第39.5話 新人秘書、有動未春の話③
新人秘書、有動未春と仕事を共にしてから、数日が経過している。
秘書としての仕事を卒なくこなし、この短期間で前の秘書に近いと言っていいくらい動いている。
これだけでも十分驚きだが、それだけではない。
俺のスケジュールを常に先回りし、終わった業務のアフターフォローも丁寧にしてくれている。
何より、来客や訪問先の取引相手との印象が全然よくなった。
これは俺にとっても、一番大きいメリットだった。
前の秘書ではなかったことだ。
しかも時には自ら意見を発し、的確にリードして相手に好印象を与える。
商談が終わる頃には、相手の顔は柔らかくなり、感謝の言葉を述べて出て行く。
これは俺ですらできない領域にも達している。
不思議な魅力を持った子だとつくづく思う。
それでいて、性格は率直で素直だ。
もちろん、意見や価値観が異なることもある。
そして、俺に対しても率直に意見をぶつけ、物おじしない。
しっかりと自分の芯と軸を持っている。
俺はそういうところにも惹かれた。
今後、彼女が何を思い、考え、行動するのか。
楽しみで仕方がないんだ。
彼女の話す言葉の一つ一つ。
きちんと聞いて、理解したい。
彼女に投げかける言葉に、どう答えが返ってくるのか。
その一つ一つをじっくりと知りたい。
仕草や眼差し、表情や反応。
すべてを見聞きし、吸収したい。
有動を連れてクレーム対応に当たった。
クレーム相手はヤサカ商会の篠田洋子社長。
敵には回したくない人物だ。
取り付く島の無い挙動に翻弄される。
だが、有動が動いた。
彼女は篠田社長の言葉に丁寧に耳を傾け、対応した。
一時は相手を説得するかと思うところまで行った。
だが、その後がすごかった。
彼女はそれまでの成果をすべて捨て、謝罪に転じたのだ。
これにはさすがの俺も驚いた。
すかさず助け舟も出したが、まさか相手の要求をすべて呑むことになるとは……。
しかし、この判断は結果的に正しかった。
消費者を思いやる心が、篠田社長の心を動かしたのだ。
そして俺たちは会社として全国の消費者に対し、謝罪した。
最初こそ批判が殺到したが、すぐに鎮火し、信頼を勝ち得ていった。
【損して得取れ】を地で行くような対応だった。
そして彼女は、篠田社長の心を掴み、クレーマーからファンに変貌させたのだった。
今でもルミナリエ化粧品とヤサカ商会との関係は良好だ。
この時に勝ちえた信頼と絆は、今でも大きく会社の発展に貢献している。
また、幼馴染の九条麗華嬢にも、色々と協力してもらうことになった。
ひょんなことから新人秘書の話題をしたことで、興味を持たれたのだ。
実際に会社にやって来て、有動と対面してくれた。
少しハラハラしながら様子を見ていたが、気に入ってくれたようだった。
有動と連絡手段を交換し、交流してくれた。
そして彼女の情報を俺に伝えてくれることとなった。
さらに、様々なアドバイスもくれて、本当に助かった。
お陰で俺は、有動のことをより深く知ることができた。
そしてある日、俺の営業に同行してもらうことにした。
有動は俺が考えている以上のことを、どんどんやってのけた。
彼女の直感や感覚も冴えわたっていた。
本当に二十三歳の女子かと見紛うほどだった。
あの日は、もし俺一人で行っていたら、間違いなくトラブルに見舞われていたことだろう。
――そんなことが続き、俺は仕事の面でも、さらに彼女に惹かれていったのだ。




