第5話 深すぎます……♡ってなんだよ!?
〈信号弾発射しました。降下します〉
ティアマトの肩部装甲が開き、信号弾を発射する。目的の場所は大地が割れて渓谷のようになっていた。そこへ降下しながら入り口になる洞穴を探す。
AIの話だと、ダーナ機含めて3機が近くにいるらしい。彼女達の位置からなら小1時間くらいでここへ来れるとも。後はヒュドラムを待ち伏せすれば……。
『ありました。ここからなら入れそうです』
発見した洞穴の上空へ一度戻り、ストーム・ブレードを抜く。巣への入り口が分かるよう近くの大木へ模様を入れ、再び降下。発見した洞穴へ慎重に入っていく。暗がりを進むと、突然開けた空間へ出る。ヒュドラムの巣は、タリア大森林の下に広がる地下空間だった。
『なるほど……この場所ならヒュドラムがあそこまで成長するのも納得ですね』
ティアマトの眼は暗がりにも強いようで、空間把握に支障は無い。見渡すと、側面は岩壁に囲まれ、天井には大森林の大樹達。その根がからみ合ってドーム状の空間を形作っている。
壁には複数のトンネルがある。ヒュドラムは地下を移動している。あのトンネルのどれかから出てくるはずだ。
「ここなら戦闘に制限は無さそうだな。狭かったらどうしようかと思ったぜ」
〈命令があればヒュドラムの体長から空間の計算は可能です。使いこなせないのであれば、本術式の使用スキルトレーニングを提案します〉
「う、うるさいな。慣れてないんだから仕方無いだろ!」
『ふふ、ショウゴも私の気持ち少し分かりましたか?』
ティアマトが嬉しそうに笑う。クソッ……ティアマトとAIの両方からバカにされてるみたいだ……まぁいいや。こっからは真剣に行こう。
トンネルに背を向けないよう空間の端へと移動し、ヒュドラムを待つ。すると、目の前に光る物体が流れた。風に乗るようにうねりを上げる粒子。キラキラと光を放つ粒子が木の根から湧き出しているように見える。そしてまた別の木の根へ吸い上げられていく。その粒子にはなんだか見覚えがあった。
「あ、あれ。ティアマトのスラスターを使った時に見た気がするな」
『あれは大気を漂うマナ粒子です』
「マナ……粒子?」
『そう、マナ粒子は思念の力。生きとし生きるものが思考や想いを抱く時、それは大気に溶け込み世界を巡る。木々達がそれを吸い上げマナ粒子へと変換し、再び世界へと撒くのです』
思念から生まれるマナ粒子、か。ガンダムのミノフス⚪︎ー粒子かエウ⚪︎カセブンのト⚪︎パーの異世界版みたいな感じだな。
『マナ粒子を触媒にする事で私達は魔法や竜機兵の力など、様々な事象を引き起こせるのですよ』
「すごいな。俺の世界じゃそんなの聞いた事もないぞ」
『ショウゴの世界にもありますよ、マナ粒子。使われず、見えないだけで溜まり続けるだけですが。ショウゴの世界にはこの世界の10倍のマナ粒子があると聞いた事があります』
まじか。発見されてない未知の粒子とか……それにしても、今の話だとティアマトもマナ粒子を使って動いてるのかな。
〈解。本機におけるマナ粒子の使用法をご説明します。大気中に流れるマナ粒子を吸収し、機内術式で推進力へ変換、スラスターに使用します。また、圧縮しヴァース・ショットの弾丸として使用、嵐刃術式によりストーム・ブレードの刃を形成し……〉
「すまんAI、後でゆっくり教えてくれ」
AIの説明を遮って岩陰に隠れる。興味はあるが……トンネルの奥から物音が聞こえた。せっかくの解説だからもっと聞きたかったんだけどな。
岩陰から奥を覗き見る。ズリズリと地面を這いずる音が続き、ヒュドラムの頭部が現れる。ヤツは、5つの頭で周囲を確認してからズルリと広場に体を滑らせた。
『ひぃ……外では感じませんでしたがヌメヌメしてます……! 気持ち悪いぃ……!?』
ヒュドラムは、全身から体液を滴らせながら、まるでナメクジのように地面を這いつくばっていた。
〈解析した結果、液体から潤滑液と保護溶液の性質を確認。傷口の修復の為に分泌しているようです〉
……さっきの兵士達は結構な傷を負わせてくれていたみたいだ。だが、油断するな。手負の敵ほど激しい抵抗をしてくるはずだ。
左腕のハッチを展開しヴァース・ショットを構える。残っている首は5つ。さっき出した威力ならいけるはず。もしもの時にダーナ達も向かってるはずだしな。
『ショウゴ……? できれば私達だけで倒したいです』
精神リンクで伝わる心配する気持ち。ティアマトは誰かに傷付いて欲しくないってことか……なら、やってみるか。さっきの戦闘を思い出せば無理じゃないはず。
「分かった。だけど今回は気絶するなよティアマト。最初から全力で行くからな」
『はい……壊れちゃうくらい激しいのをお願いします♡』
「俺の言葉の意味変わるからやめて!?」
調子狂うな……。
深呼吸する。自分に言い聞かせるように声に出してみる。
「いける。俺達ならやれる。心配するなショウゴ。最強だ。俺達は最強……負けやしない」
『……』
なぜか胸の奥が暖かくなる。ティアマトが何かを考えているのだろうか? いや、自分の思考に集中しろ。初戦で覚えた感覚を思い出せ。ティアマトが気絶しないギリギリを狙って動く。それさえできれば……!
〈精神同調率60%。竜機兵ティアマトの機動性、及び出力が10%上昇〉
「行くぜ!!」
魔法陣を操作し、照準をヤツの首根本へ。首が集中したあそこを狙えば複数同時に破壊できる。
「うおおおおおお!!!」
ヴァース・ショットを連射する。ヒュドラムへ向かう光の銃弾。それがヒュドラムへ直撃し、爆発が巻き起こる。爆風に吹き飛ばされないよう大地を踏み締めた。
よし、威力は問題ない。舞い上がった粉塵で見えないが、やったか? 粉塵で視界が見えないのはヤツも同じはず。
「ギュアァァァァ!?」
ヒュドラムの悲鳴が上がる。仕留めたのは間違いない。攻撃を受けた事で残った首も怯んでいるはず。追撃に飛び込むなら──今だ!!
「よし! 一気に攻め込むぞ!」
『分かりました!!』
ペダルを踏み込み、スラスターを全開で放つ。俺を襲う猛烈なG。だけどだいぶ体も慣れてきた。初戦よりもっと上手くやってやる……!!
「カッ!!!」
粉塵の中から電撃ブレスが走る。スラスターをふかして右へ飛ぶ。地面スレスレで翼を展開、ティアマトを低空飛行させながらブレスを回避。ブレスが止んだ瞬間、一気にヒュドラムまで飛び込んだ。
「ギュウウウワウウウ!!!!」
ヒュドラムが回転し、長い尾を薙ぎ払う。地面を蹴ってその攻撃を避け、スラスターを噴射して姿勢制御。このまま頭上からヴァース・ショットを構える。
「獲った!!」
初戦で学んだ。ヤツのブレスにはチャージ時間がある。今のヤツは完全に無防備だ──!!
が。
「ギュオオオオオォォォ!!!」
銃身を構えた瞬間、ヒュドラムが空中へ電撃ブレスを放った。目前に迫る電撃の塊。背筋に嫌な汗が伝い、コクピット内で立ち上がる。魔法陣を掴んで後ろへ思い切り引く。
「うおああああああ!?」
『う゛あ゛っ♡!?』
無理やりティアマトの体を起こす。機体の鼻先を掠める閃光。足元に再び眩い光を感じて直感的に2度目のブレス攻撃が来ると悟った。
「コイツ、さっきの個体よりブレスのチャージ時間が短いぞ!?」
〈先程の個体よりも成長している可能性があります〉
『そんな事、攻撃を見れば見れば分かりま……すう゛っ♡!?』
両手の操作魔法陣を引き込み、ペダルをベタ踏みする。ティアマトが反応してなのか、指が締め付けられた。構わず機体を後方へ。攻撃を受けるな……!
「ギュオオオオオトオオオオオオ!!!」
連続で放たれる電撃ブレス。その合間を縫うように飛ぶ。姿勢制御用スラスターを噴出させ、回転して電撃ブレスを回避。しかし、ブレスのうち1つは完全には避け切れず、ティアマトの左腕を掠めた。
『くぅっ!?』
〈電流によって左腕筋繊維の信号伝達に麻痺が発生。完全回復まで30秒〉
クソ、避けきれなかった!!
翼をひるがえしてヒュドラムから距離を取る。ヒュドラムも連続のブレス発射は体力を使うのか、ブレス攻撃を中断し、俺達を威嚇するように4つの首を広げた。
「グオオオオオオオ!!!!」
ヤツの雄叫びで体中にビリビリと振動が伝わる。首の内1つは仕留められたが……残りの首にダメージを受けた形跡が無い。なんでだ?
「はぁ……はぁ……大丈夫か?」
『だ、大丈夫……問題ありません』
口では強がっているが、ティアマトはこれが初の被弾のはず。精神リンクから「恐れ」の感情が流れ混んでくる。
それにしても、他の首はなぜすぐに反撃できたんだ? 前回と同じ威力、狙った位置から考えて、他の首だけノーダメージなんてはずがない。
目を凝らすと、ヒュドラムの周囲をキラリと光る物が包んでいるのが見えた。
「あれは……?」
キラキラと輝く光の粒……それはマナ粒子だった。マナ粒子がヒュドラムを包み込むように球体を形成していた。
『防御術式? ヒュドラムが使うなんて聞いた事もありません!』
狼狽えるティアマト。俺が質問する前にAIが彼女の発言へ補足を入れる。
〈ヴァース・ショットを受けた直後、目標はマナ粒子攻撃の無力化シールドを展開したと考えられます〉
マナ粒子の無力化? さっきの戦闘で聞いた内容だとティアマトの装備はほとんどがマナ粒子を使用するはずだ。それが全部効かないって言うのか?
『そんなの……どうすれば……』
ダメだ。ティアマトが弱気になっているのを感じる。目の前に文字が現れ、精神接続が50%まで戻ったこと、機動性が10%低下したことが告げられた。
薄々分かってはいたけど、ティアマトと俺の精神接続が低下したら機体能力も下がるみたいだ。今は元の50%だから能力は通常レベルだけど、低下し続けたら勝ち目が無くなる。
考えていると、AIが声を上げた。
〈実体武装であればシールドを突破可能です〉
実体武装? マナ粒子を使わない通常の剣や銃ってことか。
「ティアマトに実体武装はあるか?」
〈現在、本機における実体武装はワイヤークロウのみです〉
現在って事は後付け装備もあるって事だろうけど……今は考えても仕方ない。使えるのはワイヤークロウだけか。けど、ワイヤークロウには射程距離の制限がある。使うには中距離まで接近しないと。
「ギュオオオオオオオオオオ!!!!」
体力が回復したのか、ヒュドラムの4つの首が再び電撃ブレスを連続発射する。すかさず手元の魔法陣を引き込み、ペダルをベタ踏みする。ティアマトの機体に強烈なGがかかり、右側面へ飛び退いた。
『くぅ……!?』
「悪い!!」
どうする? このままじゃジリ貧だ。
「ギュオオオオオアアアア!!!」
さらに発射される電撃ブレス。回避したブレスが壁面へと直撃し、岩壁を抉った。爆風で吹き飛んで来た岩が機体に向かってくる。急旋回してそれを回避した。
『はっあっダメ……♡ 激しっ……♡』
機体にGが掛かるたびにティアマトの艶っぽいが聞こえて気が散ってしまう。ああクソ! 集中しろショウゴ!! どうする? 考えろ。この場を突破しないとティアマトに返事もできないだろ! 竜闘の儀に一緒に出るかどうかの返事を!
俺の事をずっと見ていてくれた彼女には、ちゃんとその答えを伝えなきゃいけないだろ!!
こんな所で負けるなんて……!!
ん?
電撃ブレスを避けながら、彼女のある言葉を思い出す。
──ショウゴはすごいのです! バトリオン・コアでチーターが出ても狩ってしまうほどの腕前なのですから!
チーター?
そういやチーターと遭遇した時もこんな感じだった。「敵機から受ける」攻撃ダメージを0にするようデータを不正改造していて……。
「あ……そうか」
『あっ♡ 何か、ひっ♡ 分かったのですか?』
この周囲は岩壁に囲まれている。電撃ブレスで岸壁は抉れていた。ヴァース・ショットでも同じ事が……いや、できればもっと威力が欲しい。何か手は無いか?
「いけるかも、しれない」
『ほ、本当……です、か? はっ♡」
そうだ、さっきAIは実体武装の話をした。最初の戦闘でマニュアルには無かった内容をだ。一度に多くの情報を脳へ入れると負荷が大きいのか? 俺の脳への負荷を懸念してティアマトの機体情報全てを開示した訳じゃないのかも。
なら……!
「AI! ヴァース・ショットの出力を上げる方法は無いか!?」
〈解。ヴァース・キャノンモードへ移行が可能です。マニュアルをショウゴ・ハガの脳内へ送信します。キャノンモード中は機体制御が片腕での操縦となるためご注意下さい〉
「来た!! やっぱりだ!」
脳内にキャノンモードへ移行する操作方法が浮かぶ。マニュアルに従って右手の魔法陣を体の中央へと持ってくる。そのまま右手5本の指を開き魔法陣を拡大化させる。
『え。え? ショウゴ……何をするつもりですか?』
「すまないティアマト! ちょっと我慢してくれよ!!」
俺は、右手の魔法陣に一気に腕を差し込んだ。魔法陣の向こう側に腕は見えない。中に入った腕は、そのままどこかへと繋がった。
『ひぎぃ!? ちょっ、深すぎ……ますぅ♡!?』
「もう少しだから!」
魔法陣の中を手探りで探し、マニュアルにあったグリップを掴む。すると、ティアマトの機体が呼応するように右腕部を伸ばし装甲を開いた。
右腕に格納されていたヴァース・ショットが現れる。銃口が割れるように展開し、周囲のマナ粒子を集め、圧縮を始めた。
『ひうっ、あ、あぁ……♡』
照準を向ける。狙いはヒュドラムの背後、岩壁へ。
『か、は……あ、あ……マズ、イです♡ そんな所を掴んでは!?』
「このまま負けたら返事できないだろティアマトに!! 俺は約束も守らないまま死ぬなんてごめんだ!!!」
『……♡♡♡ッ!!?!?』
な、なんだ……!? また機体の様子が……!?
〈ショウゴ・ハガと竜機兵ティアマトの精神接続率65%に上昇。ヴァース・キャノン発射の意思を感知。性能向上率を全て出力へ割り振ります。出力30%上昇〉
コクピット内に光の線がいくつも浮かび上がる。初戦では見られなかった反応。より深く精神が繋がったってことなのか?
『あ、う、ショウゴ……ショウゴ……♡』
うわ言のように呟くティアマト。ヴァース・キャノンに集まるマナ粒子が一層輝きを増す。
今確信した。やっぱりお前はすごい機体だ。
「ランカーの俺が言うんだ! 自信持っていいぜティアマト!!」
狙いに集中する。左手で機体を制御しスラスターを起動。ヒュドラムを中心に左へ旋回しながら銃身を構える。銃身に圧縮されたマナ粒子が眩いまでの光を放ち、地下空間を白く染め上げる。
『ひっ♡ 何か来てしまいます♡ ダメッ!? あ、やぁ……い、イ……!!!』
「ギュオオオオオオオオオオ!!!!」
連続で放たれる電撃ブレス。加速と急ブレーキを繰り返し、それを回避する。どれだけGに襲われても構わない。今の俺は、ティアマトの力を引き出す為だけの存在だ!!
〈精神接続率68%。出力上昇率35%〉
AIの声が聞こえた時、俺はヴァース・キャノンを放った。
「吹き飛べ!!!!」
『〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ♡♡♡!!?』
極限まで圧縮されたマナ粒子。その球体が発射される。それはヤツの側面を通りすぎ、岩壁へと直撃した。
次の瞬間。
猛烈な爆風が巻き起こり、岩壁を深く抉る。ヴァース・キャノンによって吹き飛ばされた無数の岩が散弾のようにヒュドラムへ放たれた。
「ギュオオオッ!!?」
ヒュドラムが驚愕したような声を上げる。吹き飛ばされた岩自体はマナ粒子を帯びていない。その全てがヤツの魔法障壁をすり抜け──ヒュドラムの胴体を蜂の巣にした。
「ギュアアアアアアアアアアァァァァッ!!!?」
大量の血を吹き出し断末魔の声を上げるヒュドラム。やがてヤツは、轟音を立てながら地面へ倒れ込み、動かなくなった。
〈ヒュドラムの生命活動停止を確認。排除完了しました〉
「よっしゃああああああ!!! やったぜティアマト!! お前の力のおかげだ!!」
それと、チーターとの戦いを覚えていてくれた事の……。
嬉しさと安堵で全身が包まれる。そう、チーターを倒した時もこんな感じだった。「敵機からの攻撃ダメージを0にする」というデータ改造に対して、俺は壁に銃弾を当てた「跳弾」でダメージを与えたんだ。
1度壁に銃弾が当たれば、その判定は「敵機体からの攻撃では無くなる」。そのゲーム的設定を逆手にとって……今回はそれの応用。そして何より、ティアマトが力を発揮してくれた事。それが何よりの勝因だ。
ん?
返事が無い?
「……ティアマト?」
『しゅきぃ……♡ しゅきぃ……♡』
ティアマトは熱に浮かされたような声でブツブツと何かを呟いていた。
〜ティアマト〜
今回は凄すぎました……まさかあんな感覚が……思い出したら体がうず……す、すみません。私ったら一体何を言おうとしていたのでしょうか?
そう! ついに2体目のヒュドラムを倒すことができましたよ!
え? お願いをするのですか? 分かりました!
もし私とショウゴ頑張ったね〜♡と思われた方、戦闘に燃えた!という方はぜひブックマークと、評価をお願いします♡ 頂けたら私、とっても嬉しいです!
次は次回予告でしたね!
戦闘を終えた私は力を使い果たし、人の姿に戻ってしまいます。ショウゴと共に迎えを待つ間、2人の距離は……きゃあああ!! これ以上は言えません!! 恥ずかしすぎますぅ!!
次回、「ちょ!? 服着ろよ!!」
次は20:10投稿です!
絶対見て下さいね♡