
石を積み上げた頑丈な壁に、獣のような装飾。
塔のような部分もあり、まるで城だ。
「ここが魔族本部、《クリフハウル》です。」
隣の女性の魔族がそう告げると、門番らしき魔族がこちらを見て目を丸くした。
「柔角族だ……本当に連れてきたのか。」
「伝承だけの存在かと思っていたが……」
(そんなレア物扱いしないで……ただの会社員なんだけど……)
門をくぐると、中は想像と違って整っていた。
通路は広く、詰所や倉庫がきちんと並び、魔灯らしき青白い光が足元を照らしている。
ただ一つ、気になる点があった。
(……誰も、自分の角を触らないな)
何かにぶつかりそうになると、
魔族たちは体をひねって角を守るように動く。
女性の魔族が俺の視線に気づいた。
「気になりますか?」
「あ、はい……少し……」
「角は“身分・誓い・出自”を象徴する、大切な部位です。
折れれば大きな問題になりますし、粗末に扱うことは重い禁忌です。」
「そ、そうなんですね……」
(そんな大事なものを、俺は頭に……安物の……いや考えるのやめよう)
改めて頭が重く感じた。もちろん気のせいだ。
すれ違う魔族たちがひそひそ声を漏らす。
「柔角族……」
「角の形が珍しい……」
「外向きの形状……古い文献で見たことがある……」
(文献!? やめてくれ……俺の角はただの……オモチャ……)
「太郎さん。」
女性の魔族が説明を続ける。
「外へ向かう角の形状は“開示の角”と呼ばれ、
“心を開き、真実を示す者”の象徴とされています。」
「……そうなんですか……」
(いや違うんだよ……デザインの問題なんだよ……)
すると、またカチューシャが“ぴょん”と揺れた。
歩くタイミングと重なっただけだ。
「……見ましたか?」
「誠実な心に、角が反応している。」
(揺れただけなんだってば……!)
「太郎さん。」
女性の魔族が足を止めた。
目の前には、ほかの部屋より重厚な扉。
「ここが《精査の間》です。
柔角族として、いくつか確認させていただきます。」
「確認……ですか……?」
「はい。角の反応、身体の状態、言葉との整合性など。
痛いことはしませんので、ご安心ください。」
(いや……痛いかどうかより……バレたらどうなるんだ……)
でも逃げる選択肢はない。
連れてきた魔族たちの視線が後ろから圧をかけてくる。
太郎は、いつもの会社でのように、
控えめに頭を下げた。
「……わかりました。
よろしくお願いします。」
その丁寧な一言が、また周囲の魔族の印象を良くする。
「やはり柔角族は礼を知っている……」
「珍しいが、とても柔角族らしい者だ……」
(いや、ただの癖なんだけど……)
静かに息を吸い、
太郎は《精査の間》へ足を踏み入れた。




