序章
初めての作品投稿になります。
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ハロウィンの帰り道。
俺の頭には、外向きにそった矢印型の黒い角カチューシャが乗っている。
「……帰ったらシャワー浴びて、資料仕上げるか。
明日の打ち合わせ、課長にアピールするチャンスだしな。」
見た目はふざけているが、仕事は真剣だ。
俺はしがない係長だけど、
最近ようやく課長昇進が視野に入ってきた。
上からも下からも大変だが、逃げる気はない。
むしろやってやるつもりだ。
……ただ、体力だけは限界ギリギリだ。
そう独りごちた瞬間、
頭の角カチューシャが小さく揺れた。
その直後、視界が白く弾けた。
「っ……!」
次に目を開けたとき、俺は草の上に倒れていた。
冷たい風。見たことのない星空。
街の灯も車の音もない。
(どこだここ……?)
起き上がろうとしたとき——
「誰か倒れてるぞ!」
「おい、角がある……柔角族か!?」
複数の影がこちらへ向かってくる。
角。牙。尖った耳。
どう見ても現実離れしている。
(なんだこいつら……!?
いや、こんなリアルなコスプレ……ありえないだろ……)
困惑していると、彼らが俺を取り囲んだ。
「二本角……左右に反っている……柔角族の特徴だ。」
「だが形状が珍しい。どこの部族だ?」
(部族……?
角ってこれ、カチューシャなんだが……)
「名を名乗れ。」
「……山田太郎。
しがない係長です……。」
言った瞬間、空気がざわつく。
「“しが……ない”?」
「“死がない”……?
不死族か!!」
「いや違う!!!」
慌てて両手を振った。
「“しがない”は“地味で大したことない”だ!
“不死”とかじゃない!」
言い切った途端、
角カチューシャが小さく揺れた。
「角が反応した……」
「本当のことを言った証……?」
(違う違う違う、ただのバネ式……!)
そこへ、知性ある雰囲気の女性の魔族が歩み寄る。
「名は太郎と言ったか。」
「はい……」
「“タロ”……魔族語の“標準・中庸”に語感が近い。
柔角族らしい名だ。」
(いや偶然なんだよ……
昔話で主人公がよく“太郎”だったりするだけで……)
「太郎、お前は柔角族だな。
まずは保護する。」
「いや、ちょっ——」
腕をつかまれ、強引に立たされる。
(柔角族ってなんだよ……
俺、ただの人間なんだけど……
角はカチューシャなんだけど……)
だが彼らは聞く耳を持たない。
「嘘をついていないのは角が示した。」
「珍しい個体だが、柔角族で間違いない。」
(いやほんと違うって……!!)
こうして俺は、
偶然揺れただけのカチューシャのせいで“柔角族”扱いされ、
異世界で生きることになった。
──俺の異世界生活は、ここから始まる。




