第24話 運命の瞬間迫る、スポンサー契約の行方
スポンサー契約結果の当日がやって来た。
ルミナリエ化粧品の役員会議室は、いつになく張り詰めた空気に包まれていた。
桐生常務の父――桐生社長が海外出張から戻り、ついに九条グループとのスポンサー契約の最終交渉が行われる。
会議室の最前列には桐生社長と役員幹部たち。対面には九条家の総帥と、麗華さんが並んで座っている。
ここまで、桐生さんをはじめ、みんなが頑張って取りまとめてきた契約交渉。
……その努力の成果。
――いよいよ……今日で決まる。
秘書として同席する私は、場の重さに背筋を伸ばし、見守るしかなかった。
会議は淡々と進む。
錚々たる顔ぶれの役員が、いくつも並べられたテーブルを囲んで座っている。
桐生さんがこれまでの交渉経緯を説明し、麗華さんが補足を加える。
両者の言葉には一切の無駄がなく、役員たちも頷きながら聞き入っていた。
けれど、どこかぎこちなさが漂っていた。
やがて桐生社長と九条総帥が「少し席を外す」と言い、別室に移動していった。
残された会議室では、役員たちがざわつく。
「どうなるんだろう……」
「契約が結べれば、ルミナリエは一段と盤石に……」
「だが、もし失敗すれば……」
私たち全員が、手のひらに汗をかきながら、再び扉が開くのを待った。
五分後。
戻ってきた二人は、全員の前で席に着いた。
「……結論を述べる」
桐生社長の声が響く。
「九条家とのスポンサー契約は――白紙になった」
「ええっ!」
会議室が一気にざわめき立つ。
驚愕の声、困惑の表情が飛び交う。
幹部たちが互いに顔を見合わせる。
「九条様から白紙の事由を説明いただく。それではお願いします」
「うむ」
九条総帥が静かに口を開いた。
「今回、九条グループはミラージュ化粧品との提携を選んだ。さらに、我が家の長女とミラージュの御曹司との婚姻を結ぶことで、両家の結束を固めることにした」
雷鳴のような衝撃が会議室を走った。
「理由としては、御社よりもミラージュ社のほうがわずかだが、条件が整っていたからだ」
(ミラージュ……浩康の会社……!)
「そんなことって……」
私は思わず息を呑んだ。
「ここまで、多大な労力をかけて交渉に時間を割いていただき、感謝する。また、その思いに応えられず、深くお詫び申し上げる」
九条総帥は深く、しばらくの間頭を下げた。
役員たちは信じられないという表情を見せ、桐生さんは淡々と残りの議事を締めた。
けれど、その横顔は硬いままだった。
――こうして、会議は混乱のまま終了したのだった。
◆◆◆
桐生さんが自席でコーヒーを飲み、落ち着いた時だった。
常務室に麗華さんが現れる。
「麗華さん……」
私は思わず不安を漏らす。
「残念だけれど、これが九条家の決定よ」
彼女はまっすぐに桐生さんを見据え、淡々と告げた。
「決定は覆らないわ。私の力もここまで。ごめんなさいね」
「気にするな」
桐生さんがポツリと一言。
すると、麗華さんは私に目を向けて小さく笑った。
「……言いたいことは、後で送るわ。SNS、ちゃんと確認しなさい」
そう言って、今度は桐生さんの耳元に何かを囁いた。
私は距離があって聞き取れなかったが、桐生さんの目がわずかに見開かれたのを見逃さなかった。
扉が閉まり、静寂が戻る。
◆◆◆
その夜。
帰宅した私は言われた通りSNSを開いた。
『恋のライバル関係は、ひとまず保留ね。でも、もしあなたが尚也から誘われたら……受けて立ちなさい。正々堂々と戦いましょう』
麗華さんからのメッセージ。
「な、なにそれ……?」
私はスマホを放り投げ、布団に顔を埋めた。
仕事で散々振り回された上に、恋の宣戦布告までされた気がする。
――混乱と疲労で頭が真っ白になり、そのまま眠りに落ちた。
◇ ◇ ◇
その翌日。
高層ビルの豪華な一室で、一組のカップルの縁談が進められていた。
女性側は、日本でも屈指の名家、九条家。
そして、男性側は、日本トップの化粧品会社、ミラージュ化粧品株式会社代表取締役社長、実小路家。
昨日、両者はスポンサー提携の契約を結んだ。
今回の縁談は、その一環として行われることになった。
両家の子息、子女の縁談。
粛々としめやかに進み、円満にまとまった。
長女・幸代と次男・浩康との結婚は、スポンサー契約の話と共に、後日ニュースで大々的に報じられた。
――両者の結びつきは、これによってより強固なものとなるのだった……




