第59話 届かない距離、繋がる未来
あれから二ヶ月。
毎日が嵐のように過ぎていった。
綾乃さんと話をしてから三日後のこと。
現地の桐生さんの補佐員が機能しないとのことで、綾乃会長から連絡を受けた。
「尚也がね、未春ちゃんでないとうまく回らないって」
桐生さんが会長経由で泣きついてきたのだ。
だから行くって言ったのに……。
桐生社長の了承も出て、桐生さんのデータ面のサポートは私が請け負うことになった。
そうした桐生さんへのバックアップも含めた秘書業務に加え、開発部での“LUMIERE NEO”の企画チーム。
私は開発推進課の特別顧問に選出され、秘書との二足の草鞋で動いている。
睡眠時間を削ってでも、私は走り続けていた。
就寝しても、夢の中でアフロディーテ様をはじめとする神々と力の使い方を学んだ。
あの後アフロディーテ様にお願いしたのだ。
睡眠法も学び、短時間でも熟睡するようになれた。
その後すぐに、桐生さんへのサポートが功を奏し、動きができるようになったと連絡が来た。
順調にプロジェクトは動き始め、現地での企業との連携も取れ始めた。
桐生さんは手腕を発揮し、次々と困難な取引をまとめていった。
プライベートの連絡もSNSで取り合った。
互いの写真を交換し合った。
仕事面のサポートもあったおかげで、意外と寂しさは感じずに過ごすことができた。
綾乃さんに週一で会っていただき、それもかなり精神的に支えられた。
◇ ◇ ◇
さらに二か月の時が過ぎた。
新商品が発売されるその日がやって来た。
――商品名『LUMIERE NEO』。
私たち開発部全体の努力の結晶。
生産、工場、流通、販売、広報。
みんなが一丸となって動いてくれた。
すでにCMが流れており、SNSやテレビでも好調の噂が入って来ていた。
販売が始まると、商品は飛ぶように売れた。
販売管理からも、好評の報告が入ってきた。
けれど、まだ安心は禁物。
私たちは、週間の売上情報を待つしかなかった。
◇ ◇ ◇
「有動さん! 売上速報、出ました!」
私たち開発部のもとに、報告が上がってくる。
初週売上、前年同週比の三倍。
SNSでも話題になり、口コミは爆発的に広がっていた。
その報告に、開発フロアは歓声に包まれた。
「有動さん、やりましたね!」
「さすが特別顧問!」
「やったわね。みんなが頑張ったからよ」
周囲の拍手に笑顔で応え、喜びを分かち合った。
けれど、胸の奥にあるのは、ただ一人の顔。
(桐生さん……見てくれてますか?)
胸にそっと手を当てて報告する。
祝福してくれるみんなの笑顔が眩しい。
――私の諦めない努力が、実を結んだ瞬間だった。
◇ ◇ ◇
数日後。
本社ホールで社長表彰式が開かれた。
「新商品の成功と売上に最も貢献した社員として、秘書課兼開発推進課・有動未春をここに表彰する!」
社長の言葉と共に、ライトが眩しく照らす。
壇上に立つと、社員たちの拍手が降り注いだ。
誇らしくて、でもちょっと恥ずかしくて、思わず涙が出そうだった。
表彰状を受け取り、壇上を降りると、みんなから温かく迎え入れられた。
式が終わり、桐生社長がそっと近づいてきた。
「有動君、君に一つ報せがある」
「はい?」
「桐生副社長……いや、尚也が君を呼んでいる。ニューヨークに来てくれとね」
「……えっ?」
心臓が跳ねた。
思わず言葉に詰まった。
「もちろん、私も社長として賛成する。君はもう、十分に認められる存在だよ」
社長の笑顔が、どんな言葉よりも背中を押してくれた。
「あ、ありがとうございます。何よりうれしいです」
実現すれば、予定より二か月早い再会となる。
自然と涙が溢れ出す。
――互いに切磋琢磨し、励まし合った日々が、ついに報われる時が来たのだ。




