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第7話 ヒロインの姉からプロポーズされた件

 ダーナ機の手のひらに乗せて貰った俺とティアマトは、ティアマトの国「アシュタリア」へと向かっていた。


『まもなくタリア大森林を抜けます。ティアマト様、ショウゴ殿、しっかり掴まって下さい』


 ダーナ機が気を利かせたのか、空高く飛翔する。水平線の向こうに見える太陽。近くを飛び回る小型飛竜。背後にはダーナに指揮されていた2機が。遠くでは、一定間隔で他の機体が空を飛んでいた。ヒュドラムを捜索していた人達か。


「うわぁ……」


 機体の手のひらから国を見下ろした時、思わず息を呑んでしまう。大森林の中央にポッカリと開けた草原、その中央には巨大な街が。森に囲まれたその様子は、まるで天然の要塞のように思えた。


 石造りの建物に街並み、城に塔……俺が知ってる王道ファンタジーの世界って感じだな。でも、そこにロボットが飛んでいる。その光景が不思議だ。


「あそこがお父様のお城です!」


 ティアマトが嬉しそうに城を見下ろす。風になびく髪に無邪気な横顔、俺はいつの間にか彼女から目を離せなくなっていた。


「? どうしましたショウゴ?」


「い、いや、なんでもない!」


 顔を背けてしまう。首を傾げるティアマト。恥ずかしくなって城の方を見ると、ダーナ機からポツリと声が聞こえた。


『うぅ、いいなぁ……彼氏欲しいぃ……』


「何か言いましたかダーナ?」


『い、いえ! 間も無く着陸します! しっかり捕まって下さい!』


 俺達は、ティアマトの住む城へと降り立った──。




◇◇◇


 城に着いた俺は、ティアマトの着替えを待ってから謁見の間へと通された。広間の奥に大きな椅子。玉座ってヤツか? それに座った小柄な男性と、その横にとんでもない美人の女性が座っている。


 ダーナに作法を教えて貰って片膝を付き、頭を下げる。ドレス姿に着替えたティアマトも俺の隣にしゃがみ込んだ。


(お父様とお姉様です)


 ティアマトが耳元へ囁いて来る。お姉さんか……たしかにあの人、ティアマトの母親にしては若すぎると思った。


 だけど、アレだな。氷みたいに冷たい顔してるからか、美人だけどなんか怖いな……ティアマトに似てるはずなのに、彼女が絶対にしない表情をしているから違和感がすごい。


「おお! ソナタがティアマトの搭乗者か!? それもヒュドラムを2体も討伐した強者(つわもの)と聞いたぞ!」


 小柄で髭を蓄えた王様が玉座から身を乗り出す。こちらはどことなくティアマトと雰囲気が似ていて、人の良さそうなおじさんだ。ティアマトがルカド王だと彼の名前を教えてくれる。ルカド王は嬉しそうにウンウンと頷いた。


「いやいや、娘の搭乗者が見つかるか心配しておったが、ソナタのような男なら儂も安心だ。どうか娘を幸せにしてやってくれ!」


 深々と頭を下げる王様。周囲の兵士が小さく感嘆の声を漏らす。え、ちょっと待て。これだとなんか結婚の挨拶みたいになってないか?


「い、いやいや王様! 俺はただティアマトと戦うだけですよ。そんな大袈裟な……」


「竜闘の儀を勝ち抜けばソナタの願いを1つ叶えてやろう。娘を妻にするとか娘を妻にするとか娘を妻にするとかな!」


「え、ちょ、話が飛び過ぎじゃないですか?」


 助けを求めるようにティアマトを見る。彼女は頬を赤らめながら両手で頬を押さえていた。


 ……いや、さっき見惚れてたけどさ、話進みすぎだろ!! まだ出会ったばかりだろ俺達!!


 そう叫びたくなるのを抑える。ここで喚いてもややこしくなるだけだ。今はスルーして、後でティアマトに文句言ってやる。


「時に娘よ。ショウゴ殿のアッチの方はどうだったのだ?」


 え、アッチの方ってドッチの方?


「そ、そんなお父様……恥ずかしいです……、も、もちろん相性は抜群でしたよ。激しくて、情熱的で、それでいて優しくて……♡」


「ちょっと待て!! なんかそれだと全然違う話に聞こえるんだが!? 操縦の事だよな!? なぁ!?」


 焦って反論すると、王様はイタズラをした子供のようにニヤニヤと笑った。


「当たり前ではないか。ショウゴ殿は一体娘とのナニを想像したのだ? ん?」


「え? ショウゴは何を想像していたのですか?」


 く、クソ……ティアマトの方は無垢な顔で聞いてきやがる……エロ親父に天然娘かよ……!



 ん?



 だけど変だな。ティアマトは「自分がどう思われているか分からない」と言っていた。この王様はデリカシーゼロのエロ親父だが、ティアマトに辛く当たる風には見えない。一体ティアマトは誰に……。


 そう思った時、隣に座っていた女性が声を上げた。ティアマトのお姉さんが。


「父上。我が国の品位を下げるような発言はお控え下さい」


 ピシャリと言い放つティアマトのお姉さん。王様も、ティアマトも、その声にビクリと体を震わせた。


「す、すまんアシュタルよ。儂もティアマトが嬉しそうでついの……」


「つい、ではありません。常日頃からの言動が国の品位を築くのです。父上は他国から下に見られた上で外交を行うのですか?」


「い、いや……そのような事は……」


「では、この場に私にお任せを」


「あ、ああ……任せた」


 アシュタルと呼ばれた女性は俺をジッと見つめてきた。鋭い眼光に若干ウェーブのかかったショートヘア。ティアマトより少しだけ長いうねった角。見つめるというより鋭い視線に射抜かれているようだ。


「無礼をお許し下さい異世界から来た戦士よ。(わたくし)はアシュタル・ラ・アシュタリア。この国の第一王女です。現在は我が父に代わり、この国の実務を担っております」


「あ、はい。それほど気にしていた訳じゃないんで……」


 実務? じゃあ、あの王様はお飾りってことか。それでのほほんとした雰囲気って訳なんだな。


「貴方の活躍は聞いております。我が愚妹に乗りながらヒュドラムを討ち取るその力、(わたくし)は高く評価しておりますよ」


 なんだかその言い方に引っかかりを覚える。なんだ「愚妹に乗って」って……それじゃあティアマトの事、全然信用してないみたいじゃないか。


 彼女はチラリとティアマトを見てから言葉を続けた。


「どうでしょう異世界の戦士よ。貴方が望むならば私の夫(・・・)としてこの国に迎えましょう。竜闘の儀への参加を断念致しませんか?」


「は? なんだよそれ」


 頭が追いつかない。アシュタルが笑みを浮かべる。しかし、その笑顔はぎこちない。なんだか無理矢理笑ったみたいだ。


「私と結婚すれば貴方を次期国王としてもよろしいですよ? 政治は(わたくし)に全てお任せ下さい。お恥ずかしながら、私も若さを保つ為努力はしておりますので、その、満足させる事はできるかと」


 恥ずかしそうに目を伏せるアシュタル。王? 政治? なんでだ? なんで見ず知らずの俺に、そんな条件出すんだよ。どう考えてもおかしいだろ。


「お、お姉様!! ショウゴは私と……」


「黙りなさい」


 アシュタルの声で口をつぐむティアマト。アシュタルはそのまま捲し立てるように言葉を放った。


「ティアマト。(わたくし)がいつ、貴女が竜闘の儀に出る事を許したのですか? 己の独断でこの国の代表となるなど……」


「で、でも! 私自身の目で搭乗者を見極め、召喚する事をお許しになってくれたではありませんか!?」


 アシュタルは深くため息を吐き、そして冷めた目でティアマトへ視線を送る。


「貴女が選んだ搭乗者に拒まれたのであれば、身の程をわきまえると思ったからこそ許したのです。今回は運良くそちらの戦士様に見初めて頂いたようですが? 私は貴女に闘う資格(・・)があるとは思えません」


「で、でも」


「でも? 私に口ごたえするのですか? 貴女に資格があると証明できて?」


「そ、そんなこと……」


 ティアマトが言い淀む。その姿を見て沈黙するアシュタル。彼女は視線を逸らしながらポツリと呟いた。


「本当に愚図な子……己の分をわきまえて生きればこのような……」


「……!?」


 その瞬間、ティアマトは俯いた。王も慌てた様子で「言い過ぎだ」と嗜めているが、アシュタルは意にも介さないといった様子だ。


 その様子に徐々に腹が立って来る。俺が元の世界にいた時の奴らと同じだ。勝手に決めつけて、こちらの事など考えもしない。何より……。


 横目でティアマトを見る。悲しげな顔をしている彼女。俺の見てきたティアマトとは全く違う顔を。


 ダメだろ、この子にこんな顔をさせたら……。


「……なぁ、アシュタルさん」


「私の提案を受け入れる気になりましたか?」


 気が付いたら声を上げていた。拳を握りしめる。この発言で俺がどんな印象を持たれるか分からない。下手したら牢屋にぶち込まれるかも。だけど、言わずにはいられなかった。ティアマトの尊厳を守るには、これしか無いと思った。


「俺は、アンタに興味は無い。俺は……ティアマトと一緒に竜闘の儀へ出るぜ」


「な……!?」


 アシュタルが目を見開く。そして、顔を歪ませて俺の事を睨み付ける。


「なんと愚かな……そのような事を言われてはこちらにも考えがありますよ? 元の世界に帰れなくなってもよろしいのですか?」


「それは困るな。俺も勝手に呼び出されて帰れないなんてのは困る」


「そうでしょう? 貴方が帰りたいと言うのなら元の世界に返して上げても良いのですよ」


 恐らく彼女は権力で自分の思う通りにしたいんだろう。そうはさせるか。ここでは王も見ている。お飾りと言ってもこの国のトップだ。その王の前でこう言えば、いくら王女でも受け入れなければならないはずだ。



「だからさ、こうしよう。俺達を止めたかったら、決闘(・・)で止めてみな」



「決闘……ですって?」


「そう、竜闘の儀は決闘競技なんだろ? なら、決闘で白黒付けたら分かるだろ。ティアマトにその資格(・・)があるってことをさ」


 アシュタルが不快な顔をする。しかし、隣の王様に否定の色は無い。このまま押し切れそうだ。


「俺はティアマトに乗って闘う。アンタは兵士でも騎士でも連れてくればいい。俺達が勝てば竜闘の儀に出る事を認めて貰う」


「ショウゴ……」


 ティアマトが俺の腕を掴む。俺は、その手を取って彼女の瞳を真っ直ぐ見つめた。俺は味方だと伝えたかったから。


「嫌か?」


「なぜ、そのような提案を……?」


「こうすればあの頭の硬い姉さんも認めざるを得ないだろ、ティアマトの力を。それに……」


 今度は恥ずかしくて顔を背けてしまう。だけど言葉だけはちゃんと伝えようと思った。正直な今の俺の思いを。


「ティアマトは俺の……その、愛機だろ? 俺は愛機が馬鹿にされて黙っていられるようなヤツじゃない」


 彼女が愛機という表現は自分でも変だと思う。でも、今の俺達は間違いなく搭乗者と愛機の関係だ。なら、俺のこだわりは貫かせて貰う。


 ……俺がヒュドラムと二度戦った時、ティアマトは想像を絶する力を発揮した。俺には分かる。ティアマトは特別だ。竜機兵に選ばれるべくして選ばれた存在のはずだ。


 そんな彼女を否定するなんて、俺は許さない。


「いいだろ王様? それが1番シンプルで、お互い納得する方法だと思うぜ?」


 王様は小さく声を漏らすと、深く頷いてくれた。王様の顔付きが変わる。先程までの気の抜けたような表情ではなく、威厳のある表情に。なんとなくだけど、アレが本来の王様の姿に見えた。


「ふむ、若き身でそこまでの啖呵が切れるとは……よかろう。元より儂の不甲斐なさ故だ。このルカド、決着をしかと見届けさせて貰う。良いなアシュタル?」


「ですが、父上……」


「なんだ? ソナタはティアマトに資格が無いと言った。(ゆえ)にショウゴ殿はティアマトの力を見せると啖呵を切ったのだ。よもや、次期女王となる者が勝負を受けぬとは言わぬな?」


 ルカド王の真剣な眼差し、それにアシュタルはたじろいだ。彼女は俺をキッと睨み付けた。


「……ならば、貴方が負けた際は私との約束を果たして下さいね?」


 約束、と言われて眉を寄せてしまう。え、約束って他に何かあったか? 王になるとか云々は今ので打ち消して……。


「貴方が負けた場合、私と結婚(・・)して貰います。ただし、一生私の下僕(・・)……人としての尊厳を完全に破壊し、飼い殺してあげますので。私無くして生きていけない体にして差し上げましょう」


 アシュタルが軽蔑を込めた目で俺を睨み付け、舌舐めずりする。


「え」


 ちょ、ちょっと待て。キャラ変わってないか!? なんだその条件……? 尊厳を破壊ってなんだ? 飼い殺しってなんだ? ど、どういう想像をしているんだこの女……!?


「そ、そんな事絶対させません!! 私達は負けませんから!!」


 ティアマトが顔を真っ赤にしてアシュタルへ言い放つ。無表情の姉と、決意を込めた妹。2人の間に緊迫感が漂う。


 ちょ、ちょっと待てティアマト!! 勝手にアシュタルの条件飲んだみたいな返しするなって!!


「では明日の正午、兵士訓練場にて決闘を行います。私は決闘相手の選定がありますので」


 アシュタルが立ち上がってスタスタと奥へと去っていく。ま、待てよ!! 俺は条件を飲んだ訳じゃ……!


「今すぐ城内の者へ伝えよ!! 決闘だ!! 竜闘の儀とショウゴ殿の尊厳を賭けた戦いだとな!!」


 王が深刻な表情で兵士へ伝える。兵士達も、俺が止める間もなく広間の奥へと走って行った。



 ちょっと待てええええ!!! 勝手に話進めるなああああ!!!!



 自分から言い出した事なので、叫ぶこともできず……俺は、とりあえず不敵な顔でいることにした。






〜ティアマト〜


お姉様に毅然と決闘を申し込んだショウゴ……とても素敵でした♡


ですがなぜあの後ずっと黙っていたんでしょうか……? もしかして、自分が負けた時の事を想像していたり……?


……。


だ、ダメです!! そんな関係なんて絶対ダメ!!! この戦い、絶対勝ちますよショウゴ!!!


次回、「ティアマトの涙」


 な、涙……? それってどういう意味ですか!?


絶対見て下さいね♡


本日は15:30、17:30、18:10、19:10.、20:10の投稿です!


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