1-1 連行
「歩けるか、太郎。」
腕をつかまれたまま歩かされながら、俺は現実感のない景色をぼんやりと眺めていた。
さっきまで、普通にハロウィンの帰り道だったはずだ。
今は見知らぬ石畳に、古い塔の影。
街灯も車もない。
(……夢じゃないよな?)
「えっと……どこに連れていくんでしょうか?」
思わず丁寧に聞いてしまう。
会社でも目上の人間にこういう話し方をする癖が抜けない。
「本部だ。」
「本部……?」
聞いたところで意味は分からないが、
どうにも“よくないところ”な気がする。
隣を歩く落ち着いた声の女性らしき魔族が口を開いた。
「太郎さん。
あなたは柔角族として保護されます。安心してください。」
「柔角族……?」
「はい。角がその証拠です。」
(いやこれ、ハロウィンのカチューシャなんだけど……
なんで外れないんだ……)
頭の“悪魔角カチューシャ”は、
気味が悪いくらいしっかり張り付いていて、先ほどから何度触っても外れなかった。
(汗でくっつくとか……絶対そんな構造じゃないだろ……)
触るのすら怖くなってきた。
歩きながら女性の魔族が続ける。
「柔角族は誠実で、争いを好まない種族と伝わっています。
太郎さんからは、嘘をつくような気配がありません。」
「は、はぁ……」
(いや……普通に会社で生きてただけなんだけど……)
そのとき、カチューシャが“ぴょん”と揺れた。
歩いた反動なのだが、魔族たちは敏感に反応する。
「……今の揺れ、確認できたか。」
「誠実さの証だ。」
(いやただ揺れただけ……頼むから過剰解釈しないでくれ……)
太郎は困惑しているだけで、
余計なことを言わず、丁寧で、礼儀正しい。
その“会社員的な性格”が魔族には“誠実”に映っている。
やがて女性の魔族が言う。
「太郎さん、角に触れないように注意してください。
魔族にとって角は大切な部位です。粗末に扱うのは禁忌です。」
「は、はい……気をつけます……」
(こんな安物なのに……扱いが重すぎる……)
本当はズレてきているのを直したいが、
怒られたのが怖くて触れない。
後ろから屈強そうな男の魔族が笑った。
「太郎、落ち着いてんな。
状況わかんなくても声荒げねぇし。」
「いや……ただ混乱してるだけで……」
控えめに答えた瞬間、また揺れた。
「ほら見ろ。」
「素直なやつだ。」
(……会話のタイミングで揺れるの、ほんとやめて……!)




