第48話 突然の告白、深まる絆
それは突然の出来事だった。
「未春ちゃん、ちょっと失礼するわね」
お花摘みだろうか。
そう言って立ち上がり、歩き出した時だった。
「あっ!」
目の前で綾乃さんがバランスを崩す。
すべてがスローモーションのように映る。
私は頭より体が先に反応していた。
綾乃さんの柔らかく小柄な身体を抱きとめていた。
「大丈夫ですか!」
綾乃さんの大きな瞳が、驚きと戸惑いを湛えている。
互いに少し長い間、見つめ合った。
「未春ちゃん」
綾乃さんが小さな口を開く。
「……はい」
心なしか、頬に赤みがある。
視線はそのままに、私に言った。
「…………あなたが、好きなの」
まっすぐな瞳で私を見ている。
――突然の告白。
雷に撃たれるような感覚。
少しの沈黙。
考えるより先に、思いが先に出る。
「……私も、綾乃さんが大好きです。綾乃さんがいてくれなかったら、今頃のたれ死んでいたかもしれないです」
私の言葉に、綾乃さんの表情がパッと明るくなる。
不意に綾乃さんの手が私の背中をつかむ。
私はドキッとしたが、抵抗はしなかった。
綾乃さんは私を抱きしめ、顔が近づいた。
目を閉じると、綾乃さんの唇が私に触れるのを感じた。
ほんの短い時間。
けれど、かなり長く感じた。
目を開けると、綾乃さんの目は放心状態になっている。
「……ご、ごめんなさい」
綾乃さんは私に謝り、目を逸らす。
「い、いえ」
私は綾乃さんを抱き起こし、立たせた。
肩を貸してドアまで向かう。
そしてドアを開け、メイドさんを呼んでお手洗いに連れていくよう頼んだ。
見送った後、再びソファーに座る。
一分足らずの出来事だったが、綾乃さんが戻ってくるのを待つ間、色々な思いが沸き起こった。
(綾乃さんの気持ち、すごく伝わってきた……)
意外という感じはしなかった。
むしろ、ここまで私に目をかけてくださっていた意図がわかり、すっきりした気分だった。
とてもうれしかった。
浩康に捨てられてから、自分には価値なんてないと思っていたから。
確かに、あの時綾乃さんを助けたのは偶然だった。
けれど、確かにそうしたいと思ったから、身体が動いたんだ。
尚也さんにも告白されたけれど、それとは別に、うれしい気持ちになった。
そんなことを考えていると、綾乃さんがお花摘みから戻ってこられた。
まだ顔には、少し赤みが残っている。
「おかえりなさい」
私は立ち上がり、一礼した。
「……ただいま」
綾乃さんはほんの少し、俯き加減で私に挨拶する。
そしてゆるりとソファーに座った。
直後、綾乃さんと私の目が合う。
「……未春ちゃん、さっきはごめんなさい」
綾乃さんは軽く頭を下げた。
「いいえ。謝らないでください」
「でも、私、あなたを驚かせてしまったのではないの?」
綾乃さんの不安げな眼差し。
けれど、私には無用の心配だった。
「綾乃さんの気持ち、十分に伝わりました。それに……」
「それに?」
「素直にうれしいんです。そして、今まで綾乃さんがなぜ私に優しくしてくださるのか、腑に落ちたんです」
私の言葉に綾乃さんは小さく頷き、耳を傾けている。
「私があの時、綾乃さんを助けたのは、偶然だったのかもしれない。でも、何としても助けたかった。それだけは間違いありません」
「未春ちゃん……」
「あの時の私は、どうしようもないほど落ち込んでいました。そんな時、私を助け、温かい心で照らしてくれたのは、ほかならぬ綾乃さんでした」
あの時の思いが脳裏に広がるが、そのまま話を続ける。
「ですから、綾乃さんがどんな気持ちを私に抱いていたとしても、私は感謝の気持ちしかありません」
「未春ちゃん」
「そして、恋愛感情ではありませんが、私は綾乃さんのことが大好きと言えます」
綾乃さんの瞳は大きく開き、キラキラし始める。
私は綾乃さんの気持ちを受け、自らの過去を打ち明けようと決めた。
「綾乃さん、聞いてください」
「ええ、聴きましょう」
「私は高校生の時、大切な両親を一度に無くしました。そして綾乃さんに出会う直前も、私を大事にしてくれていた婚約者と親友から裏切られ、捨てられました……」
綾乃さんは目を丸くして驚かれた。
「未春ちゃん、過去にそんなことが……」
「はい。もう傷つきたくないと思っていた時に、綾乃さんや尚也さんと出会い、温かい愛情を注いでもらいました。で……ですから……」
私の目からは、涙が自然に流れ出てていた。
「私、幸せです。私でよければ……これからも……よろしくお願いします」
私は涙にくれながら、綾乃さんの目を見て、深く一礼した。
綾乃さんの目からも涙が伝っている。
「未春ちゃん……とても辛かったのね。私たちがあなたの心の支えになる。だから、これからもあなたと一緒よ」
「あ……綾乃さん……」
彼女の言葉に、私は耐えきれず、泣き崩れてしまった。
そんな私に、綾乃さんはそっと寄り添い、胸を貸してくださった。
私の気持ちが落ち着くまで、綾乃さんはまるで母のごとく、無言で見守ってくださった。
◆◆◆
帰る際、綾乃さんは庭園を案内してくださった。
木々や花々の名前と由来、なぜ取り寄せたかを丁寧に教えてくださった。
「どれも立派て素敵ですね」
「ありがとう。ここのみんなもきっと喜んでいるわ」
綾乃さんは満面の笑みで私に言った。
「今日はたくさんお話しできて、とても充実した一日になりました。本当にありがとうございました」
私は綾乃さんに深くお辞儀した。
「まあ、今日の未春ちゃん、頭を下げてばかりね」
そう言って綾乃さんはクスクス微笑んでいる。
「そ、そうかもしれません……」
私は決まりが悪くなり、舌をちょっと出して苦笑した。
「また来るといいわ。いつでも待ってるから」
綾乃さんはニコニコして私を見送ってくださった。
「はい。私、今日のこと、一生忘れません」
明日からはまたいつもの仕事に戻る。
けれど、私はこの先ずっと、この日のことを忘れないだろう。
私の大切な恩人、綾乃さんから思いを告げられた日。
私のことを想い、欲し、認め、受け止めてくださった。
私も自分なりに、綾乃さんの気持ちを受け止めたつもり。
――今後、どんな困難があっても、今日この日のことを思い出し、前を向いていこう。
なぜかわからないけれど、不思議とそう思えるのだった。




