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婚約者に捨てられ、親友に裏切られた私ですが――どん底からのストーリー  作者: ワスレナ
第二章

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28/90

第25話 な、なんですってぇぇぇ!!

 翌日の秘書課。


 デスクで資料を整理していた私に、桐生さんが不意に声をかけてきた。


「……この週末、予定はあるか」


「えっ……?」


 唐突すぎて、思わず書類を落としそうになる。


「特に予定がなければ……付いてきてほしい場所がある」


「つ、付いて……!?」


 周りの秘書課メンバーが「キャー!」と小声で騒ぎ出した。


 私は慌てて言葉を重ねる。


「お、お仕事ですよね!? そうですよね!?」


「……詳細は後で伝える」


 桐生さんはそれだけ言い残して、執務室に戻ってしまった。


 答えは聞いてないけれど、みんなの視線があったし、断れる雰囲気じゃなかった。


 これって……なに!?


 麗華さんの言ってた“正々堂々”って、まさかこれのこと!?


「未春ちゃん、あれってもしかして、デートのお誘い?」


 大原奈津子先輩が興味津々に話しかけてきた。


「いやぁー、まさか。あの堅物で仕事一直線の桐生さんがそんなわけないですよぉ~」


「そうなんだ。つまんないねー」


 まさかね、そんなことあるわけないでしょ。


 その後、メッセージで詳細連絡が届いた。


《土曜日の十四時。場所は上野公園口改札前だ》


 桐生さんらしい短い文面。


 その後少しやり取りしたけれど、詳細は教えてくれなかった。


 ただ、服装などは大体こういう感じとイメージが()いた。



◇ ◇ ◇



 そして週末。


 ピンクと迷ったけれど、淡い黄色のワンピースにした。


 イヤリングやネックレスはシックな感じのものを選んだ。


 右腕には超小型のスマートウォッチ。


 小型の黒革のバッグに、スマホと必要最低限のものだけ詰める。


 香水は麗華さんに言われた“凛”をほんの少しだけ。


 それでもお仕事周りなら、ちょっと目立つかもしれないけれど、印象は悪くないはず。


 化粧はナチュラルにまとめ、少し早めに家を出た。



 約束の時刻十四時より十分早めに到着した。


 桐生さんは、待ち合わせ場所にすでにいた。


「有動、こっちだ」


 少し大きな声がした。


 いつものスーツではなく、落ち着いた色合いのジャケット姿。


 いつもと違う笑顔を浮かべ、こちらを見て呼んでいる。


 私は思わず目を(またた)かせた。


「こんにちは。お待たせしました」


 柔らかい香水がふわりと(ただよ)う。


 桐生さんは(さわ)やかな雰囲気を(まと)ってこちらを見ている。


「ああ、早かったな。では行こうか」


 いつも通り……と思いきや、わずかにそわそわした感じがした。


 何だろう……気のせい?


「はい、今日はどちらへ?」


「都立の美術館だ。ちょうどいい(もよお)し物ががあってな。そこへ行こうと思う」


「……は、はい」


 ……な、なんなの――目的は美術館!?



 待ち合わせ場所から徒歩十分ほどのところに、美術館はあった。


 かなり大きな建物で、しっかりとした美術館だった。


 美術館に入る私を、桐生さんがエスコートしてくれる。


 ただ、何かいつもと雰囲気が違う。


「この絵はだな……」


 早口で説明が繰り広げられ、まったく耳に残らない。


「あ、あの……桐生さん?」


「どうした? 喉が渇いたのか?」


「……い、いえ」


 会話が噛み合わない。



 美術館のあと、有名な散歩道へ連れて行かれる。


 何なの一体?


 桐生さんが時折、アイコンタクトをして、淡々を話をする。


 そこで三キロ近く歩かされる。


「どうした? お腹がすいたのか?」


「いえ、もうクタクタで歩けませーん」


 行くと聞いてたらウォーキングシューズ履いてきたのに……


 両足が悲鳴を上げております……。


「……すまん。気が利かなかった」


 そういう問題じゃないのですが……


 私たちは、ちょうど空いていた白いベンチに腰かけた。


 だけど、ちょっと待って……ここまでデートコースっぽいんだけど!?


――今日の桐生さん、何か変。


「休憩できたら、食事にしようか。すぐそこなんだ」


「そうですか。でも、まずは休ませてくださいね……」


 桐生さんと隣り合わせで、無言の時間が流れた。



 付いていった先は、有名な高級レストラン。


 桐生さんが予約を入れて下さっていたらしい。


 しばらくすると、豪華な食事が次々と運ばれてくる。


「……これ、本当に食べてもいいんですか?」


「ああ。費用は俺が出す。気にせず食べてくれ」


「あ、ありがとうございます」


 と言われても、何だか気が引けるんです。


――まだ目的を聞いてないから……


 今日の桐生さん、絶対変よ!


 何も言ってこないし、聞いてもはぐらかすし、何考えてるかもわかんないよお……。



◆◆◆



 最後に案内されたのは、街の夜景を一望できる高台だった。


 桐生さんはしばらく無言のまま、夜景を見つめている。


 耐えきれず、私は声をかけた。


「あの……桐生さん? 今日、私を連れ回したのって……」


 振り返った桐生さんは、私と向き合う形になる。


 そして、三歩ほど私に近づく。


 (きら)びやかな街のネオンと相まって、私の心臓は跳ねた。


 何だろう、この胸の奥の違和感。


 いつもの距離なのに、雰囲気が違う。


 桐生さんは深く息を吸い、ゆっくりと口を開いた。 



「……み……未春さん」



 その呼び方に、思わず胸が跳ねる。


 いつも“有動”なのに……どうして今だけ。


「はい?」


 からの、沈黙?


 何? なんなの?



「……お、俺と……」



 うん。俺と?



「……その、つ……、つ、付き合ってくれないか」




「……は?」


 考えるより先に漏れ出た。


 耳を疑った。


 けれど、桐生さんは顔を赤くしながら、さらに続ける。



「す、す……すき……だ」



 頭の中が真っ白になった。



「えっ……ええええええ!?!?!?」



 思わず足元がふらつき、力が抜けてしまう。


 そして、その場にへたり込んでしまった。


「な、ななな……な、何言ってるんですか! 桐生さん!!」


 桐生さんは私から、視線をほんの少しだけ()らし、真剣なまま言ってきた。



「……そのままだ」



 心臓はバクバク。頭はパンク寸前。



「な、なんですってぇぇぇぇぇ!!!!」



 私は地面へたり込んたまま、夜景に向かって絶叫していた……。



◇ ◇ ◇



 帰宅後。


 桐生さんに介抱され、どうにか帰れた。


 あんなみっともない姿を見られ、情けなくて恥ずかしかった。



 布団に顔をうずめ、枕を抱きしめたままゴロゴロ転がる。


「ど、どうしよう……どうしようどうしよう!!!」


 桐生さんの声が、頭から離れない。



『……すきだ』



「ひゃあああああ!!!」


 叫んで枕に紅潮した顔を押し付ける。


――これって『告白』よね?


 胸の奥が熱くて苦しくて、眠れそうにない。


 全身の血が沸騰して、今にも心臓が破裂しそうだ。



「全然心の準備ができてないんですけどぉ!!」



――こうして、私の世界はまた大きく動き出した。




◆第二章 完◆


私の受難はまだ続きそうです……


え?終わりじゃない?

もうひとつあるらしいですよ。



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