第56.5話 天界での憂鬱③
天界は穏やかで晴れ渡っていた。
その中のとある神の神殿。
『はぁ~、退屈だわ。未春、来てくれないかなぁ』
女神アフロディーテは日向ぼっこをしながらため息をついていた。
『この前の話も、楽しかったなぁ~』
そう言いながら、ぼーっと遠くの青い空を眺めている。
「アフロディーテ様ー」
その時、遠くからキューピッドが姿を現した。
『どうしたの? 何かあった?』
「はい! あなたが気になっている人間の娘がきておりますよ!」
『え? 誰だれ?』
「あなたが気にかけている有動未春という少女ですよ」
その言葉を聞いた瞬間、アフロディーテは興奮し、目を見開き輝かせた。
『おお! 未春! どこにいるの?』
その問いにキューピッドがすまし顔で答える。
「すぐそこにいます。お連れしますね」
そう言って、姿を消した。
少しして、キューピッドが戻ってくると、隣に人間の女性を連れ立っている。
「アフロディーテさま!」
女性の声が響き渡った。
アフロディーテはその声に反応し、大きな翼を震わせた。
『未春! よく来ましたね』
「はい。夢だとはわかってます。ですが、また会えてうれしいです」
『私もよ、未春。今日はどうして来たの?』
アフロディーテの問いに、未春は一瞬躊躇する。
「実は……私にもよくわからないんです」
『え?』
「もちろん、願いや聞きたいことはあるんです。でも、今は辛くても何とか乗り切っていけています」
『そうね』
「……強いて言うなら、アフロディーテさまからいただいた力、私はうまく使えているでしょうか。せっかくもらったのに、最近は意識したことがほとんどないんです」
『なるほどね……』
未春の問いに、アフロディーテは目を閉じ、深く数度頷いた。
『未春』
アフロディーテは目を開き、未春に答える。
『私が与えた力は、あなたが世界で幸せに生きるためのきっかけでしかありません。それに……』
「……それに?」
『あなたが言う通り、今はあなたが本来持つ力で十分対応できるでしょう。あえて言えば、今のようにほんの少し、意識するだけで大丈夫です』
「はい」
『……ただ、今後はその力をうまく使いこなさねばならない時が来るでしょう。……必ず』
「え? そうなんですか?」
未春はその言葉にひどく驚いた。
『ええ。そのためには、力を扱う技術が必要になります。それを学ぶ必要があります』
「それは今からですか?」
『いいえ。ですが、近い将来必ず必要となるでしょう。あなたと、あなたの隣人たちを護るためにです』
「私の……隣人たち……」
『その時は、またここへ来なさい。私自らが手ほどきをします』
アフロディーテの言葉に、未春は驚きを隠せなかった。
「えっ!? アフロディーテさまが? お忙しそうなのにいいんですか?」
アフロディーテは少し頬を紅潮させ、答えた。
『確かに、忙しい身ではあるけれど……未春のためなら、私も協力します』
「アフロディーテさまぁ!」
『ただし、私の膝の上でしばらくお話ししてくれるかしら? それで手を打ちましょう』
「そ、そんなことでいいんですか? いくらでもやります! それにお膝の上に! 最高です!」
未春はうれしさを爆発させ、ジャンプした。
『そんなに喜んでくれるなんて……』
アフロディーテがそう言っている間に、未春が彼女の膝元にダイブしていた。
「ああっ! 最高ですこの位置! 誰にも渡したくないです……」
未春はその場で頬を何度も擦りよせた。
『ああ、くすぐったいわ未春』
そう言って未春を見下ろすと、そこには幸せオーラが満ち溢れていた。
『ふふっ、そんなにうれしいのね……』
未春の動きが止まり、アフロディーテの方を向く。
「アフロディーテさま」
『なぁに?』
「これからも、見守っていてくださいね」
『ふふっ、もちろんです』
二人はじっと見つめ合い、微笑んだ。
「何かもう、見てられませんわ」
そう言ってキューピッドは姿を消した。
温かい陽光が降り注ぎ、空はどこまでも青かった。




