第20話 再びの女神さまと、クレームの顛末
(…………ん)
私の……意識……
――まだ、すべてがぼんやりしている。
だんだん、意識が輪郭を帯びてはっきりしてくる。
(また……やっちゃった?)
瞼が開く。
視界が光を帯びる。
「……ここは?」
辺りを見回すが、一面真っ白。
病院や医務室では無さそう。
『……えますか?』
かすかに女性の声が聞こえる気がした。
『……私の声が……聞こえますか?』
――聞こえた!
「は、はい!」
返事の直後、白い景色が一気に色を帯びた。
蒼く晴れ渡る空。
見覚えのある白い雲の床に、白い石造りの神殿の中に立っていた。
そして、金髪サラサラのきれいな女神さま!
身体も、まばゆい豊かな胸も、すべてが大きすぎて素敵です。
「アフロディーテ様!」
『未春、よく頑張っていますね。いつも見守っていますよ』
「あ、はい。……ありがとうございます」
私がはにかむと、アフロディーテ様がうっすら微笑まれる。
『実は、近頃のあなたを見ていて、気になることがあって、夢に出てきたのです』
「ど、どういうことでしょう?」
『あなた、最近よく意識を失っていませんか?』
その言葉に、いくつか思い当たる節があった。
「はい。おっしゃる通りです。ついさっきもやっちゃいました」
照れ笑いしてペロッと舌を出す。
すると、アフロディーテ様が愁いを帯びた表情になる。
「どうかされましたか?」
『ごめんなさい、未春。どうやら、三つ目のカプセルを飲んで、あなたの身体が耐えきれなくなっているようなのです』
「……確かに。赤のカプセルを飲んでから、そんな感じが続いてます」
『ええ。本来は副作用のようなものは無いのですが、三つを飲んだ者は今までいなかったのですよ』
「そうなんですか?」
というか、カプセルをもらった人間がほかにいたのかしら……
『その対処をするために、やってきました』
「どうするのでしょう? 私が何かすればいいのですか?」
『いいえ。未春、こちらへ来て』
私はアフロディーテ様の言われるまま、近づいた。
すると、彼女の身体がみるみる縮んでいく。
『さあ、私のもとへ――』
アフロディーテ様のお傍で跪こうとすると、彼女は私を抱き寄せた。
「あっ!」
温かく安らかオーラに包まれ、柔らかい胸の中に抱かれる。
「……なんだか、落ち着きます」
そんな私の頬に手を当て、少し頭を上げさせると、おでこに口づけされた。
「……ええっ!」
『――そのまま。目を閉じて』
アフロディーテ様の優しい声に従い、目を閉じる。
おでこからアフロディーテ様の温かいオーラが身体全体に浸透していくのを感じる。
そして、脳の中の何かがじわり温かくなり、冴えわたる。
ふっと、丸い何かをイメージとして感じ取った。
(……これって、ま、まつぼっくり?)
よくわからないが、アフロディーテ様を信じ、柔らかさを噛みしめていた。
――体感、時間にして一分ほど経った頃。
『未春、終わりましたよ』
「あっ!」
私はすっかり熟睡していた。
「アフロディーテ様……ごめんなさい」
私が謝ると、アフロディーテ様はにっこり微笑んだ。
『あまりに気持ちよさそうだったのでそっとしておいたのですよ。儀式は終わりました』
「早っ! お仕事が早いですね」
『ふふっ。これでもう意識がなくなることはないでしょう』
身体が何か変化したという実感はなかった。
けれど、アフロディーテ様が太鼓判を押してくれているから、きっと大丈夫なはず。
「ありがとうございますぅ~。アフロディーテさまぁ」
私はアフロディーテ様の腿をすりすりしながら、夢の中を満喫したのだった……。
◇ ◇ ◇
目が覚めた。
白い天井と微かな消毒液の匂いが感じられた。
今度は医務室のベッドで間違いない。
「起きたか……大丈夫か?」
桐生さんが私に気づき、声をかけてくださる。
「……はい。またご迷惑をかけてしまったんですね。ごめんなさい」
「気にするな。それより気分はどうだ?」
いつもの淡々とした口調で聞いてくる。
アフロディーテ様の加護のお陰か、気分も体調も全快していた。
「はい。とてもいいです。ゆっくり休めたみたい……」
「そうか」
たった一言。
けれど、その後桐生さんは椅子から立ち上がり、再び口を開いた。
「……よくやった」
「えっ……」
「営業部が束になっても収められなかった場を、君は変えた」
淡々とした声音。
でもその横顔の口元が、ほんの少し緩んだように見えた。
胸の奥にじんわり温かいものが広がっていく。
(……もっと、この人の役に立てるようになりたい)
そう強く思いながら、私はベッドから起き上がった。
◇ ◇ ◇
その後、桐生さんを通じて篠田様の件は役員会に採り上げられ、全会一致で了承された。
原因が直ちに突き止められ、会社はマスコミや雑誌を通して、国民にすべてを明かした。
そして公の場で会見を開き、社長が誠実に謝罪した。
――ルミナリエ化粧品の信用は、一時的に落ちた。
けれど、商品回収と補償を速やかに行った結果、事態は鎮火していった。
むしろ、対応の良さ、素早さがみんなから認められて、ルミナリエ化粧品は大きく信用を伸ばしていった。
――そして、この問題が明るみに出たことで、ミラージュ化粧品をはじめとする同業他社に飛び火し、爪痕を残すことになっていく……。
◇ ◇ ◇
あれから二日後。
篠田様が再び会社にやって来た。
そして、法務部との交渉のついでに、私に会いに来られた。
「篠田様、この度は大変ご迷惑を……」
「もういいのよ。貴方がたのことをテレビで見たわ。約束を守ってくれたのね」
「はい。桐生常務が先頭に立って上を説得してくれました」
「そうなの? あの方、私との約束、守ってくれたのね」
篠田様の目に光が差している。
「まだ示談交渉の途中ですが、これだけは言わせてください。篠田様のおかげで、会社は救われたんです」
私は篠田様の目を見て発言した。
彼女は、小さなため息を吐いて答える。
「……私は許せなかったから、怒鳴り込んだ。それだけよ」
「ですが……」
「もしそうだというなら、それは私の言葉に耳を傾け、すぐに行動したあなたと桐生常務の手柄よ」
私は心の中で違うと思っていたが、彼女は話を続けた。
「正直会社がどうこうなんて、私にとっちゃどうでもいいこと……でも、あなたが私の話をちゃんと聞いてくれたこと。それだけは絶対に忘れない」
そう私に言いきると、篠田様は目の前のお茶を飲み干した。
そして、私の目をまっすぐ見て聞いてきた。
「失礼だけど、もう一度あなたの名前を聞かせてくれるかしら?」
「はい。有動未春です」
「未春ちゃんね。漢字も教えてちょうだい」
篠田様は金色のカバンからメモとペンを取り出し、私の説明を書き留める。
「ありがとう。覚えたわ」
篠田様はにっこり笑った。
「今日から私は、貴方のファンだから。覚えておいてね」
「そ、そんな……ありがとうございます」
私の反応に篠田様はクスっと笑った後、ぽつりと告白した。
「ここだけの話、最初から少し嫌がらせの気持ちもあったのよ。どこまで誠意を見せるか、試してやろうと思ってたの」
私は首を横に振った。
「そのお声があったから、私たちも救われたんです。ありがとうございます」
私は軽く会釈した。
一連の言動に、篠田様はしばし沈黙し、それから大きく笑った。
「……あなた、本当に気に入ったわ! 連絡先を交換しなさい!」
「……は、はぁ」
互いにスマホを出し、交換し合った。
その後、彼女は満面の笑みで私に言い放った。
「私は篠田洋子。ヤサカ商会の社長よ。未春ちゃんに何かあれば、力になるから」
「あ、ありがとうございます」
少し痛いくらいの握手を交わし、篠田様は帰っていった。
――こうして一人、私の人生を左右する知り合いが増えたのだった。
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