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婚約者に捨てられ、親友に裏切られた私ですが――どん底からのストーリー  作者: ワスレナ
第五章

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第68話 綾乃さんへの報告、互いの思い

 今日、綾乃さんへ直接結婚報告をする。


 緊張の面持ちで会長室のドアをノックした。


「どうぞ。お入りになって」


「失礼いたします」


 ドアを開け、深く一礼する。


 綾乃会長はいつもの白い和服を着こなし、(りん)として私の前に座っている。


「おめでとう、未春ちゃん。結婚式の日取り、決まったのね」


「はい。ありがとうございます」


 席に座ると、綾乃さんは目尻をふわりと緩めた。


「尚也は不器用だけれど、根は優しい子よ。あの子があなたを選んだのは、当然と言えば当然ね」


 綾乃さんはそう言って微笑んだ。


「そ、そんな……。最初は大変でしたよ、本当に」


「そうだったのね。あの時の未春ちゃんは……可愛かったけれど、壊れそうでもあったものね」


 ふっと綾乃さんの視線が柔らかくなる。


 恋人のようで、母親のようで、でもどちらにも当てはまらない“特別な視線”。


(……こういうところがずるいんだよ、綾乃さんは)


「綾乃さんのおかげです。この会社を紹介してくれなかったら、私は……」


 綾乃さんは紅茶を一口飲んで、私の目を見つめた。


「あなたの努力と魅力が、今のあなたを作ったのよ。私が手を貸したからでも、会社に拾われたからでもないわ」


「……綾乃さん」


「もっと自信を持ちなさい。あなたは“選ばれた子”よ、未春ちゃん」


 その言葉とともに、綾乃さんはそっと私の手に触れた。


 ほんの一瞬。でも、それだけで心臓が跳ねる。


 いつものように、優雅で、慎ましくて――


 けれどその中に、確かに“自分だけに向けられた甘さ”がある。


 指先に触れた温度が、今までより温かい。


「……尚也のこと、よろしく頼むわね。あの子は強いけれど、同時に……繊細よ。あなたが必要なの」


「はい。必ず、支えます」


「ふふ……その言葉が聞けてうれしいわ」


 綾乃さんは紅茶に唇を寄せて、ふっと微笑む。


「あなたが尚也と結婚までするとは、正直考えもしなかったわ。やはり私の目に間違いはなかったみたいね」


「……私もです。綾乃さんには本当に感謝しています」


 その瞬間、綾乃さんの目が細まり、微笑みが溢れる。


 柔らかく、優しい表情。


 上品な立ち振る舞い、気品(あふ)れるオーラ感。


――この人は、本当に。人の心を奪うのが上手すぎる。


 綾乃さんが会長たる所以(ゆえん)、わかる気がする。


 そんな私の心も、すっかり綾乃さんの虜になってしまっていた。


「今日はこのくらいにしましょう。式には参列させてもらうわ」


「は、はい。今日はお時間をありがとうございました」


 あれっ、いつもの綾乃さんじゃない?


 少し肩透かしを食らった気分だった。


「また結婚式場で会えるのを楽しみにしているわ」


 上品な微笑みで私を見送ってくださった。


 こうして、一番の恩人に挨拶と報告ができたのだった。


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