第53話 桐生さんの昇進、支える決意
ルミナリエ化粧品は、再び成長軌道に乗りだしていた。
新ブランドの売り上げが前年比百二十%を突破し、桐生グループ内での評価が一気に高まった。
そして――ついに、その日がやってくる。
「桐生常務、正式に専務昇格の内示が出ました」
広い会議室での報告に、周囲がどよめく。
やがて拍手喝采が沸きおこる。
私は少し離れた場所から、その光景を見つめていた。
(……やっと、ここまで来たんだ)
誰より努力して、誰より社員を守ってきた桐生さんの背中。
その姿を、ずっと見てきた。
会議後、控室で二人きりになる。
「おめでとうございます。……桐生専務」
――“専務”――言葉にすると、身が引き締まる思いがする。
「まだ権限は限定的だが、うれしいと思っている」
淡々と答えるが、その表情は誇らしげに見えた。
「ここまで……君が支えてくれたおかげだ」
「そんな、私なんて……」
「いや。俺一人では、決してここまで来られなかった」
「桐生さん……」
不意に、私の頬に手を添えてきた。
ドキッと心臓が跳ねる。
「……ありがとう」
短い感謝の言葉。
けれど、その重みに胸の奥が熱くなった。
「桐生さんの頑張りが実を結んだんです。私も、お手伝いできてうれしいです」
精一杯の笑みを添えて言った。
「だが、まだスタートラインだ。俺ももっと上を目指すぞ」
「はい。その意気です」
私たちは笑い合い、成果を讃えるのだった。
◆◆◆
夕暮れの街。
仕事帰り、二人でカフェに寄った。
「最近、やっと社員たちの笑顔が戻ってきたな」
桐生さんが誇らしげに語りだす。
「はい。桐生さんや常務の方々がいつも現場を見てくれてるからですよ」
「現場を管理する者達の気配りにも感謝している」
「……そうですね。皆さん頑張っていると思います」
「一時は世間の評判も下がってしまったが、ここまで回復するとはな」
「はい、本当にみんなのおかげです」
そんな仕事の会話でさえ、以前より弾んで話し合える。
互いに多くを語らなくても、分かり合えると感じられる。
(――きっと、この人となら)
窓の外には、桐生さんの秘書について間もない頃の、あの日と同じ夕焼けが広がっていた。
あの頃は、こんな感覚には絶対なれなかった。
けれど今は、大丈夫だと胸を張って言える。
桐生さんの眼差しが私に向けられる。
その瞳の奥に、彼の思いや心臓の鼓動さえ、感じられる気がした。
「有動……これからも、俺を支えてほしい」
桐生さんはまっすぐ私を見据えて言ってくる。
色々あったけれど、私の心は決まっている。
「はい。私でよければ、力になります」
桐生さんの目を見つめ、はっきりとした声で答えた。
しばらく見つめ合った後、窓の向こうの沈む夕陽に視線を移し、二人で見送った。
その光景が未来へ続く約束のように、私たちの絆はさらに絡み合うのだった。




