学園入学!?慎んでお断りさせていただきますっ!
第二章です。
急な方向転換ですが、多分ここから恋愛やら友情やら入ってくるんじゃないでしょうか。
今回は序章ですが、次回から本格的に書いていけたらなと思います。
楽しんでいただければ幸いです。
『今年もこの時がきたわね。ねぇ風、今回は豊作じゃなくて?』
『そうだねぇ、花さん。毎年四十から八十は居るものだけど、百を超えた年なんて今まであったかなぁ?僕覚えてないや。ねぇ、炎さんは知ってる?』
『俺が覚えてる限りじゃあ、ねぇな。本当に豊作年ってことだ』
『そうですね。去年の神子は、三人でしたっけ?去年の五十人からこれなら、今年はいったい何人神子が出るんでしょうね。もしかしたら、全員神子を貰えるかもしれませんよ?私、今回神子欲しいんですよねぇ。氷はどう思います?』
『水ちゃんは前回も貰ったじゃん……私も、今年は欲しいと思う、けど……そもそも、氷適性の人、少ないから。まだ私のところに来たの、百年間で五人くらいだよ?今年こそはもっと適性の人、増えてほしいな……』
『氷、アンタ神座についてまだ短いだろ?そう焦るものじゃあないよ……あたしも、去年は来なかったからさ。今年は来てくれたら嬉しいけど。まぁ何にせよ、明後日だね』
『そうだねぇ、雷さん……カロライナ学園の、入学式』
『……今年は何人来るのかな……』
『さぁ。でも、力が高い方がいいですね』
『そりゃあ、高いに越したことはねぇだろ』
『えぇ。高い方が都合が良いのよね。今年こそは、なんとしても目覚めてくれないと困るわ……あの、お寝坊さんのトキが』
『今年は男の入学者も多いと聞きましたよ?ここも例年とは違いますよね。男は女よりも物理魔法が得意ですし……トキは、どちらかといえば概念ですけれど、例年と一味違った年になることには違いないでしょう』
『結局、祈るしかないよねぇ……とにかく、全部明後日だね』
『あぁ。楽しみだな』
『そうね』
◇
「ふぉぉぉぉぉ……!」
拝啓、現在屋敷で仕事に忙殺されているお父様、仕える相手であるわたくしが家を出てから暇を持て余してらっしゃるメイジー。
お元気ですか?
わたくしは今、かの「幻の国」、キャロル公国に来ていますっ!
「本当に存在してたんですか……!」
わたくしはファンタジー感溢れる街並みをぐるりと見渡し、ほぉっと感慨の息をつきました。
キャロル公国は、おとぎ話に出てくるような、メルヘンでファンタジックな国です。
数多のおとぎ話の舞台は主にここですし、魔法があるとも、妖精やユニコーンなどの変わった生物がいるとも聞きます。
これらが本当なら、とても少女心がくすぐられる国ですね……っ!
今の今まで忘れ去っていた幼少の頃の憧れやワクワクが、ものすごい勢いで蘇ってきますっ!
わたくしは目を爛々と光らせ、街ゆく人々を凝視しました。
皆さんの服装も、心なしかパステルカラーでメルヘンチックな気がします。
このキャロル公国、噂には、国に入ることすら選ばれた人しかできないのだとか。
だからこそ、噂に尾ひれがつきについて「幻の国」なんて呼ばれたりしているのでしょう。
まぁ、キャロル公国に行った、という人が少ないのは事実ですし、外交も何もない国です。
国として存在しているのかどうかすら怪しく、ただ噂だけが一人歩きしていたのですから、無理もないことでしょう。
わたくしだって、今この目で見るまで半信半疑でしたし。
どうしてわたくしが「幻の国」の地を踏むことになったのかというと、話は二週間前に遡ります。
◇
「がっ……学園入学ぅ!?」
あの衝撃的かつ一方的な婚約(結局破棄いたしましたが)から一ヶ月も経った頃。
わたくしは、再び朝早くにお父様に呼び出されました。
重い瞼ををこすりつつ現れたわたくしに、お父様は婚約よりも衝撃的なニュースを告げました。
わたくしは思わず、目を見開いて叫びます。
階下でメイドたちが驚いたような声がしないでもないですが、そんなこと気にしていられません!
入学って、え?
嘘ですよねっ!?
そんな……無理ですよっ!!
学園って、お見合いみたいな一日で終わるものじゃないじゃないですか!
しかも、お父様が突き出した書類(恐らく入学にあたっての説明書きでしょう)に、「ヘルド・エクリアナ様へ」と書かれているんですが!
わたくしはヘルドとして世に出ていますし、当たり前ですけれど、一日では済まないような学園に、男装で行けだなんて無理にもほどがありますよっ!!
それに、その書類に「全寮制」などという世にも不吉なワードが刻み込まれているんですがっ!!!
全寮制って、わたくしに、日がな一日男装で過ごせと言っているようなものじゃないですかっ!!
「無理ですよそんなの今回ばかりは国際情勢に影響を与えるなんてことないでしょうし辞退させていただきますそもそも寮制だなんてメイジーがいないじゃありませんか無理です慎んでお断りさせていただきます億が一入学したとしてもすぐに退学いたしますからねっ!!!」
ノンブレスで言い切ったわたくしに、お父様はくよくよと人差し指を突き合わせました。
「いやぁー、ね。僕も、ヘレナはそう言うと思ってたけど……これ、場所が場所だからさ。断ろうにも断りの連絡を入れられなくて……ていうか、入学がもう内定してるというか、あっちで決まっちゃってるっぽくて……」
「場所?」
わたくしはお父様の手から書類を抜き取り、フッと目を落としました。
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ヘルド・エクリアナ様へ
ご入学にあたって
この度は本校へのご入学、誠におめでとうございます。
ご入学にあたりまして、本校についてのご説明を申し上げたいと思います。
本校では、世界中から選ばれた一握りの者たちが日々切磋琢磨し、優れた魔法力と人間力を育むこと、及び神子となりうる者を育成することを目標としております。
授業内容については入学オリエンテーションで再度ご説明いたしますが、今現在のクラスはこちらとなっております。
・薬草、及び魔法薬の取扱について
・基礎魔法
・固有、及び発展魔法について
・召喚術
・生物学
本校では、以上の五つを取り扱っております。
入学時、準備していただくものは特にございません。
服や筆記用具等の生活必需品をお持ちいただければ幸いです。
詳しい持ち物や規定等については別紙でご説明しております。
後ほどご確認ください。
・寮について
本校は、立地の関係によりどのような場合においても全寮制となっております。
保護者の方々におきましては、同封の契約書に署名を書いていただき、入学する際に生徒に持たせてください。
寮は基本的に一部屋二人もしくは三人程度の振り分けとなっております。
寮のルールや部屋割り等は、当日発表いたします。
九月一日、十時からの入学式に間に合うよう、こちらに来ていただければ幸いです。
また、保護者様や召使等の同伴は禁止しております。
重々ご承知おきくださいませ。
カロライナ学園 総責任者 ジェニファー・リラント
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「は、は、はあぁぁぁぁぁぁっ!?ていうか、ま、魔法って、どこのファンタジーですかっ!!!!」
読み終わった瞬間、わたくしは行儀も何もかも無視してその紙を床に叩きつけました。
「ちょっ、ちょっ、なんですかこれはあぁぁぁぁ!?魔法なんてもの、この国にはございませんよっ!!遠い国にはあると聞きますけれどもっ!!男装で、そんな遠くまでなんて行けませんっ!大体、結局場所がわからないじゃありませんかぁっ!!!誰がなんと言おうとも、わたくしは絶対行きませんからねっ!!!」
魔法は少し、いやかなり興味ありますけどっ!
でも、そんなの数年の学校生活(しかも全寮制で男装)に比べたら小さなメリットすぎますよ!!
そんなわたくしに、お父様は呆れたような笑みを浮かべてもう一枚の紙を差し出しました。
「ほらこれ、場所書いてあるよ」
お父様は半ば諦めた様子で、ひらひらと紙をわたくしの鼻先で振ります。
「僕も行かせたくないのは山々なんだけどねぇ……多分、これ見たらヘレナ、『行かない』とは絶対言わないと思うよ」
「ハァッ!?例え、何が来ようともわたくしは断りますよっ!!」
足を踏み鳴らしつつ、ですがお父様の差し出した紙を無碍にするのは気が引けたので、一応目で文を追います。
わたくしが「行く」と言うようなものなんて、万に一つもない気がいたしますけれど。
学校生活だなんて、わたくしの人生の中でキャンセルしたいものトップテンに入りますからね!
わたくしはジィっと目を凝らし、ぽつぽつと文を読み上げ始めました。
「えぇー、『学園の立地について。当学園は特殊な場所に建っておりますので、住所と地図、詳しい目印等を明記しておきます。こちらをご参考に、入学式当日こちらにお越しください。住所、キャロル公国』ぅ!?」
途中であり得ない文字が目に入り、わたくしは目を剥きました。
キャロル公国って……あの、「幻の国」じゃないですか!?
「えっ、キャロル公国って、あのおとぎ話の舞台になったり魔法が使えるなんて噂のある、あのキャロル公国ですかっ!?」
「むしろそれ以外にキャロル公国という国は登録されてないよ」
「はっ、はっ、はあぁぁぁぁぁ!?」
きゃ、キャロル公国って、わたくしの憧れの国ですよ!?
ていうか、あんな所に学園なんてあるんですかっ!?
どうりで授業内容がファンタジックなわけですよっ!!!
学園は行きたくないですけれど………。
「キャロル公国は、興味あります……!」
キャロル公国は外交も観光も何もなく、ほぼ完全に外国との接触を絶っております。
そんな国に行ける機会だなんて、一生ないでしょうし……。
だとしても、学園に行って他の人と寮で生活するなんて、本当に無理ですよっ!!!
「うぅー……」
わたくしは一生したくないことと、(恐らく)一生に一度のチャンスを心の天秤に乗せ、ウンウンと唸りました。
…………うぅー、悩ましいです……。
学園生活だなんて、全力でキャンセルさせていただきたいですけれど……ですが、キャロル公国や魔法というワードには、実に心躍らされます……!
……あぁ、どういたしましょう……。
わたくしはしばし沈黙し、ぽつりぽつりとお父様に言葉を発しました。
「___い、行きます!その、学園に!」
学園生活だなんて、たかが数年でしょう!
それでも、魔法は一生ものです。
これを機に人見知りがなおれば、万々歳ですし。
男装でそんなに大勢と過ごすのは気が引けますけど、外交が盛んなこの国より、完全に閉じた状態のキャロル公国の方が目立たなそうですし!
ですが決心したはいいものの、やっぱり今から怖くなって参りました……!
今からでも辞退致しましょうか……。
そんなわたくしをよそに、お父様はパン、と手を叩きました。
「はい、じゃあ決まりね。僕もヘレナが遠くに行くのは寂しいけど……まぁ、その間お見合い全ブロックしておくから!安心して、旅支度してきてね!」
「はぁ。お見合い全ブロックは助かりますけれど。それではお父様、失礼します」
あぁ、どうなるんでしょう。
まぁ、話さなければボロは出ませんよね!
そもそも人と話すなんてわたくしには無理ですから、話しかけられても必要最低限で返していけばいいだけの話です!
まぁ、なんとかなるでしょう!
少々楽観的な気持ちで、わたくしはお父様の部屋を後にしました。
◇
と、まぁそんなこんなで、わたくしはキャロル公国に来ることになったわけです。
男装も始めて数ヶ月、もう慣れたものです!
なんなら、今はパンツスタイルの方が動きやすくて楽なくらいですし!
これはうっかりバレるなんてことありませんね!
それよりも、先ほどから何やらよくわかない獣の声が、遠くから響いてくるのですが。
これが、もしやユニコーンの声だったりするのでしょうか……!?
わたくしは胸を躍らせつつ、低い位置で一つに結った髪をなびかせ真新しい石畳を歩き始めました。
閲覧ありがとうございました。




