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婚約者に捨てられ、親友に裏切られた私ですが――どん底からのストーリー  作者: ワスレナ
第四章

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第53.5話 裏切りの果てに――伽耶の贖罪

 春の風が、街に戻ってきた。


 通りの木々が淡い若葉をつけ、ガラス越しの光が柔らかく反射している。


 私はカフェテラスの片隅に座り、スマホでとあるSNSの画面を見つめていた。


 そこには、かつての親友――有動未春の投稿。


 穏やかな笑顔で、カフェで仲間たちと写っている写真。


 何気ない日常の光景なのに、どうしてこんなに胸が熱くなるんだろう。


「未春……また綺麗になったね」


 そう(つぶや)いた声は、思いのほか震えていたかもしれない。



――あの日、私は未春を傷つけた。


 自分の嫉妬心のために、彼女を裏切った。


 浩康との幸せな関係を奪い、踏みにじってしまった……。


 そして、不思議なことに――彼女の放心した姿と、憎しみの目で見られたことは、今まで脳裏から離れたことがなかった。


 むしろ、時が経つほどに思い知らされる。


 あの子のまっすぐさが、どれだけ周りを照らしていたか。


 そして、私や浩康をどれほど信頼し、心の支えにしてくれていたのか。


――私のやったことは、そう簡単に許されるものではない。



 そんなことを思いながら、カップの縁に残ったコーヒーの跡を指でなぞる。



 浩康が幸代さんと結ばれてから、彼とは音信不通になってしまった。


 その後に、私は自分が犯した罪を改めて味わった。


 底なしの孤独感。


 その間、過去に未春へ嫉妬心を抱き続けた日々と向き合った。


 未春から浩康を奪ってからの凋落(ちょうらく)を思い起こした。


 そして自分の状況をしっかりと認識したのだった。


 その時間は、実際のものより長く、濃密に感じられた。


 そこまでして、ようやく罪の重さを理解できた。



 ……今は地方の小さな広告代理店で働いている。


 誰も“倫道伽耶”という名前を知らない場所。


 肩書きもない。


 栄光もない。


 でも――静かで、穏やかだ。


 毎朝、小さな窓から差し込む光を見て、「今日もちゃんと生きてる」と思えるようになった。


 チェックした未春のSNSに、こんな言葉があった。


 “大切な人と未来を信じられること。それが、いちばんの幸せです。”


 私はその意味を心の中で反芻(はんすう)した。


 胸の奥が、じんと熱くなる。


 あの子はちゃんと立ち直り、新たな幸せを見つけたんだ。


 さすがとしか言いようがなかった。


 多分、あの子はもう遠いところにいる。


 でも、それでいい。


 私はようやく、(ゆが)んだ過去を(ゆる)せそうだ。


 自分のことも、あの子のことも。


 そして許されるなら……


 未春に会いたい。


 勝手だと(ののし)られていい。


 もう一度だけでいいから、ちゃんと顔を見て伝えたい。


――「裏切って本当にごめん」って。


 そして、「私を頼ってくれてありがとう」って。


 その時はきっと、きちんと彼女の目を見て言える。


 泣かずに言える。


 だから、今はこの新しいそよ風の中で、静かに前を向こう。


 テラスの向こうで、桜の花びらが舞った。


 私は深呼吸をして、微笑んだ。


 新しい季節が、また始まろうとしている。


 このままでは、いけないんだ。


 もう、何も怖くはない。

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