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婚約者に捨てられ、親友に裏切られた私ですが――どん底からのストーリー  作者: ワスレナ
第四章

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第48話 突然の告白、深まる絆

 それは突然の出来事だった。


「未春ちゃん、ちょっと失礼するわね」


 お花摘みだろうか。


 そう言って立ち上がり、歩き出した時だった。


「あっ!」


 目の前で綾乃さんがバランスを崩す。


 すべてがスローモーションのように映る。


 私は頭より体が先に反応していた。


 綾乃さんの柔らかく小柄な身体を抱きとめていた。


「大丈夫ですか!」


 綾乃さんの大きな瞳が、驚きと戸惑いを(たた)えている。


 互いに少し長い間、見つめ合った。


「未春ちゃん」


 綾乃さんが小さな口を開く。


「……はい」


 心なしか、頬に赤みがある。


 視線はそのままに、私に言った。


「…………あなたが、好きなの」


 まっすぐな瞳で私を見ている。


――突然の告白。


 雷に撃たれるような感覚。


 少しの沈黙。


 考えるより先に、思いが先に出る。


「……私も、綾乃さんが大好きです。綾乃さんがいてくれなかったら、今頃のたれ死んでいたかもしれないです」


 私の言葉に、綾乃さんの表情がパッと明るくなる。


 不意に綾乃さんの手が私の背中をつかむ。


 私はドキッとしたが、抵抗はしなかった。


 綾乃さんは私を抱きしめ、顔が近づいた。


 目を閉じると、綾乃さんの唇が私に触れるのを感じた。


 ほんの短い時間。


 けれど、かなり長く感じた。


 目を開けると、綾乃さんの目は放心状態になっている。


「……ご、ごめんなさい」


 綾乃さんは私に謝り、目を逸らす。


「い、いえ」


 私は綾乃さんを抱き起こし、立たせた。


 肩を貸してドアまで向かう。


 そしてドアを開け、メイドさんを呼んでお手洗いに連れていくよう頼んだ。


 見送った後、再びソファーに座る。


 一分足らずの出来事だったが、綾乃さんが戻ってくるのを待つ間、色々な思いが沸き起こった。


(綾乃さんの気持ち、すごく伝わってきた……)


 意外という感じはしなかった。


 むしろ、ここまで私に目をかけてくださっていた意図がわかり、すっきりした気分だった。


 とてもうれしかった。


 浩康に捨てられてから、自分には価値なんてないと思っていたから。


 確かに、あの時綾乃さんを助けたのは偶然だった。


 けれど、確かにそうしたいと思ったから、身体が動いたんだ。


 尚也さんにも告白されたけれど、それとは別に、うれしい気持ちになった。



 そんなことを考えていると、綾乃さんがお花摘みから戻ってこられた。


 まだ顔には、少し赤みが残っている。


「おかえりなさい」


 私は立ち上がり、一礼した。


「……ただいま」


 綾乃さんはほんの少し、(うつむ)き加減で私に挨拶する。


 そしてゆるりとソファーに座った。


 直後、綾乃さんと私の目が合う。


「……未春ちゃん、さっきはごめんなさい」 


 綾乃さんは軽く頭を下げた。


「いいえ。謝らないでください」


「でも、私、あなたを驚かせてしまったのではないの?」


 綾乃さんの不安げな眼差し。


 けれど、私には無用の心配だった。


「綾乃さんの気持ち、十分に伝わりました。それに……」


「それに?」


「素直にうれしいんです。そして、今まで綾乃さんがなぜ私に優しくしてくださるのか、()に落ちたんです」


 私の言葉に綾乃さんは小さく頷き、耳を傾けている。


「私があの時、綾乃さんを助けたのは、偶然だったのかもしれない。でも、何としても助けたかった。それだけは間違いありません」


「未春ちゃん……」

 

「あの時の私は、どうしようもないほど落ち込んでいました。そんな時、私を助け、温かい心で照らしてくれたのは、ほかならぬ綾乃さんでした」


 あの時の思いが脳裏に広がるが、そのまま話を続ける。


「ですから、綾乃さんがどんな気持ちを私に抱いていたとしても、私は感謝の気持ちしかありません」


「未春ちゃん」


「そして、恋愛感情ではありませんが、私は綾乃さんのことが大好きと言えます」


 綾乃さんの瞳は大きく開き、キラキラし始める。


 私は綾乃さんの気持ちを受け、自らの過去を打ち明けようと決めた。


「綾乃さん、聞いてください」


「ええ、聴きましょう」


「私は高校生の時、大切な両親を一度に無くしました。そして綾乃さんに出会う直前も、私を大事にしてくれていた婚約者と親友から裏切られ、捨てられました……」


 綾乃さんは目を丸くして驚かれた。


「未春ちゃん、過去にそんなことが……」


「はい。もう傷つきたくないと思っていた時に、綾乃さんや尚也さんと出会い、温かい愛情を注いでもらいました。で……ですから……」


 私の目からは、涙が自然に流れ出てていた。


「私、幸せです。私でよければ……これからも……よろしくお願いします」


 私は涙にくれながら、綾乃さんの目を見て、深く一礼した。


 綾乃さんの目からも涙が(つた)っている。


「未春ちゃん……とても辛かったのね。私たちがあなたの心の支えになる。だから、これからもあなたと一緒よ」


「あ……綾乃さん……」


 彼女の言葉に、私は耐えきれず、泣き崩れてしまった。


 そんな私に、綾乃さんはそっと寄り添い、胸を貸してくださった。


 私の気持ちが落ち着くまで、綾乃さんはまるで母のごとく、無言で見守ってくださった。



◆◆◆



 帰る際、綾乃さんは庭園を案内してくださった。


 木々や花々の名前と由来、なぜ取り寄せたかを丁寧に教えてくださった。


「どれも立派て素敵ですね」


「ありがとう。ここのみんなもきっと喜んでいるわ」


 綾乃さんは満面の笑みで私に言った。


「今日はたくさんお話しできて、とても充実した一日になりました。本当にありがとうございました」


 私は綾乃さんに深くお辞儀した。


「まあ、今日の未春ちゃん、頭を下げてばかりね」


 そう言って綾乃さんはクスクス微笑んでいる。


「そ、そうかもしれません……」


 私は決まりが悪くなり、舌をちょっと出して苦笑した。


「また来るといいわ。いつでも待ってるから」


 綾乃さんはニコニコして私を見送ってくださった。


「はい。私、今日のこと、一生忘れません」


 明日からはまたいつもの仕事に戻る。


 けれど、私はこの先ずっと、この日のことを忘れないだろう。


 私の大切な恩人、綾乃さんから思いを告げられた日。


 私のことを想い、欲し、認め、受け止めてくださった。


 私も自分なりに、綾乃さんの気持ちを受け止めたつもり。



――今後、どんな困難があっても、今日この日のことを思い出し、前を向いていこう。


 なぜかわからないけれど、不思議とそう思えるのだった。


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