第21.3話 元カノ有動未春の話③
それはほんの些細なことだった。
あの日の俺は絶好調で、そんなことが起こるなど、これっぽっちも考えなかった。
詳しいことは覚えていない。
仕事中に彼女からSNSでメッセージが入っていたが、気付かずにいた。
帰宅すると、部屋が暗かった。
今日は未春が来ていないのかと思いつつ、リビングの明かりをつける。
ソファーの上に未春が両膝を抱えて座っていた。
思わずビクッとしてしまった。
彼女は膝におでこを当て、俯いている。
「未春ただいま、どうしたんだ?」
声をかけると、彼女は俺に気付いた。
俺の方を見て、じっと目を見つめてきた。
「……メッセ送ったんだけど」
ぽつり一言。
だが、そこには重々しい圧と底深い敵意を感じる。
――今までの彼女にはない言動だった。
そして、ものすごく機嫌が悪いことだけはすぐに察した。
そう言って未春はまた、膝に顔を埋めた。
「……あ、ああ。忙しくて気付かなかった。今見る」
俺はスマホを取り出し、未春からのメッセージを確認した。
《あんた、浮気してんの?》
《証拠はあがってんのよ》
――文章は短いが、未春らしからぬ口調で、ぐさりと来る言葉が並んでいた。
なぜバレたんだ?
何が?
いつ?
誰の?
気付けば、未春が聞きだしたいモノを、俺が思い出す羽目になっていた。
「……今確認した。お前が思ってるようなことはしてないよ」
「お前?」
「うっ、すまん」
言葉尻を取られるが、そういう問題じゃない。
「な、何でそんなことを思ったのかな?」
半ばパニック気味の頭のまま、未春に聞き返す。
未春はこちらを向くと、目を細め、俺を少し睨んで口を開いた。
「ほんとに気付かなかった?」
「……ああ」
未春は小さくため息をついて呆れ顔になった。
「――香水」
「へっ?」
何を言ってるんだ?
いつも消臭剤をかけて消してるが……
「ディマール社の新商品の匂い、わずかに残るの知らなかった? 私は使ってないけれど」
マジか。
そいつは知らなかった……
「……な、何を」
言いかけた時、未春がすっと立ち、小型のショルダーバッグを肩にかける。
「あとは自分で調べてよ。じゃあ帰る」
そう言うと、すたすたと家から出ていってしまった。
一人取り残された俺は、呆然となった。
これはマズいな……
いや、今ならまだ間に合う。
全部もみ消して何とかしよう!
さらに、ほかに付き合っていた女たちを整理し、履歴などを消去した。
数日後。
俺の必死の説得で、未春は機嫌を直してくれた。
――だが、この時から俺と未春の何か小さな歯車が、狂い始めた。
俺はそのことに気付けなかった。
うまくごまかせたと思い込んでいたのだ。
表面的にはほぼ元通りの生活に戻っていた。
だが、俺の周りで今まで続いていた幸運が、徐々に弱まっていっていたのだ。
――そう、徐々に……だ。
当時の俺に、それに気付けるはずもなかった……。
未春とは、うまくいっているのに……だ。
それから数日後。
――突然、俺の前に、倫道伽耶が現れた。
今思えば、これらが俺たちの転換点だった。
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