第63.5話 裏切りの明暗
私は焦っていた。
昨日の夕方、未春と思われる着信があった。
でも、用事が忙しくて出られなかった。
かけ直そうと何度も思ったけれど、手が止まってしまった。
私にそんな資格がある?
今さらそんな思いが脳裏をよぎったのだ。
未春の会社にまで行った決意。
何で今になってこんなに迷うんだろう。
胸がズキンと痛んだ。
未春にしてしまったひどい行為。
それは許されるものではない。
それはわかっているけれど、きちんと謝りたいのよ。
そう葛藤が続いていた時、スマホがぶるっと震えた。
画面には、見知らぬSNSの着信。
私はスマホを手に取り、確認する。
「これは……未春?」
そこには未春からの文章が綴られていた。
《伽耶、お久しぶり。未春です。会社に来てくれたのね。会えなくてごめんね》
私は思わず指を走らせていた。
《未春なの?》
《そうよ。元気にしてた?》
《うん。貴方にちゃんと謝りたくて。会えないかな?》
《なかなか忙しくて時間とれないの。でも、よかったら来てほしい》
来てほしい?
《どこへ?》
《私、もうすぐ結婚するの。よかったら伽耶に来てほしい》
“結婚――”
私が浩康との邪魔をしたのに、あの子はちゃんと頑張ってたんだ……。
スマホの画面に涙が零れ落ちて跳ねる。
《わかった。いつなの?》
私の返信に、未春は丁寧に場所と時刻を教えてくれた。
《必ず行くわ》
《うん、待ってるね》
未春からの連絡はそこで途切れた。
でも、少しでも話すことができて、心が安らいだ。
これで私自身の心にも、区切りをつけよう。
そう思いながら、部屋の明かりを消した。
◇
俺の心は絶望の淵に沈み荒み切っていた。
精神科に通いカウンセリングを受ける日々が続いていた。
安定剤を処方され、少し心が落ち着く日もある。
だが、そんな俺を幸代が解放するはずもなかった。
「あなた、最近生理が来ないの……どういうことか、わかるよね」
彼女以外の言葉なら、きっと喜んだだろう。
だが今の俺には、地獄の宣告にしか受け取れなかった。
「そ……そうか」
そう返すのが精いっぱいだった。
「何よ、もっと喜びなさいよ!」
幸代が俺をキッと睨みつける。
俺の心は震えあがり、ただ沈黙するしかなかった。
「まあ、いいわ。行きましょう」
幸代の表情は緩み、俺は彼女に寝室へ連れていかれた。
「あなたがシャイなこと、わかってんのよ」
ベッドに俺を追い込むと、おもむろに服を脱ぎ始める。
「私ね、五人は欲しいの。あなたとの子ども」
そう言ってニンマリすると、俺をベッドへ突き倒した。
――俺に対する地獄の儀式が、始まった……




