第28話 同期の恋バナ、私の恋バナ?
ある日のお昼休み。
秘書課のデスクに書類をまとめて置いて、社員食堂に向かう。
すると背後から元気な声が飛んできた。
「未春先輩っ! お昼一緒に行きましょ!」
振り返ると、同期で大体一緒にいる中谷莉子ちゃん。
入社してから一ヶ月、彼女はすっかり秘書課のムードメーカーになっている。
「だ・か・らぁ~、同期だって言ってるじゃん……」
「……でも私、先輩って呼んだ方がしっくりくるんです!」
まあ、別に呼び方なんていいけど……。
オドオドしていた入社当時の姿からは想像もつかないほど、今ではすっかり笑顔がトレードマーク。
先輩や周りの男性社員からも可愛がられている。
「もう、しょうがないなぁ。よし、気分いいから、今日は奢ってあげる」
「ホントですか! うれしいです。ゴチになります〜」
そう言って、私の腕にしがみついてくる。
上機嫌でサンシャインスマイル炸裂の莉子ちゃんに、思わず苦笑してしまう。
「わぁー! 今日も美味しそう!」
豪華なAランチにご満悦のようだ。
二人並んでランチを受け取り、窓際の席に腰を下ろす。
食べ始めて少しした時だった。
彼女は急に真剣な顔になって、声をひそめた。
「先輩……ちょっと、恋バナしていいですか?」
「恋バナ? ……いいけど」
「実はですね、営業部の同期の斎藤君。最近めっちゃ優しいんです」
「え、斎藤君って……あの、計算得意で無口な?」
「そうですそうです! あの人、私のこと避けてると思ってたんですよ。でも、資料作成手伝ってくれたり、コーヒー買ってきてくれたり……。これって、脈ありですかね!?」
テーブルに身を乗り出す莉子ちゃん。
「もしかして、莉子ちゃんは彼に気がある……とか?」
そのキラキラした目に押されながらも、本心に迫ってみる。
すると、彼女は急にしとやかにチェンジする。
「実は……そうなんです。それで先輩の意見を参考にしたくて……」
ヒソヒソ声で教えてくれた。
――図星か。
私はちょっと考えてから答えた。
「そうね。状況からして、それは……かなり分かりやすいんじゃない?」
すると、莉子ちゃんのサンシャインが復活する。
「ホントですか! やっぱり! ……でも、斎藤君って未春先輩のこと好きだったって噂も聞いたんですよ。だから私なんかに……って思っちゃって」
「……えっ!? わ、私!?」
意外すぎて、思わずスプーンを落としそうになる。
そんな話、全然聞いてないんですけど!?
「でも斎藤君が優しいのは、未春先輩のおかげかも。先輩って、場を明るくするし、人を動かす力があるんですよ。営業部でも“有動さん効果”って呼ばれてます」
「えっ、そんな呼び方が!?」
いやいやいや、それはさすがに無いっしょ。
「はいっ。だから、もし私と斎藤君が付き合えたら……先輩に一番に報告しますね!」
莉子ちゃんはにっこり笑って、唐揚げを頬張った。
その無邪気さに、思わずこちらまで頬が緩む。
……なんか、この子の恋がうまくいくといいなぁ。
「そういうことなら、私も全力で応援する! 彼に会うことがあれば、莉子ちゃんのこと、押しまくっとく!」
私の言葉に、莉子ちゃんがさらに笑顔になる。
「ありがとうございます。でも、恥ずかしいから……押しまくりはやめて下さいね……」
「何言ってんのよ! 好きな人にはどんどん行かなくっちゃ。気持ちを伝えないと何も始まらないよ!」
つい熱くなって熱弁してしまった……
さすがの莉子ちゃんも、ちょっとドン引き気味かも……
――そしてふと、自分の胸の奥がチクリと痛むのを感じた。
あの日の、桐生さんの言葉が、頭の中でリフレインする。
『すきだ』
私の方は、まだ答えを出せないままなのに……。
莉子ちゃんの恋の話を聞きながら、心の奥で自分の迷いと向き合う私だった。




