第43話 本選への出場者達
翌日。俺達はヲルス城に来ていた。
「まずは前回のような出来事があったにも関わらず、我らに参加権を残して下さったこと、五賢老を代表して私、グランより感謝致します」
グランと名乗る爺さんは謝辞を述べた後、予選での戦いをつらつらと話し始めた。俺達にとってはもう起きた出来事だし、大仰な物言いされても退屈なだけだよなぁ。
「ヲルス首長国は5つの部族が集まっている国。それぞれの部族の首長達が運営しているので、彼らの事を五賢老……と、そう呼ぶのです」
隣に座っていたティアマトが耳打ちしてくる。ふぅん。だからヲルス城にはこんな議会場みたいなところがあるのか。
「……よって本選への出場者はトルテリア、アシュタリア両王国に加え、ハーモラ天空国家、そして我らヲルス首長国となります。今回、ハーモラが加わったことで竜闘の儀は8年ぶりに新たな顔ぶれとなり……」
グラン爺さんの説明に合わせて周囲を確認してみる。
円形の議会場に座る俺達。壇上に向かって正面の座席には俺達アシュタリア、右前方にはユウやツィルニトラ達トルテリアの面々、左にはヴィヴルとカズマ達ハーモラ。皆服装は実用的な私服。女王のツィルニトラやアシュタルも動きやすい簡素なドレスを身に付けている。これが社交の場ではなくて儀式だからかな。
一瞬、ユウと目が合う。ニヤリと笑みを浮かべるユウ。アイツ、楽しんでやがるな。だけどそれも同じだ。絶対、お前にリベンジしてやるからな。
ツィルニトラもユウも落ち着いている。トルテリアの面々も一切微動だにしない。流石の風格だな。まぁ、予選1位通過だし、余裕はあるか。
「あ、ショウゴ。ヴィヴルさんが」
ティアマトの声で左側面へと目を向ける。そこでは俺達に気付いたヴィヴルが両手を振っており、カズマに席へ引き戻されていた。ハーモラの女王様や、他の兵士達はクスクスと笑いを堪えていて、ハーモラ全体が本選出場に浮かれているのが分かる。
アイツらは緊張とか無縁そうだな。ああいうタイプが戦闘だと1番怖いのかも。
「それでは出場者の名を読み上げる。アシュタリア代表。竜機兵ティアマト、ショウゴ・ハガ」
突然グラン爺さんに名前を呼ばれて戸惑ってしまう。左隣にいたアシュタルに膝を叩かれ、慌てて立ち上がる。お辞儀をした瞬間、議会場全体から拍手が起こった。ティアマトは恥ずかしそうにもう一度礼をすると席に着いた。
次にツィルニトラとユウ、ヴィヴルとカズマが呼ばれ、最後にアイツらの名前が呼ばれた。
「竜機兵イルムガン、搭乗者ナミタ・イナモリ」
向いの席で女が立ち上がる。後ろで一つに結んだ銀髪。右眼には包帯を巻いているが、左眼からギラギラと凶暴な光を放っている女……背も高く、いかにも戦士といった存在感を放っている。この場に剣を持っていたら、殺されると思うかもしれないほどの殺気……アレがイルムガン、か。
「ナミタ、立ちなさいナミタ・イナモリ!」
「は、はい! すみませんグラン様……」
名前をよばれて、イルムガンの隣から女の子が立ち上がる。節目がちで、セーラー服を着たショートへアの女の子。ヴィヴルと同じくらいの年齢か? イルムガンには不釣り合いなほど気が弱そうな子だ。
「おい」
イルムガンがその子の背中を叩くと、女の子はビクリと体を震わせてお辞儀をした。
イルムガンは搭乗者の事を「部品」と呼んでいた。もしかしたら、あの子はイルムガンに虐げられているのかも……。
「イルムガン……!!」
ティアマトがギュッと手を握りしめる。鋭い視線でイルムガンを睨み付けるティアマト。その視線に気付いたのか、イルムガンは挑発するように笑みを浮かべた。
「ティア、やめとけって。怒るほどアイツのペースに飲まれる」
「そ、そうですよね……すみません……私……」
俯くティアマトを慰めるようにその手を握る。すると、その手に込められた力は少しだけ緩んだ気がした。
「では、これより後は不老竜ウルベルト様よりお言葉を賜ります」
中央の壇上で話していたグラン爺さんが一礼して離れる。次に、予選の進行をしていた少年、ウルベルトが壇上に立った。彼の側近らしき人達が足場を置き、その上にウルベルトが乗る。
彼は、コホンと咳払いをしてから懐から紙を取り出した。
「では、これより本選における『先行者』を選出する」
先行者? なんだそれ? ハインズがそんな事を言っていたような……ダメだ。予選に集中しすぎていて思い出せない。
「ティア、先行者ってなんだっけ?」
「本選は総当たりになるのですが、まず、先行者に選ばれた者が全ての候補者と戦います。その後、他の者達が残りの試合を行うのです」
「え、そんなの先行者がめちゃくちゃ不利じゃん」
先行者の体力は相当削られるだろうし、他の候補者に手の内も全部見られるってことだろ? そんなのに選ばれるなんて、実質ハンデみたいなものじゃん。
「ですが、それを覆すほど栄誉な事なのです。先行者として優勝したとなれば……今後何世代にも渡って勇者として語り継がれるのですよ」
ティアマトが両手を胸の前で組み、ウットリとした表情を浮かべる。見てみると、ツィルニトラも、ヴィヴルも、イルムガンすらウルベルトの言葉に目を輝かせていた。まるで自分が選ばれたいとでもいうように。
そうか……竜闘の儀はスポーツではなくて、儀式なんだよな。だから不利になったとしても、栄誉を掴みたいということか。
ウルベルトが先行者の試合の流れを説明していく。1試合ごとに1週間の休息期間が与えられる。
先行者が各国を訪れて闘う。空や森といった地形選択の権利は先行者が持つ。一度選んだ地形はもう選べないけど、ここで不利点とのバランスを測ってるのか。これなら地形を選べる分、圧倒的に不利とまでは言えないかも。
ウルベルトが取り出した紙に目を向ける。彼に先行者を決める権限が与えられているのか、ウルベルトは思案するように顎に手を乗せた。
「……よし、ここは不満が出ない方法で決めよう。予選通過時のポイントが最も高いものを先行者に。よって竜機兵ツィルニトラに──」
「待って頂きたい」
拍手が起きそうになった瞬間、ツィルニトラが立ち上がった。壇上のウルベルトがその行動に眉根を寄せる。
「どうした竜機兵ツィルニトラ。何か不服でも?」
「此度の予選において、恣意的にランキングを調整し、下位の者に他の竜機兵を襲わせた者がいる。そのような考えを持つ者を……私は本選で闘う相手とは認めない」
「何を言っているのだ?」
ウルベルトが困惑し、場内にざわめきが起こる。その渦の中でツィルニトラがイルムガンを見据える。
イルムガンは先程までのいやらしい笑みを消し、無表情でツィルニトラを睨んでいた。
「はぁ? 女王様は運営の決定に逆らうっていうのかよ?」
そして無表情から一転、イルムガンは不快感を露わにする。対してツィルニトラは、一切表情を崩す事なくイルムガンを見据えた。
「イルムガン。貴君の行った行為、予選の規則内の行動であったとしても、私は認めない。そこに竜機兵の誇りを感じないからだ」
「誇りぃ? なら最初から予選をやり直すってか? お前、竜闘の儀を私物化してんじゃねぇの?」
一瞬、どの口が言うんだと口走りそうになったけど……黙っている事にした。ツィルニトラは考え無しに動くようなヤツじゃない。何か思惑があるような気がする。
ツィルニトラは次にウルベルトへ視線を向ける。
「勘違いしないで頂きたいウルベルト殿。私は予選の結果に不服は無い。しかし、イルムガンは貴殿らが時間をかけて作り上げた規則を悪用したのも事実。私はそれに深い悲しみを抱いたのだ。それを払拭させて欲しい」
「して、竜機兵ツィルニトラには何か案があると?」
ウルベルトの問いに、ツィルニトラは周囲を見渡してからスッとイルムガンを指した。
「ヲルス首長国には精神力を試す修行の設備があるな? そこで先行者の権利を賭けた勝負をしよう」
会場が再びざわめき始める。特にヲルス国の面々は困惑した表情を浮かべていた。ツィルニトラがいう精神力を試す施設というのを知っているからという雰囲気……それって一体なんなんだ?
周囲のざわめきが止んだのを確認して、ツィルニトラは続ける。
「皆聞いて欲しい。ヲルス首長国は何よりも戦士としての誇りを重んじてきた国。しかし、前回竜闘の儀でイルムガンが許されざる行いをしたのも事実。そのイルムガンが規則の抜け道を通ろうとしたのだ。彼女が優勝したとして、皆が納得するだろうか?」
ツィルニトラが会場全員へ問いかけるように言葉を放つ。前回イルムガンがした行為……アンヘルさんの竜核を狙うという反則。それをやったイルムガンが反省していないから、ツィルニトラはこんな提案をしたのかも。
「ヲルスの精神修行。これをイルムガンが乗り越える姿を見せる事で、この場にいる他の国の者達も納得すると思うのだ。彼女が狡猾であろうと、その精神は讃えるべきものである……と」
ツィルニトラの提案にヲルス首長国の人達から感嘆の声が上がる。彼女の言葉は、ヲルスの人達が欲していた物のように思えた。
そうか、イルムガン1人の反則で国ごと見る目が変わるんだもんな。ヲルス首長国も連帯責任で悪く言われていたはずだし……そりゃ躍起になって汚名を返上しようとするか。相手の事まで考えるなんてすげぇな、ツィルニトラ。
「これならば、予選の結果を覆さずして、私も出場者の精神を見定めることができる。この悲しみが消えるやも……グラン殿はどうお考えか?」
ツィルニトラはウルベルトではなく、ヲルス首長国のグラン爺さんを名指しした。グラン爺さんは、戸惑いを見せながらも、ゆっくりと答えた。
「私どもにとって、女王様のご提案は先行者に選ばれるチャンスを与えられたも同じこと。そして何より……ツィルニトラ様の悲しみを払拭する責務が我々にはございます。ウルベルト様、私からもお願い致します。どうか……」
「ちっ、何を乗せられてんだか」
グラン爺さんの言葉にイルムガンが舌打ちする。彼女は無損な態度で肩をすくめた。
ウルベルトが側近の人達と小さく言葉を交わす。そして、納得したように小さく頷いた。
「分かった。ならばツィルニトラの提案を受け入れよう。精神修行の勝負。それに勝ち残った者に先行者の権利を与える」
ウルベルトは、そういうと壇上を後にする。ツィルニトラは満足気に頷いて席へと着いた。
「精神修行って一体何をするのでしょう? いえ、これはチャンスですよね、きっと……!」
ティアマトが気合いを入れるように両手を握る。
だけど、俺達はまだ知らなかった。ツィルニトラが何を勝負に選んだのかを。
〜ティアマト〜
ポイントでと言われた時は残念に思いましたが、まさかこんな展開になるなんて……! これはチャンスです! がんばりますよショウゴ!
次回 精神修行の内容は?
え!? こ、これが修行……!? こんなことが許されていいのですか……!?
次回も絶対見て下さいね♡




