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婚約者に捨てられ、親友に裏切られた私ですが――どん底からのストーリー  作者: ワスレナ
第五章

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第69話 婚前報告、祝福の輪

 会社で婚約の報告を正式に行う日がやってきた。


 緊張した面持ちでオフィスに向かった。


 社内の空気が、いつもより少しだけ乾いている気がした。


 朝、出勤してデスクに着くと、莉子ちゃんが満面の笑みで駆け寄ってくる。


「師匠、いよいよ今日なんですね」


「え、ええ。なんか緊張するよ」


「頑張ってください。見守ってますから」


 そう言って莉子ちゃんは笑顔で親指を立てた。


 朝礼の時間になり、私は川本課長から呼ばれた。


「皆さん、今日はうれしい報告があります」


 課長が私の方を見る。


 実は三日前、課長に婚前報告を申し出て、今日にすることに決めたのだった。


「じゃあ有動さん、よろしくね」


 課長がウインクして私にバトンタッチする。


 私は小さく(うなず)いてから、みんなの方へ向き直り報告を始めた。


「おはようございます。有動です。今日は少しお時間をお借りして、報告させていただきます」


 みんなの注目が私に集まる。


「明日の午後、私と桐生尚也副社長は入籍することとなりました。報告が今になってしまい、申し訳ありません」


 みんなの表情が驚きに変わる。


 その後、結婚式の日取りと規模について話をし、報告を終えた。


 終了後、オフィス中から拍手が起きた。


 温かい空気に包まれる。


 思わず胸の奥が熱くなった。


「有動さん」


 大原先輩が私に近づく。


「おめでとう。やっぱりそうだったのね」


「先輩、黙っててごめんなさい」


「いいのよ。私、応援するから。その代わり、式には呼んでちょうだいね」


 大原先輩はにっこり微笑んだ。


「はい。喜んで」


 隣の川本課長も優しく見守ってくださった。


「さて、今日の朝礼は終わり。みんな、今日も一日業務頑張りましょう」


 課長の締めくくりで、業務が開始した。


 ああ、やっとこの日が来たんだ……。


 みんなに秘密にしながら仕事するのは今日でおしまい。 


 これからは新たな気持ちでみんなと仕事できるのが、とてもうれしく思えた。



◆◆◆



 昼過ぎ、私は社長室に呼ばれた。


 部屋に入り一礼すると、白いスーツ姿の麗華さんと桐生社長が待っていた。


 いつも通りの落ち着いた空気――だけど、どこか柔らかい。


「ようやく正式に、というわけね」


 麗華さんはいつものクールな微笑みを浮かべながらも、どこか嬉しそうだ。


「はい……まだ実感が湧かなくて」


「ふふ、あなたらしいわね。でもね、有動さん」


 麗華さんは少し身を乗り出し、まっすぐ私を見た。


「尚也がああして笑うようになったのは、あなたのおかげ。彼はずっと背負いすぎてたから――あなたがいてくれて、本当に良かった。」


 思わず、胸がいっぱいになった。


 麗華さんの優しい言葉が、涙腺を刺激する。


「ありがとうございます……そんな、私なんて」


「もう。“なんて”はやめなさい。あなたはこの会社にとっても、彼にとっても欠かせない人よ」


 社長も穏やかに頷いた。


「ルミナリエは、人を育て、人が支える会社だ。尚也もそうだが、有動君、君の成長も大きな誇りだよ。これからも期待しているよ」


「社長……ありがとうございます」


 震える声でそう言うのが精一杯だった。


 (うつむ)き、涙がひとしずくこぼれた。


 そんな私の姿を、麗華さんと社長が優しいまなざしで見守ってくださった。



 会議室を出ると、廊下の向こうに桐生さんが立っていた。


 静かな微笑みで、私を迎える。


「……終わったか」


「はい。お二人とも、本当に優しかったです」


 そう言うと、桐生さんは少しだけ息をついた。


「よかった。君が笑ってる顔を見て、ようやく落ち着いた」


「桐生さん……」


 その時――背後から元気な声。


「桐生副社長、師匠!」


 莉子ちゃんが駆けてきて、いきなり私の腕をつかむ。


「みんなでサプライズでケーキ用意してるんです! 秘書課と開発部、営業部合同ですよ!」


「えっ!? ちょっと、莉子ちゃん、それって……!」


「いいじゃないですか! 今日はお祝いですよ!」


 慌てる私を見て、桐生さんが珍しく苦笑した。


「……断れないな」


「ですね……」


 私たちは顔を見合わせ、互いに笑い合うのだった。



◆◆◆



 夕方、会議室には小さなパーティーの準備が整っていた。


 テーブルには色とりどりの料理と、ルミナリエのロゴ入りのケーキ。


「師匠! こっちこっち!」


「ちょっと莉子ちゃん、もう……」


 そこにいたのは、秘書課の仲間たち、営業部と開発部の面々、そして麗華さんまでも。


 まるで家族のような温かさだった。


 いつも淡々とした桐生さんが、ケーキカットの時だけ、少しだけ照れた顔で言った。


「……皆、ありがとう」


 静かな声だったけれど、その言葉だけで、場の空気が優しさで包まれた。


 拍手と歓声の中、私は思わず泣きそうになった。


 これまでの苦しみも、孤独も、全部がこの瞬間のためにあったような気がした。


(――ああ、やっとここまで来たんだ)


 尚也さんがそっと耳元で囁く。


「……有動がいたから、ここまで来られた。ありがとう」


 涙をこらえながら、小さく笑って答えた。


「私も、桐生さんがいたから、ここにいられました」


 みんなの祝福を感じる、温かな空気。


 その中で、私は確かに感じていた。


――“祝福”とは、誰かと分かち合える幸せのことなんだ、と。



 お開きになった後、私たちは最後の片付けをしていた。


 みんなが協力してくれたおかげで、片付けは手間取ることなく終わった。


 みんなが退勤した後、私たち二人が残った。


「俺たちもそろそろ帰ろうか」


「はい」


 消灯し、鍵をかける。


「行こう」


 帰途に歩き出す彼の背中を見て、ふと頭によぎった。


「尚也さん」


「ん?」


 尚也さんがこちらを振り返る。


「素朴な疑問なんですけど……」


「何だ?」


「……その……いつから私のことが好きになったんですか?」


「……」


 尚也さんの足が止まり、こちらへ向き直る。


「……そうだな」


 少し考えた後、話し始める。


「正確にいつだったかは覚えてない。だが、倉庫へ同行してもらったことがあっただろ?」


「……はい、覚えてます」


「君が従業員を助け、被害を最小限にしてくれた。あの時くらいだった気がする」


「そ、そうだんったんですね」


 てっきり怪しまれて目をつけられていたのかと思ってた。


 今もあの力のことは言えないけれど。


 好きになってくれたのに、隠し事するのって、何か辛いな。


「……たとえ、君が何者であったとしても、俺は受け止めるつもりでいる」


「えっ?」


「無理に話す必要はない。誰にだって、知られたくない事はあるからな」


「……はい」


「未春がどんな人だろうと構わない。俺は信じている」


 淡々とした言葉で、けれどその瞳は力強かった。


「私も同じです。尚也さんを信じ、支えたいんです」


 その言葉に、尚也さんはふっと微笑んだ。


「頼もしいな。今日は送っていこう」


「はい」


 そんな会話があってから、私たちは会社を後にしたのだった。


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