表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者に捨てられ、親友に裏切られた私ですが――どん底からのストーリー  作者: ワスレナ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/90

第18話 波打つ心、嵐の予感 

 翌日。


 オフィスの空気はまだ、昨日の会議の余韻を引きずっていた。


「九条麗華様、本当にお綺麗だったわね」


「桐生専務と並ぶと……やっぱり特別感がある」


 (ささや)きが耳に入るたび、胸の奥がざわめく。


 昨日のSNSの交換を知っているのは桐生さんだけ。


 まだ信じられない思いでドキッとする。



 みんなの噂話は気にしない、そう言い聞かせても心は静まらなかった。



◆◆◆



 午後。


 急な来客対応で桐生さんと共に応接室へ向かう。


 取引先の役員さんが、再び契約条件について確認に来ていた。


 桐生さんが対応するが、会話は平行線で進展せず、相手の顔が渋くなる。


 その様子を見ていて黙っていることができず、思わず私は口を開いていた。


「……御社の市場拡大を考えるなら、条件を緩やかに調整する方が、結果的に利益に繋がると思います」


 少しの沈黙の後、相手の表情が和らいだ。


「……なるほど。若いのに鋭い視点を持っておられる」


 交渉は和やかに終わり、取引先の役員は帰っていった。



 部屋が静寂を取り戻すと、私は頭を下げる。


「出過ぎたことをしてしまい、申し訳ありませんでした……」


 頭を上げると、桐生さんは私の目を黙って直視している。


 そして一言ぽつり。


「いや……助かった」


 それだけの言葉だったが、心臓が跳ねる思いがした。


「お役に立てたなら……何よりです」


 私はホッと胸をなでおろすのだった。



◆◆◆



 会議室での商談のあと、再び麗華さんが打合せでやって来ていた。


 彼女が、にっこりと微笑んで私に歩み寄ってきた。


「昨日は交換ありがとう。でもまだ見てくれてないようね」


「え?」


「送信したのに、返事がなかったわよ。いい気なものね」


「す、すみません。あとで返事します」


 声は柔らかいのに、どこか見下すような調子だった。


「尚也とは小さい頃から一緒なの。彼のことなら誰よりもよく知っているわ」


「……そ、そうなんですか」


「ええ。あなたが知らない昔の癖も、好きな食べ物も……全部ね」


 優雅な仕草で笑みを浮かべる。


 完全に“優位”を示す態度だった。


「そ、それは素敵ですね。ホホホ……」


(うわ……めんどくさっ)


 私は心の中で舌打ちしたい衝動を抑え、笑顔を保った。


「ですが……私は秘書として、桐生さんにお仕えしているだけですので」


 精一杯、冷静に返す。


 だが次の一言で、心臓が大きく跳ねた。


「……でも、彼のことを“ビジネスパートナー”以上に意識しているんじゃなくて?」


「っ……! そ、そんなことはありません!」


 私は慌てて否定する。


「ふふ、冗談よ。かわいい子ね」


 麗華さんは涼しい顔で私のことをたしなめる。


 その背中を見送りながら、胸の奥に針を刺されたようなざわつきを覚えていた。



◆◆◆



 いつもの専務室。


 私は思い切って口を開いた。


「……桐生さん。九条さんとは、どういうご関係なんですか?」


 私の質問に、彼は淡々と答える。


「家同士の付き合いだ。昔からの縁もある」


 それだけかと思った次の瞬間、桐生さんは一拍置いて続けた。


「……あの人は、特別な存在だ」


「っ……!」


 桐生さんの表情が緩み、あどけない笑顔が漏れる。


 なぜだか胸が強く締め付けられた。


 けれど、桐生さんはすぐに視線を外し、淡々と補足する。


「俺が昔……」


 何かを言いかける。


 と――その時、プルルルル……と電話が鳴った。


 私は電話に出るため走った。


――結局、その日はそれっきりになってしまった。


 桐生さんの会話は途中で打ち切られたまま、機会を逃しちゃった。


 けれど私の胸のざわつきは続いていた。


(やっぱり……特別な人なの?)



◆◆◆



 帰宅後。


 布団に顔を埋めながら、心のざわめきに抗おうとした。


「何なの一体! ウザい女に絡まれただけ……なのに……」


 脳裏に桐生さんのあどけない笑顔が再生される。


「……どうして、こんなに気持ちになるんだろう」


 ふと麗華さんの言葉を思い出し、スマホを見る。


 すると、麗華さんのアカウントに新着が数件溜まっていた。


 中を見ると、私のことを聞くような内容ばかりだった。


「何なのこれ? 一体どういうことよ……」


 何か私のことを恋のライバルとかって、勘違いしているのかしら……。


――だとしたらマジでウザすぎる。


「私のことなんて、ほっとけばいいのに……」


 そう言って、ベッドに身を預けてスマホを放り投げる。


 今日一日の疲れがどっと押し寄せ、睡魔に勝てない私は、そのまま目を閉じるのだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ