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第10話:真夜中のブギーは終わらない


深夜2時。

街の灯りはすっかり落ち、スマホの画面も静かに沈黙していた。


だけど俺の中には、まだ“音”が鳴っていた。

ユイの声。ユイのステップ。

そして、あの言葉。


「さよなら。またいつか」


文化祭のステージを、ひとりで訪れた。

今は無人の体育館。

照明も、音響も切られたステージの上に立つ。


スマホの録音アプリを起動する。

マイクを床に置き、カセットテープをそっと並べた。


そして――静かに、足を踏み出した。


ステップ。

ターン。

手を振り上げる。

回る。

沈む。


それはユイの真似ではなかった。

でも、ユイからもらった“音”に応えるダンスだった。


頭の中で、彼女の声が再生される。


「私、踊りたかったんじゃない。

 “気づいてほしかった”だけ。

 “音”としてじゃなく、“人”として、ね」


足音が床を打ち、空気が揺れる。

そこに音楽はない。

でも、確かに“響いている”。


俺の中にいた沈黙が、音になっていく。

ユイの記憶が、記録じゃなく、実感へと変わっていく。


踊りながら、ふと、誰かの視線を感じた。

体育館の隅。

カーテンの影から、誰かが見ていた。


制服姿の女の子。

顔は見えない。でも、その佇まいには覚えがあった。


ユイだった。


ステージの上、俺は最後の一歩を踏みしめた。

そして、ユイの方を向いて深くお辞儀をした。


その瞬間、彼女もまた、ふかぶかと頭を下げた。


互いの音が交差した。

“記録されなかった音”が、互いに再生された。


気づけば、誰もいなかった。

静かなステージに、残されたのは、足跡と――


一本のカセットテープ。

そのラベルには、彼女の字でこう書かれていた。


「Get wild and tough

 明日が平和なら、それでいい」


俺はそれを持って帰った。

今も時々、深夜になると再生してみる。

だけど音は鳴らない。


それでも、不思議と安心するのだ。


なぜなら、音は残っている。

耳ではなく、心に。

ダンスではなく、想いに。


そして今夜も、どこかであのステップが聞こえる気がする。


ステレオから、あるいは夢の中から。

小さくて、でも確かに存在している“あの子のリズム”。


Chu-chu, yeah

Please me

Without you


真夜中のブギーは、終わらない。

それは、誰かが誰かを思い出し、

誰かが誰かをちゃんと見ていたという、証明だから。



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