お見合いなんて無理ですが!? 〈3〉
お見合い編第三話です。
お見合い編は次で終了になるかと思います。
どうか楽しんでいただけますよう。
「ではまぁ、軽く自己紹介など終わりましたので、ご本人同士で歓談いただいて……」
「エッ」
カイトさんが放った衝撃の言葉に、思わず素の声が出てしまいました。
いや、え?
……ウッソでしょう!?
ちょっとカイトさん、聞いておりませんよ!!
わたくし、絶対ボロが出るに決まっているじゃありませんかぁ!
横をちらりと見ると、メイジーも困惑気味の表情です。
それを聞いて、お父様はさらにキノコを増殖させていますし。
ですが、噂に聞くお見合いとは、一対一で話す時間が設けられていると聞いたことがあります。
心の準備はしていましたが……。
それにしたって、早すぎますよ!!
それとも、わたくしがお見合いデビューなせいでわからないだけで、これが普通のお見合いなのでしょうか。
もしそうだとしたら、男装一名、キノコ人間一名を含めた世にも奇妙なお見合いは、案外にもうまくいっているようです。
ウッ、でも心配です……。
わたくし、ろくに話せないでしょうし……。
カイトさんに連れられ、お父様やメイジーも、今にも部屋を出ていきそうです。
ちょっ、早いですよっ!
ちょっと待ってください、メイジー!!
そんなわたくしの心の叫びもむなしく、クラシカルメイド服の背中は、無情にもブラウンの扉に阻まれ見えなくなってしまいました。
あぁ、どういたしましょう。
わたくしが困惑していると、正面に座るご令嬢が話を切り出しました。
「こんにちは。突然のお見合いを受けていただき、改めて感謝いたします。一週間前だなんて急な予定ですし、断られてもおかしくないと思っていたのですが……良かったです、お会いすることができて」
「は、はい」
えぇ、えぇ、そうでしょうとも。
世間一般では、一週間前でも少し急なくらいなのですよ、お父様。
わたくしが知ったのは、今日の朝ですけれどね。
この場にいない彼に、多少ばかり恨みの念を送っていると、アネッサさんが再度口を開きました。
「一定時間がすぎたら、カイト達はもどってくるそうなので。ご質問等ございます?」
「え、えぇとですね……」
自分においてできる限り声を低くして返答いたしましたが、どうしても声変わり前の子供のような声しか出ません。
男にしては高い声です。
まぁ、女とは思わないでしょうし、それでもいいのですけれど……。
あぁ、緊張してまともに言葉が出ません!
視線を合わせるのですらわたくしには困難ですのに!
カイトさん、憎みますよ!!
それでもなんとか質問を捻り出し、なるべくアネッサさんの背後の壁を見つめるよう努めながら、わたくしはこもごもと言葉を発しました。
「えぇっと……その、何故、お見合いを?なっ、何が、きっかけなのですか?」
詰まりつつもきちんと文が成り立った質問に、わたくしは心の中で自分を大絶賛しました。
わたくし、すごいです!
完璧……とまではいかないですが、わたくしにしては上出来でしょう!!
それに、これは元々気になっていた質問ですし。
偉いですわたくし、よく頑張りました!
心の中パレードなわたくしの問いに答えるべく、アネッサさんは口を開きました。
「そうですね……勿論、政略的なものもございますが。……なんて言ったらご失礼にあたるかもしれませんけれど、あの天下のエクリアナ家の次期当主ですし、気持ちはおわかりでしょう。まぁ、それだけではございませんが」
アネッサさんが一度言葉を切りました。
へぇ、エクリアナ家って、そんなに有名だったんですね……。
自分の家のことながら、数ヶ月前まで全く関わってこなかった身なのでどこか他人事に感じます。
御屋敷もお父様の政治における役割も、周りの貴族の方々に比べ大きいなとは思っていたのですけれど。
まさかそんなにすごかったとは思っていませんでした。
異国の令嬢でも知っているくらいです、影響力も相当なのでしょう。
わたくしの密かなる感心はいざ知らず、アネッサさんは言葉を続けました。
「そうですね、理由は主に二つです。まず一つ目ですが、私、もともとエクリアナ自体に興味はあったんです。とても有名、影響力も抜群。ですが、一度当主を引き継いだ後は、前当主が少したりとも表に出てこず、次期当主も一定の年齢になるまでは発表されない。次期当主はパーティーなどに出席はしますが、それは後継ぎとしてでなく、ただただエクリアナ家のものとしてなんです。ですので、ハッキリ言って、他の貴族に比べ、圧倒的に謎が多いんです、エクリアナ家は。もともと興味があったところに、次期当主が発表された。さらにその次期当主は、これまでパーティー等に全く顔を見せてこなかったと来ます。お見合いを打診しないほうが、おかしいという話でしょう」
アネッサさんはそう言って、一度言葉を切りました。
へぇ、エクリアナってそんな、謎に包まれた家だったんですか……。
アネッサさん、その実情は男装と超の字のつく親バカ、そして今のところ鬼ごっこでわたくしに全勝中の圧倒的に運動神経のいいメイドの、ただの気の抜けた家ですよ!
まぁでもたしかに、もう亡くなられましたが、お祖父様も当主を引退してからその後、何をしたというお話は聞きませんでしたしね。
思い切りがいいんでしょうね、恐らく。
次期当主が出てこなかったのだって、ただの人見知りというだけですし(やっと出てきたと思ったら性別詐称という有様ですが)。
次期当主発表に関するしきたりも、なにか重大な理由があるとは聞いたことありませんしねぇ。
ただわたくしが知らないだけかもしれませんが。
アネッサさんは優しげに微笑んだ後、言葉を続けました。
「二つ目の理由はですね___」
「ほぉ……!」
アネッサさんが一呼吸置くので、ついわたくしも釣られて期待感が高まってしまいます。
わたくしが胸をドキドキさせながら待っていると、アネッサさんは仰々しく口を開きました。
「___ヘルドさんも、私と同類のような気がしたから、ですよ」
アネッサさんは意味ありげに笑顔を浮かべました。
はて。
「私と同類」とは。
どういう意味で、ですか?
もしや、「女性」という意味じゃないでしょうね!?
大丈夫でしょうか!?
「どっ、同類って、どういうこと、ですか!?」
わたくしが内心大慌てで問うと、アネッサさんはその笑みを深めます。
「秘密、です」
えぇー!気になるじゃないですかっ!!
アネッサさんたら、思わせぶりですねぇ!
ですが男装中かつお見合いの身ですので、そう聞くわけにもいかず、わたくしは黙って口を尖らせるに留めました。
それでもわたくしの意がアネッサさんに伝わったのか、彼女は苦笑します。
アネッサさんは突如颯爽と立ち上がると、戸口へ歩いていきました。
「どうかされましたか?」
「いえ、ヘルドさん。私たち、そろそろこの部屋、出たほうが良いんじゃないですか?」
「え?」
「えぇ___」
わたくしが首を傾げるも、アネッサさんはずんずんと廊下に突き進み、お見合いをしていた部屋の、右隣のドアの前に立ちました。
「___そろそろ、隣の部屋で盗み聞きしている方々が、飽きる頃ですので」
そう言って、アネッサさんはドアを勢いよく開けました。
そこには、なんと壁に耳をつけるお父様とメイジー、さらにカイトさんの姿!
えっ、全部聞かれていたのですか!?
あぁ、恥ずかしいっ!!
というかお父様とメイジーはともかく、カイトさんもそういうことするタイプだったんですね!?
わたくし、驚きですよっ!!
「どうして分かったのですか?」
わたくしは、カイトさんに笑顔ながら無言の圧をかけるアネッサさんに聞きました。
アネッサさんはこちらに顔を向け、とても楽しそうに言います。
「さぁ。乙女の勘、ってやつですかね」
そして、とてもチャーミングなウインク。
ひぇっ!危ない!
わたくしが男でしたら今ので惚れてましたよっ!
女のわたくしですら、キュンときましたもん!!
アネッサさんはそのままカイトさんを連れ、元の部屋に戻っていきました。
すごいですね、アネッサさん。
勘でわかるだなんて。
わたくしは感心しつつ、特に悪びれた様子もなくわたくしから目をそらす二人を、キッと睨みました。
「お父様ぁぁぁぁ!メイジィィィィ!」
わたくしはできる限り低くした叫び声を上げ、お父様たちに灸をすえるべく一歩踏み出しました。
閲覧ありがとうございました。




