第26話 告白の行方、私の思い
あの夜のことを思い出すと、顔が真っ赤になってしまう。
そして一度思い出すと、フラッシュバックがひどくて何も手に着かない。
――話は告白を受けた時にさかのぼる。
「……すきだ」
桐生さんから言われた言葉。
私は腰を抜かしてへたり込んだ。
沈黙が流れた。
心臓はバクバク、頭真っ白。
あの絶叫の後、必死で気持ちを落ち着かせた。
「……あ、あの」
ようやく振り絞って出てきた言葉。
気持ちはうれしい。
「……その……えっと。気持ちはうれしいです」
けれど、頭も心も準備ができていなかった。
だから、勇気を振り絞ってこう言った。
「ですが、なんというか、……全然思ってもみなくて、桐生さんが私のこと、思ってくれてるなんて……」
「ああ、そうだな」
「そ、その、正直心の準備が……できてなくて……」
桐生さんは少しだけ目を伏せ、それでも落ち着いた声で返してくれた。
「……わかった。未春さんの気持ちの整理がつくまで、返事は待とう」
その言葉に、胸がじんと熱くなった。
「本当にごめんなさい」
「……気にするな。それより、起こしてやろう」
桐生さんは淡々とそう言って、私をゆっくりと起き上がらせてくださった。
しっかりと太い腕に抱きとめられ、少し落ち着きを取り戻せた気がした。
責められることもなく、ただ受け止めてもらえた安心感。
けれど同時に、私の中で何かが大きく揺れ動き始めたのも感じていた。
「ありがとうございます。近いうちに返事します。ですから……」
そう言って、私は桐生さんとSNSのアドレス交換を申し出た。
桐生さんは快く応じてくださり、個人スマホから互いに交換した。
「その……急にこんなことを……すまない……」
「ううん。……私、今、ホッとしてます」
「……未春さん」
桐生さんは意外そうな表情になった。
「お話しできる状態になったら、私から連絡します」
「ああ」
しどろもどろで同じことを何度も言ってる私を、桐生さんはそっと受け止めてくださった……
◆◆◆
翌朝。
鏡の前で髪を整えながら、昨日のことを思い返す。
心臓の高鳴りがまだ落ち着かない。
どうしてこんなことに……。
ただ、遊びじゃない目をしていた――あの人、本気だった。
髪のセットが決まり、アイラインとまつ毛の仕上げをする。
――けれど、私の過去には、婚約までした相手に裏切られた傷がある。
しかも遠い昔じゃなく、ついひと月ほど前の話。
そのことを桐生さんにまだ話していない。
だから、軽い気持ちで答えを出すつもりはない。
あの夜の桐生さんの表情を思い出すと、胸の奥が温かくなる。
不器用で、武骨で、それでもまっすぐに言葉を絞り出した姿。
……うれしかった。
――間違いなく、うれしかったんだ。
けれど、それをそのまま「好き」と返す勇気はまだない。
心の準備が整うまで、もう少し時間がほしい……。
準備をすべて終え、鏡に映った自分に小さくつぶやいた。
「……返事は、まだ。胸の奥に置いておくから」
そう言い聞かせ、私は今日も秘書としての服を着る。
新しい一日の始まり。
――けれど、胸の内には、これまでと違う熱が確かに宿っていた。




