第一話:始まりの扉
「あー!なんてことだ……」
俺の声は震えていた。
些細な過ちだと思った。
ただ、メールの送信先を間違えただけだった。
でも、その間違いが、すべての始まりだった。
深夜の部屋でスマホを握りしめ、俺は何度も画面を見つめた。
相手は、幼なじみのユイ。
軽い気持ちで送ったはずのメッセージが、彼女の知らない誰かに届いてしまった。
「どうして突然?逃げ切ったっていいでしょ?」
その文面があった。
ただのからかいのつもりだった。
しかし、翌日から奇妙なことが起こり始める。
ユイはまるで別人のようだった。
学校での無邪気な笑顔は消え、目が虚ろになり、誰とも話そうとしない。
俺に向ける視線も冷たく、時折背後をじっと見つめていた。
「そんな気分になっちゃって」
そんな軽い言葉が、まるで呪いの言葉のように胸に突き刺さる。
その日、俺は学校の帰り道で彼女を見かけた。
薄暗い路地裏で、彼女はひとりブツブツと呟いている。
「始まりはそんな風で……」
近づくと、彼女の目が突然こちらを見た。
そこには、もはやユイの面影はなかった。
「声が聴こえるよ、さあ!行こう!」
俺の名前を呼ぶ声が、どこからともなく聞こえた。
足が動かなくなる。
周囲は静まり返り、風の音さえ消えた気がした。
その夜、家に帰るとスマホに見知らぬ番号からメッセージが届いていた。
「僕は君の翼になれる勇気があるよ」
意味のわからない言葉に、鳥肌が立つ。
返信しようとしたが、指が震えて画面を閉じた。
部屋の窓の外を見上げると、月明かりの中、黒い影がふわりと舞い上がるのが見えた気がした。
「Chu-chu, yeah! Please me! Without you!」
あのポップなフレーズが、まるで悪魔の囁きのように頭の中をぐるぐると回った。
これは、はじまりの扉。
もう、後戻りはできない。