表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者に捨てられ、親友に裏切られた私ですが――どん底からのストーリー  作者: ワスレナ
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/90

第39話 静かな夜、心が触れる互いの声

 その日の夜。


 仕事を終えて帰宅した私は、いつもよりも遅くまで机に向かっていた。


 麗華さんとの再会――そして、あの言葉。


『尚也をお願いね、有動さん』


 その声が、まだ耳の奥に残っている。


(……あんなふうに人を想えるって、すごいな)


 彼女の強さと優しさに触れたあと、自分の心の奥の迷いが、少しずつ溶けていくのを感じていた。


 その時、急にスマホが震えた。


 SNSの画面には「桐生尚也」の名前。


《今、少し話せるか》


 たったそれだけ。


 なのに、胸の鼓動が早くなる。


《はい。大丈夫です》


 返信して数秒後、電話が鳴った。


『急にすまない』


「……こんばんは。連絡ありがとうございます」


『迷惑でなくてよかった。今日は残業だったか?』


「はい。少し資料の整理をしていて……」


『そうか。ご苦労だったな』


 少し間が空く。


 電話越しの静寂が、かえって心地よい。


『……有動。いや、未春さん』


「は、はい」


『最近、少し疲れてないか?』


 その声は、いつもよりずっと柔らかかった。


「え……どうしてわかったんですか」


『今日の君の顔を見ていて分かった』


 ストレートすぎて、言葉に詰まった。


 何だか、ちょっと恥ずかしい。


「だ、大丈夫です。今日は……少し考えることがあって」


『考えること?』


「はい。麗華さんと、少しお話をしたんです」


 電話の向こうが、一瞬だけ静まる。


『……そうか。何か話したんだな』


「はい。麗華さん、素敵な人ですね。

最初は正直、苦手だったけど……。

でも今日、少し分かりました。

あの人もすごく、桐生さんを想ってたんだなって」


 沈黙。


 けれど、それは重くなくて。


 静かな夜に、波のように穏やかに広がっていく。


『そうだな……俺も、少し話をしておきたい』


「え?」


『あの時、君に告白したとき――本当は怖かったんだ』


 その声は、かすかに震えていた。


『誰かを本気で好きになることが、怖かった。

失うのが怖くて、仕事ばかりに逃げていた。

でも、君を見ていて……そんな自分が少しずつ変わっていった』


 彼の言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。


『君が笑うと、俺も嬉しくなる。

君が困ってると、何とかしてやりたいと思う。

その気持ちを、もう隠せなかった』


 静かに、息を呑む。


『そして、君に拒まれることも怖かった。

だが、それは麗華が大丈夫と後押ししてくれたんだ。

それと……君のいつもひたむきに頑張る姿。

それを思うと、この気持ちを必ず君に伝えたかったんだ』


「桐生さん……」


『確かに、伝えるタイミングは早すぎたのかもしれない。

それで君を驚かせてしまったことは、申し訳なかった。

だが、伝えたことに後悔はない』


 言葉が出ない。


 でも、心のどこかで答えはもう決まっていた。


「……桐生さん」


『ん?』


「私も……怖かったです。

誰かを信じるのが怖くて、踏み出せなかった。

でも今なら――少しだけ、前を向けそうな気がします」


『……そうか』


 その一言が、優しく胸に降りた。


 そして、不意に……。


『未春さん』


「はい?」


『今度の休みに……また会えないか?』


 鼓動が一気に高鳴る。


「えっ、あ、はいっ……!」


『あの時の続き、……直接話したいことがあるんだ』


 普段は聞けないどこか照れたような声。


 思わず笑みがこぼれた。


「……はい。楽しみにしてます」


『ああ。おやすみ、未春さん』


「……おやすみなさい」


 通話が切れた後も、スマホを胸に抱いたまま動けなかった。


「桐生さん……本当に、優しくて、強い人だ」


 ぽつりとつぶやいて、窓の外を見上げる。


 夜空に浮かぶ月が、心なしかいつもより柔らかく光って見えた。


――恋は、怖いものじゃない。


 きっと、信じて前を向く勇気をくれるもの。


 胸の奥でそう言い聞かせながら、私は小さく笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ