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婚約者に捨てられ、親友に裏切られた私ですが――どん底からのストーリー  作者: ワスレナ
第四章

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第52.5話 墜ちゆく男の報われぬ果て

 俺の名は実小路博康。


 九条幸代と結婚して一か月が過ぎた。


 俺たちは新居に引越しした。


 新築タワーマンションの最上階。


 街の夜景が一望できる贅沢な一等地だ。



 復活したのかって?


 とんでもない。


 会社と九条グループから借金をして家賃を支払っている。


 俺の借金は倍々に増える一方だ。


 だが、これでしばらくは取り立て屋から解放されそうだ。



「あなた! そこにいたの?」


 そしてこの妻・幸代である。


 ブクブクと肥え、ビチビチの茶色いワンピースを揺らしてこちらにやって来た。


 刺すような獣のような目。


 かつては俺の肩書きを誇らしげに言っていた女が、今はゴミでも見るような視線を向けてくる。


 俺に対する愛など、かけらもないようだ。


「高級レストランキャンセルって、どういうこと? 勝手にやってんじゃないわよ!」


「お前……本気か、幸代……」


「当たり前じゃないの! 楽しみにしていたのに……」


 周りに当たり散らかす幸代。


「俺、判断を間違ってたなのか……」


 ついぼそっと(つぶや)いてしまう。


 幸代の背中がぴくっと反応し、動きを止めてこちらを見る。


「そうかもね。あなたって、本当に物事を見る目がないものね」


 乾いた笑い声。


 お前に言われたくないセリフだ!


 直後、急に幸代の目がギラついた。


「でも、一生離さないよ。骨までしゃぶりつくしてあげるから」


 満面の笑み。


 ゴミを見るような目が、野獣のギラつく目に変貌している……だと。



――そこに愛は、あった。


 だが、俺が望むものと真逆の、おぞましいものであった。



◇ ◇ ◇



 会社では、俺の懇意(こんい)の取引先が次々に離れていった。


 信用はもう地に落ち、銀行の融資もストップ。


 残ったのは、借金と、俺名義の中古マンションだけ。


 そのマンションも、売り払ってしまった。


 その資金で再び上り調子だった株を買い戻した。


 だが、その直後見計らったかの如く、また大幅に下落。


 気付いた頃には時すでに遅しで、慌てて損切りしたものの、大赤字に。


 さらに大きな負債を抱えてしまった。


 気晴らしに夜の街で酒を(あお)りながら、俺は笑った。


「……ははっ……俺が、何をしたって言うんだ……」


 バーの天井を見上げても、誰も答えちゃくれない。


 気がつけば、スマホの画面には未春のSNSが開かれていた。


 会社のイベントの写真。


 その隣には、ライバル会社の……確か、桐生尚也だったか。


(やはり、あいつだったのか……)


 喉の奥が焼けつく嫌な感覚。


 嫉妬というより、ただ(みじ)めで、悔しくて。


「未春……お前だけは……」


 でも、その名前を呼ぶ権利は、もう俺にはない。


――俺が彼女を追い出したのだから。


 あれが数か月前の出来事とは、今でも思えないほど最近に感じた。


 俺の(そば)でいつも輝き、俺を信じ、あどけない笑顔を送ってくれていた彼女。


(くそっ! 何で手放しちまったんだ、俺)



◆◆◆



 夜明けの朝日が窓から差し込む。


 追い切れない督促状の山が俺の机に積み上がっている。


 床にも書類が散乱している。


 俺はすがる気持ちで煙草に火をつけた。


 焦げた煙が目に染みる。


 窓の外、朝焼けが街を照らしていく。


 眼下にはせわしく人や車が動き出している。


 何の変哲もない、見慣れた景色。


 前までは、誇らしげに見つめていたっけ。


――だが、今は。


 俺だけが取り残されたように感じた。


 未春はきっと、今も笑っているんだろう。


 あの頃と同じように。


「……俺が手放した光か」


 吸い殻に占拠された灰皿に、煙草をこすりつける。


 それが、俺の未来のように見えた。


 悔しさがこみ上げてくる。



 ガシャン!



 思わず灰皿を床に叩きつけていた。


 散乱する吸い殻。


 舞い散る灰。



「俺が、俺が、俺が一体、何をしたって言うんだ!!!」



 やり場のない思いが、俺の体と心を(むしば)んでいた。



「何よ! うるさいわね!!」


「ひっ!!」


 マズい!


 幸代を起こしてしまった。


「あんた、暇してんならこっちに来な!」


 その後、俺は彼女にこってり身も心も絞られたのだった……。



――俺の未来に、果たして底はあるのだろうか……。


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