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婚約者に捨てられ、親友に裏切られた私ですが――どん底からのストーリー  作者: ワスレナ
第一章

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第8話 有動未春を手放した俺の破滅

 俺、実小路(さねこうじ)浩康(ひろやす)は激しく動揺していた。


 あの日――婚約者の有動未春をレストランに呼び出し、婚約破棄を言い渡して追い出した。


 その後、倫道(りんどう)伽耶(かや)と豪華なディナーを楽しみ、計画どおり不振の元凶を取り除いたつもりだった。


 これで状況は好転すると信じて疑わなかった。



――だが、翌日から世界が一変した。



 出社すると、揉み消したはずの業務上の失策が何件も一気に暴露された。


 最初は未春の仕業かと疑ったが、あいつは俺の仕事に興味すらない。


 それにあの後、あいつが俺たちの前に現れることもなかった。


 裏でどうこうするような奴かどうかは、俺が一番よく知っている。



 その日、上司からこってり絞られ、緊急役員会で社長以下に糾弾された。


 それだけで済むはずもなく、マスコミへのリークでニュースにされ、会社の株価が暴落した。


 社内は大混乱。


 俺は気が気でなかった。



 火消しと釈明に追われるうち、伽耶(かや)をかまう余裕は一切消えた。


 それでもあいつは俺を信じ、付いてきてくれていた。


――それが余計に重荷に感じた。



 過去のミスが次々に掘り返され、部署では同僚や上司が必死に処理し、俺は毎日吊るし上げられた。



 何でだ? 


 なぜ一度にこんな目に? 


 答えは出ないまま、ただ追い詰められていく。


 さらに健康診断で悪性腫瘍が見つかり、手術が決まった。


「早期発見だから良かった」と医者は言ったが、今そんな情報はいらない。



 その頃、付き合っていた女たちが次々と別れを告げてきた。


 ニュースを見たらしい。


 面倒になって全員切り捨てたが、心はどんどん擦り減った。



 そして、一番隠したかった事案が露呈……。


 役員会で議題に上がり、始末書と多額の賠償、そして降格処分が決定した。


 会社は世間への公表を避けたが、俺の未来は潰された。



 ……くそっ。


――俺が一体何をしたっていうんだ!?


 酒とタバコで体をごまかし、正気を繋ぎ止める日々が続いた。



――それでも伽耶(かや)だけは俺を信じてくれていた。


 だが、もう俺にはまともな判断力なんて残ってなかった。


 俺はすべてを、計画に誘った伽耶(かや)のせいだと思い込むようになった。



 そして――先日、伽耶(かや)と一夜共に過ごしたのち、一方的に別れを告げた。


 あいつは涙目で少し食い下がったが、俺が無理に押し切った。


 その後、何も言わず荷物をまとめて出ていった。



 ……だが、これで状況はきっと好転する。


 いや、そうに違いない。



――俺はまだ終わっちゃいない……終われないんだよ!



◇ ◇ ◇



 その日、俺は同僚と二人で取引先へ向かうため社を出た。


 ビジネス街の昼下がり、ざわめく通りを歩きながら、頭の中は次の言い訳と火消しの段取りでいっぱいだった。


「浩康、今日は気をつけてくれよ。もう俺たちも尻ぬぐいは嫌だぞ……」


 隣の同僚が軽口を叩く。


「すまん、わかってるさ」


 俺は軽く頭を下げて返し、ネクタイを直した。


――この先を曲がれば、目的のビルが見える。



 そう思った瞬間、背筋がぞわりとした。


 黒い影が視界の端から飛び込んできた。


 人影がひとつ。


 全身黒ずくめ、目元まで覆面をしている。


 通り魔か!?


 直感的にそう感じた。


「っ!?」


 叫ぶ間もなく刃の閃き。


 同僚が先に反応した。


 だがしかし……


「うわっ!」


 通り魔の刃が同僚の腕に一文字の傷を残していた。


 彼は悲鳴を上げ、腕を押さえて倒れ込む。


 白いシャツに赤が広がった。


「なっ……!」


 状況を理解する暇もなく、影が俺に向かって突っ込んでくる。


 反射的に後ろへ飛び退()いた。


 鋭い痛みが左腕を走り、袖口に血が(にじ)む。



 軌道がそれた――護身術を身に着けていなかったらヤバかった。


――死までまさに紙一重だった。


「クソッ!」


 それでも俺はとっさに手を伸ばす。


 影とすれ違いざま、覆面を掴んで力任せに()ぎ取った。



 黒布が宙を舞う。


 露わになった顔を見て、息が止まった。



――伽耶(かや)……だと!



「……っ、お前……」


 血の気が引く。


 視線がぶつかる。


 伽耶(かや)の瞳は氷のように冷たく、そこにあったのは愛情でも哀しみでもなく――殺意だった。


「浩康……死んでもらう」


 低く、抑えた声が耳に突き刺さる。


「!」


 その言葉に心臓が一拍遅れて跳ねた。


 背筋を凍らせながら、俺は初めて、死の恐怖と隣り合わせにいた。


「逃げろッ!」


 俺は血を流す同僚に叫び、鞄を投げ捨てて走り出した。


 背後から迫る足音。


 振り返ると、黒ずくめの伽耶(かや)が、獲物を仕留める獣のような目で俺だけを追ってくる。


「ひっ……!」


 胸が潰れそうなほど脈打つ。


 会社の名前が入ったビル群の間を必死に駆け抜けるが、距離は縮まるばかりだ。


「止まれッ!」


 怒号とともに警官二人が駆け寄ってきた。


 これでもう大丈夫――安心だと、少し気が緩んだ。



 だが直後、信じられない光景が目の前で起きた。



 次の瞬間、伽耶(かや)は一歩踏み込み、最前の警官を掴んで軽々と背負い投げにして叩きつけた。


 鈍い音が響き、警官は意識を失う。


「動くなッ!」


 残った一人が銃を構え、発砲。


 乾いた音と共に弾丸が伽耶(かや)の腕をかすめ、鮮血が飛んだ。


 しかし彼女は怯まない。


――踏み込み、


「はああッ!」


 鋭い気合いと共に宙を舞った。


 空を切り裂くような月面宙返り――その回転蹴りのつま先が、警官の顎を正確に打ち抜く。


 警官の頭は弾け飛び、体格のいい体は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


 俺は腰を抜かし、路地に尻餅をついたままその光景を呆然と見ていた。



――伽耶(かや)が……俺を殺しに来ている。


 “恐怖”が、理屈を塗り潰す。



 その時ちょうど、別の警官が数名駆けつける。


 その一人が銃を掲げ、空砲を撃った。


 乾いた炸裂音が街に響く。



 彼女の動きが止まった。


 刹那、全身から(ただよ)っていた殺気がふっと消えるように見えた。



 取り押さえた警官が彼女の両手に手錠を掛け、パトカーの後部座席に押し込んだ。


 パトカーの中の伽耶(かや)は無言のまま、暗い瞳で俺を見据えていた……。



 俺は立ち上がることもできず、警官に肩を支えられ、その場を離れた。


 世界はまだ明るい昼下がりのままなのに、景色が色を失って見えた。



――殺意を向けられるとは、こういうことか。


 震える指先を見つめ、俺は初めて心の底から恐怖を覚えた。



――その日、俺の精神は完全に折れてしまった。

読者の皆様へお願い。


このたびは、お読みくださり、ありがとうございます。


☆5でなくて全然かまいません。

面白かった、または、つまらなければ☆1つでも結構です。どうか貴方の印象を評価し、つけて頂けないでしょうか。


また、もっと読みたいと思われたら、ブックマークしていただければありがたいです。


貴方の評価で、これからも励みになり、がんはって執筆活動していけます。

どうぞ、よろしくお願いします。

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