表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者に捨てられ、親友に裏切られた私ですが――どん底からのストーリー  作者: ワスレナ
第四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/90

第58話 綾乃さんとの絆、癒える心

 尚也さんとの遠距離恋愛が始まり、二週間が過ぎた頃だった。


 私は綾乃会長から連絡を受け、会長室に呼び出された。


 会長室に通されたが、会長は急な用事で席を外されていた。


 部屋のソファーで待つ間、私の心は前の思い出で満たされていた。


 会長の家にお呼ばれされ、そして深く結びついたあの日。


 あれ以来、SNSでのやり取りはあるものの、会うことはなかった。


 お互い多忙だったことも原因だったと思う。


 そんなことを考えていると、ドアが開く音がした。


「あら、遅くなってしまってごめんなさいね」


 ゆったり落ち着きのある声が聞こえた。


 振り返ると、白銀の着物姿の綾乃会長が申し訳なさげな表情で入ってきた。


「いえ、こちらこそお時間を取らせてしまい、恐縮です」


 私は軽く会釈した。


 すると、綾乃さんは少し目を(うる)ませたように見えた。


「そんなこと、言わないでちょうだい。会いたかったのは私だから」  


 そう言って、綾乃さんは私の肩に手を回してくる。


「綾乃さん……」 


 彼女は何も言わず、目を閉じて私のぬくもりを感じているようだった。


 時が止まったような感覚。


 ほんのり顔を赤らめる綾乃さんの横顔がそこにはあった。


 何をしてほしいか、直感的に理解する。


 顔を近づけ、きりっとした赤い唇に重ね合わせる。


 会社を背負い、落ち着いた唇。


 唇を離し目を開けると、綾乃さんは両眼を閉じ、感覚を味わってくださっているのがわかった。


「ごめんなさい、つい……」


 私の言葉に綾乃さんが目を丸くする。


「謝らないでください。私にとってはご褒美だから」


 そう言って笑顔になる。


 綾乃さんはゆっくりと私から離れ、向かいのソファーに腰かけた。


「ありがとう。また若返った気分だわ」


「そんな……まだまだお若いです」


「いいえ、もっと若くなった感じよ」


 綾乃さんは微笑んでお茶を一口飲み干した。


「貴方を呼んだのはほかでもないわ。尚也のことよ」


「……はい」


「未春ちゃん、寂しくはないの?」


 不意に質問を投げかけられ、戸惑った。


「それは……。でも、仕方なかったんです」


 私は目を逸らして言った。


「本当にそれでいいのかしら?」


「一応、SNSでやり取りはしています」


「そう……」


 綾乃さんは私の瞳をじっと見つめた。


「寂しいなら、言ってちょうだい。遠慮しなくていいのよ」


 そう言われた時、胸の奥底に言い知れぬ感情が小さく溢れた。


 私は立ち上がり、綾乃さんの方に行った。


 そして綾乃さんの背中に手を回し、その少し小柄な身体をキュッと抱きしめた。


「綾乃さん……寂しいです」


 綾乃さんの肩を涙で濡らしてしまう。


「いいのよ……何も言わず、吐き出しなさい」


 そうして私は、綾乃さんの厚意にもたれかかり、ひと時を過ごした……。



◆◆◆



「ありがとうございました。綾乃会長」


「綾乃さんでいいわ。少しはすっきりしたかしら?」


「はい、おかげさまで。明日から頑張れます!」


「それはよかったわ」


 綾乃さんは私の変わり様に微笑んでいる。


「綾乃さん、またお願いしてもよろしいですか?」


「もちろんよ。私も忙しいから、少し事前に言ってくれたら助かるわ」


「はい。ありがとうございます」


「未春ちゃん……」


 綾乃さんはそう言うと、少し(うつむ)いて私に何かを訴えかける。


「はい……」


 私は綾乃さんの肩を抱き寄せ、少し紅潮した顔に近づき、口づけする。


 さっきより少し長めの抱擁(ほうよう)


 唇を離すと、つぶらな瞳がキラキラしていた。


「ありがとう、未春ちゃん」


 その後、綾乃さんは満足げな表情で、私を見送ってくださった。


 私は一礼し、会長室を出た。


 綾乃さんの(した)ってくださる心が何よりうれしかった。


 新たに前向きな気持ちになり、私は桐生さんと離れた日々を過ごすことになるのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ