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婚約者に捨てられ、親友に裏切られた私ですが――どん底からのストーリー  作者: ワスレナ
第三章

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第27話 揺れる心、答えはまだ……

 翌日。


 昨日の告白の衝撃は、まだ胸の奥でじんじんと響いていた。


 出社してデスクで準備を始める。


 けれど、書類の文字が全く頭に入らない。


(……ダメだ、意識しちゃう……。まさか桐生さんからなんて……!)


 考えるほど心臓が早鐘を打ち、顔が熱くなる。


 だけど――すぐに(うなず)けるほど、自信が持てないの。


 過去の傷、そして浩康からの婚約破棄。


 結局、簡単に「はい」と言えるほど、自分の気持ちに整理がついていなかった。



◆◆◆



 午後。


 桐生さんに呼ばれて、執務室へ向かう。


「失礼します。有動です」


 部屋に入ると、桐生さんが待っていた。


「早速だが、かけてくれ」


 応接ソファを示され、私は言われるがままに腰かけた。


 心臓が早鐘を打つように跳ねる。


 その後、桐生さんも向かいのソファに座る。


「すまないな。ここの方が都合がいいだろう。他人の目も無いしな」


「……そうですね」


 私は少し(うつむ)き加減で桐生さんを見上げる。


 自分の顔が真っ赤じゃないかとばかり心配していた。


 けれど、桐生さんの顔も少し赤らんでいるように感じた。


 少しの間、沈黙が流れる。


「昨日のこと……返事を聞かせてもらえないだろうか」


 緊張が(ただよ)う中、桐生さんがリードしてくださった。


 私は、緊張で(のど)が詰まりそうになりながらも、思い切って言葉を口にした。


「……はい。そのことですが、正式なお返事は……もう少し待ってください」


 淡々とした表情の桐生さんの目が、わずかに動く。


「理由を聞いてもいいか」


「はい。……その、気持ちは……嬉しいです」


 言葉を選びながら、必死に伝える。


「ですが、私の中で……まだ心の準備ができていません」


 桐生さんは私の言葉に耳を傾け、静かに(うなず)いた。


 言葉が途切れないように、私は深呼吸して一気に吐き出す。


「初めてお話ししますが、ここにお世話になる前、つい最近なんですが……婚約まで決めていた人から別れを告げられました。そのことで、恋愛については、まだ自分の気持ちに整理がついてないんです」


 そこまで言うと、桐生さんは今まで見せたことのない驚いた表情をされた。


「そんなことがあったのか……それはすまなかった」


「いえ、桐生さんは何も悪くありません。会長にも誰にも言ってませんでしたから」


 私は少し呼吸を整えて、話を続けた。


「……ですが、あなたから気持ちを伝えてくれたことは、私にとっても……」


 そこで言葉に詰まった私は、視線を落として再び言葉を続ける。


「すぐに答えは出せないですが……少しずつなら、歩いていけると思うんです」


「そうか。……焦らせるつもりはない。答えは急がなくていい」


その声に、心臓がぎゅっと締め付けられる。


「あと、これはお願いです」


「……何だ? 言ってくれ」


「はい。仕事の時は、これまで通りの対応でお願いできますか? 私、まだまだ桐生さんの秘書として仕事がしたいんです」


 私の言葉と表情に、桐生さんも頷く。


「わかった。約束しよう。俺もプライベートを持ち込む気はない。それに、有動には気を遣わせないよう配慮する」


 桐生さんの言葉のトーンと目をみて、嘘はなさそうだった。


「ありがとうございます! 今まで以上に頑張りますので、よろしくお願いします」


 思わず私は立ち上がり、深く一礼していた。


「わかった。座ってくれ」


 桐生さんに促され、私はソファに座った。


「プライベートはすべてSNSか社外で話そう。それでいいか?」


「はい。……ただ、二、三日は連絡をもらっても、まともな返事ができないかもしれません」


 私は正直な気持ちを吐露(とろ)した。


「ああ。わかってるよ。俺も君からの連絡が来るまで待つことにする」


 桐生さんの表情が先ほどより柔らかい感じがする。


「本当にごめんなさい……」


――桐生さん、優しいのに、少し距離ができてしまった気がして――。


「ただ……いや、やめておく」


 桐生さんが一瞬、何か言いかけて言葉を飲み込む。


 それ以上追及されなかったことに、不安と申し訳なさが入り混じった。



◆◆◆



 仕事を終えてオフィスを出る頃。


 同期の莉子ちゃんが、無邪気に駆け寄ってきた。


「未春先輩~! こんな遅くまで、何かあったんですか?」


「えっ!? な、なにも!」


 慌てて首を振る。


「駅まで一緒に帰りましょう」


「……う、うん」


 私は彼女の明るい笑顔に救われた。




――けれど……。


 誰かに話したい、この胸のざわめきを。


 そんな気持ちを必死に抑えながら、私は莉子ちゃんと足並みを揃えて歩いた。



(まだ、答えは出せない。だけど……少しずつ向き合わなきゃ)



――揺れる心を抱えたまま、その答えは夜の街のネオンでさえ、解き明かしてはくれなかった……。


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