第34話 伝わる心、受け取る想い
私は机に向かい、スマホの画面を操作する。
《ありがとうございます。少しお時間いただきますね》
既読。
《ああ》
短い返事。
深呼吸をして、慎重に文字を入力する。
《桐生さん。少し……私のことをお話ししますね》
既読。
すぐに返信が来る。
《聞かせてほしい》
短い言葉なのに、胸の奥がじんわり温かくなる。
私は心を込め、少しずつ文字を打ち込んでいった。
《……私、昔、婚約までした人がいました。でも裏切られて……とても惨めで、情けなくて……》
少し長めになったけれど、サッと確認して送信。
《この前の話だね》
桐生さんからの返事に指が止まる。
気づけば涙が溢れている。
一瞬だけ、昔の楽しかった記憶がフラッシュバックする。
そこをぐっとこらえ、送信ボタンをタップする。
《はい。それから自分に自信がなくなって、もう誰かを好きになる資格なんてないって思ってきました》
十秒後に桐生さんからの返信。
《そうなんだ。それは辛いな》
わかってもらえた……。
そんな気持ちで思いを文字に乗せ、送信ボタンを押した。
《だから、桐生さんに“好きだ”って言われた時、本当にうれしくて、でも怖かったんです》
打ち終わると、胸の奥が空っぽになったみたいだった。
《どうしたんだ?》
さらに指を走らせ、形にしてから送信する。
《私……高校生の時、事故で両親を亡くしました。だから、桐生さんの相手にはふさわしくないと思ったんです》
けれど、そのすぐ後に画面が震える。
《そんなことはない。ただ……たくさん辛い思いをしたんだな》
桐生さんの言葉に――視界が滲む。
《俺に話してくれて、ありがとう》
その優しい言葉に、張りつめていたものがほどけていく気がした。
《私は……まだ恋人になるって答えは出せません。でも……桐生さんのこと、大切に思ってます》
既読。
《だから、もう少しだけ待ってもらえますか》
思いの丈を込めて、送信ボタンを押した。
一瞬の間に、鼓動が耳に響く。
けれど、すぐに返事が来た。
《ああ、俺は待つ。君が自分の答えを出せるまで》
――わかってもらえた……。
そのことが何よりうれしかった。
《ありがとうございます》
そしてまた返事が届く。
《ただひとつ、誤解しないでくれ。俺はもう、君を選んでいる》
その言葉を読んだ瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
涙が止まらない。
震える手で何とか操作する。
《うれしい。本当に……ありがとう》
送信してから、涙を拭った。
それ以上はもう、返信するのは無理だった。
(……この人に出会えて、本当によかった)
枕を抱きしめながら、私はスマホを静かに置いた。
ハンカチを手に取り、涙を吸い取る。
スマホのトークルームには、桐生さんの温かい言葉で満たされていた。
――私の心の中も、彼の愛情に包み込まれているようだった。
力を使い果たした私に、睡魔が全身を襲った。
そして、深い眠りにいざなわれるのだった。




