男装令嬢と入学式と初友達(仮) 〈1〉
第七話です。
特に進展はありませんが……楽しんでいただければ幸いです。
キーン、コーン、カーン、コーン。
あたりに鳴り響くありがちなチャイムの音に、わたくしはぶるりと身を震わせました。
ある意味、一種の感慨のようなものでしょうか。
まさか、わたくしが一生関わることはないと思っていたものの、象徴的な音を聞いたという感動、ですかね。
わたくしは、誰にともなく呟きました。
「ついに……来て、しまいました……!」
カロライナ学園入学の、この日がっ!
目の前には、そびえ立つ大きな金の門(どれほどの背丈があればこの門の高さをフル活用できるのかは謎です)。
そして正面には、外壁が白く塗られた、さながら城のような建物。
あれこそが、わたくしが入学する「カロライナ学園」です!
「綺麗、ですねぇ……」
本当に、おとぎ話の世界に迷い込んだみたいです。
今日からわたくしも、あの中で生活するのですね……。
何だか、不思議な気持ちです。
好奇やら感動やら、いろんな気持ちがないまぜになったような感じ、とでも言いましょうか(だからといって緊張がなくなるわけでもないので、わたくしの心臓はバクバクドキドキですけどね!)。
感動でしばらくぼうっとしていましたが、いつまでも門の前で突っ立っているわけにもいきません。
わたくしはあたりを通り抜ける新入生(つまりわたくしの同級生、ということでしょうか!?なんだかドキドキしますー!)に混じり、するりと門を通り抜けました。
「あら、まぁ……」
門をくぐった瞬間、行く手に広がる花、花、花。
男装中にも関わらず、思わず素の声が漏れ出てしまいます。
真っ白に塗られた組み木道(何十人もが並んで歩けそうな広さです)の周りを囲うように、カラフルな花々が咲き乱れています。
ところどころにバードバスや噴水なんかも置かれていて、庭のメルヘンさをさらに引き立てておりました。
ものすっごく、綺麗です。
思わず、感動してしまいますね……!
わたくしがついこの間まで住んでいた家も、それなりに庭の広さはありました。
ですが、流石にここまでではありませんでしたよ!
数々の色鮮やかな花で、純白の外壁が輝いて見えますっ!
校舎(というより、城と呼ぶにふさわしい気はいたしますけれど)の大半が白いので、庭によく映えますね。
まるで絵本の世界みたいです!
「本当に、何から何までメルヘンですねぇ……」
流石は、魔法とメルヘンの国、キャロル公国です。
わたくしは、ほぉっと息をつきました。
長い長い道をしばらく行った先で、やっと建物(校舎のようです)にたどり着きました。
これまた背の高い両開きの扉(何やら、ファンタジー調の沢山の彫刻が施されています)の先に広がっているのは、どうやら玄関ホールのようです。
「第二百十回 カロライナ学園入学式」と書かれた看板も立っています。
「新入生の方は、まずは式を行いますのでこちらへお越しくださーい!荷物等は入口で教師に預けてくださいねー!」
大声で案内する声が聞こえます。
し、式からやるのですか……。
かしこまった場での振る舞いは散々体に叩き込まれてきましたが、如何せん実戦の機会がこれまでなかったもので(数あるパーティーや会食は極力避けていましたから)、すごく緊張します……!
わたくしはふうっと息を深くつき、背筋をぴんと伸ばしました。
来てしまったからには、「ヘルド・エクリアナ」として恥のない振る舞いを、違和感のない振る舞いをしなければ。
人前で話すわけではないのですから、入学式くらい、わたくしだってしっかりやってみせますよ!
見ててください、お父様、メイジー!
わたくしはちゃんとやり遂げますよっ!
「よしっ」
小声で気合を入れ、わたくしは声が誘導する方へ一歩踏み出しました。
入学式は、晴天の中野外で行われました。
カンッカンに照りつける太陽の下、わたくしは内心冷や汗ダラダラです。
前後左右に人、人、人。
男子と女子で振り分けられましたので、どこを見ても男、男、男っ!!
わたくしも男として入学してはおりますが、本当は女なんですよぉー!
ですが、そんなこと言えるわけもなく。
男子たちは皆わたくしよりも背が高いので、圧迫感がすごいですよぉっ!!
こんな状態で、何時間も入学式を受けないといけないんですか!?
本当に、冗談でなく心が死にます!
学園生活で使うエネルギーを全てここで消費してしまいますよっ!
わたくしは、お腹の前で握った手をもじもじと弄りました。
始まって数分、「次は学園長の言葉です」というアナウンスに、わたくしはパッと顔を上げました。
学園長の話、と言ったらやたら長いのがこの世の鉄則だ、とお聞きしたことがありますが……でも、式には欠かせませんよねぇ。
一応、きちんと聞きましょう。
学園長って、多分わたくしに手紙をよこした方ですよね。
あの手紙の差出人には、確か「ジェニファー・リラント」と書かれていた気がいたします。
アナウンスに応え、一人の女性が壇上に上がりました。
長い白髪をてっぺんで一つに束ね、ロングドレスにローブのようなものを羽織っています。
ジェニファー・リラントさん、改め学園長は、その鋭い翠眼でずらりと並んだ新入生を見渡しました。
わたくしも目が合った気がいたしますが……ひぇぇぇ、迫力がありすぎて少し怖いですよっ!
学園長、見た目には二十代後半程度に見えますけれど、あれはそんじょそこらの二十代ごときが出せる空気じゃありませんでした!!
学園長は深く息をつき、口を開きました。
「この度は本校へのご入学、誠におめでとうございます。本日、あなた方に会えたこと、とても喜ばしく存じます」
世に聞く、典型的な挨拶ですね。
これ、長くなるんでしょうか……。
ちょっともうそろそろ、前後左右男子の地獄状態から脱出したいのですけど……。
「……と、まぁ、長ったらしい前置きはここまでにしておいて。これから皆さんは、このカロライナ学園で生活することになります。寮生活、学園生活の上で、くれぐれも、はしゃぎすぎることがありませんようお気をつけください」
ここで学園長は一度言葉を切り、一呼吸の後に続けました。
「ぜひとも、これからの学園生活、皆さんにとって有意義な時間にしていただければと思います」
学園長は一歩下がり 、ペコリと礼をいたしました。
わたくし達も、つられて頭を下げます。
わたくしは、細く息をつきました。
……いやぁ、謎に緊張いたしました……っ!
何だかあの方、体格も特別いいわけではなく、物腰も丁寧ですのに、なんでかものすごい威圧感を感じるんですよね……。
絶対、あの方の前で問題は起こせませんね(例えば、性別詐称がバレるだとか)!
学園長の言葉の後、式は大して長く続きませんでした。
意外と、短かったですねぇ。
ぐーっと伸びをして、全身を伸ばします。
あぁ、何もしていないのに疲れてしまいました……!
四方八方、どこを見てもわたくしよりゆうに背の高い男性の方々がいるのですから、本当に気疲れしましたよっ。
わたくしだって、そう背は低くない方ですのに、やはり性別の壁は越えられませんね……。
仕方がないといえば、仕方がないのでしょうけれど。
「それではこれから、指示に従って退場してください」
退場のアナウンスが聞こえ、にわかにざわめいていた新入生たちはすぐに静まりました。
のどかな空気が流れる沈黙の中、アナウンスの方は手に持った紙に目を落とし、淡々と読み上げます。
「寮の部屋ごとに分かれて帰っていただきます。四、五人ずつ名前を読み上げますので、案内に従って寮の部屋まで行ってください。この後の動きですが、特に何もありません。自由時間ですので、寮生どうし親交を深めましょう。ルール等はあちらでご説明いたしますので」
なんですと!?
今、つらつらと手もとの紙を読み上げていたアナウンスの方が、さらりと聞き捨てならない言葉を発しましたよね!?
「寮生どうし親交を深める」、ですって!?
そんなの……。
「……自己紹介不可避じゃないですかぁ……」
わたくしは、周囲に聞こえない程度の音量で呟きます。
自己紹介なんて無理ですし、そもそもちゃんと話せる自信がございません……!
あぁ、何かボロがでたらどうしましょう……!
待ってくださいアナウンスの方ぁっ!
今からでもその予定を変更いたしませんかっ!?
そんなわたくしの心の叫びもむなしく、淡々とアナウンスは進んでいくのでした。
閲覧ありがとうございました。




