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第4話 激しいのが好みってなんの話!?


 1体目のヒュドラムを倒してから1時間後。目を覚ましたティアマトと俺は、逃げ出したヒュドラムを倒す為にヤツの住処を探していた。


〈このタリア大森林は樹木の特性によってモンスターが非常に育ち易くなっています。今回のヒュドラムは長年潜んでいた個体が召喚魔法に引き寄せられたと推察します〉


 補助AIの説明を聞きながら俺達が戦った森──タリア大森林の上を飛行する。


 モニターの向こうに見える森。遥か彼方まで埋め尽くされた木々。上空から見下ろす森の中に、あのヒュドラムが潜んでることを思うとゾッとした。


 周囲を見渡してみる。森の向こうでは等間隔で兵士達の機体が空を飛び、ヒュドラムの行方を追っていた。豆粒ほどの機体がさらに小さくなっていく。捜索範囲が広がって来たな。


『ふぅ。それにしても、皆を説得するのは骨が折れましたね』


「兵士だから姫様を心配するのは当然だろ? まぁ、自由に動かしてくれないのは確かだけど」


 最初は兵士達に単独行動を猛反対された。だが、ヒュドラムとの戦いを見ていた兵士ダーナが他の人達を説得してくれて、手分けしてヒュドラムの巣を探すという事でなんとか俺達は動く事ができた。


 彼女はあの部隊の隊長だったらしい。俺達の事を信用してくれたのは少し嬉しいな。


 それにしても、こうも大樹に覆われていると見つけるのも一苦労だな。いくらアイツがデカいからって、木までデカけりゃどうしようもないぜ。


「一度降りて様子を見るか。ティアマトもいいか?」


『はい。もちろんです』


〈着陸します。衝撃に備えて下さい〉


 A Iの声と共に機体が下降を始める。スラスターから噴き上がる風が森の草木を揺らす。極力目立たないよう慎重に着地し、地面を調査してみる。30分ほどかけて周囲を歩き回っていると、巨大な何かが這いずった跡が付いていた。


『この跡……先程戦ったヒュドラムより大きいかも……』


 耳元で、ティアマトの驚く声が聞こえる。どうやら今は俺だけに聞こえるように話しているみたいだ。


「声がAIと同じだから一瞬混乱するな」


『む、そう言われるとちょっとショックです……』

〈解。補助AIはティアマト・リ・アシュタリアの声帯情報を模倣していますが、人格はありません。嫉妬心を抱くのは不合理だと提案します〉


『不合理ってなんですか! 女性は殿方に自分だけを見て欲しいものなのです!』

〈主語を拡大しての発言を観測。信憑性の欠如。発言の修正を提案します〉


『ムキいいいいいぃぃ!!? 何ですかこの子!?』

〈ティアマト・リ・アシュタリアから怒りを感知。理解不能〉


「ちょ、同時に話すなって!? ……っとこれは、なんだ?」


 しばらく機体を進めた先にポッカリと地面に空いた大穴があった。中を覗き込むが、その先は真っ暗で何も見えない。


「ティアマト、中見えるか?」


 ティアマトがしゃがみ込み、ジッと奥を見つめる。


『……ダメです。中でウネっていて奥までは見えません。補助術式、索敵を』


 ティアマトはAIの事を「補助術式」と呼ぶ。どうやらこちらが正式名称らしい。そういえば、俺にAIが話しかけてきた時も「AIのようなもの」と言っていたしな。


〈索敵を開始します。熱源感知術式起動……補足失敗。魔力感知術式に移行します──〉


『時間がかかりそうですね。私達は少し休憩にしましょう』


「乗ってからいきなり戦闘だったから助かる。……にしてもなんであんなに興奮してたんだよ? 戦闘だとああなのか?」


『い、いやそれは……あはは……ショウゴが荒々しくて、つい……』


 苦笑いのような声を出すティアマト。あ、俺も初戦闘で必死にだったしな。ちょっと、いや、かなり操作が乱暴だったかもしれない。


「悪かったよ。次はもうちょっとティアマトの事も考えてやるようにする」


『そ、そのようなお気遣いは不要です! 私も激しい方が好みというか、 頭にビリビリって来て、繋がることしか考えられない感覚というか、つまりそ、その……すごく、良かったです♡』


 な、何の話だこれ……?


 ティアマトって唐突にエロいこと言うよな……それも自然に。いや、コレはむしろ俺の心が汚れているのでは?


 急に自分の人間性に不安を感じていると、ティアマトが独り言のようにポツリと呟いた。


『でも、やはりショウゴは私の思った通りの人。アナタに乗って貰えて良かった』


 その言葉で聞きたかった事を色々思い出した。出会った時に色々言われたけど、衝撃が大きすぎてほとんど頭に残ってないし。せっかくだから疑問に思ってた事を聞いてみるか。


「そのさ、なぜ俺を召喚したのかをちゃんと教えてくれないか?」


『そ、そうですよね……あの時は私も必死だったので説明がちゃんとできていませんでしたよね……』


 ティアマトがウンウンと唸る。何から説明するか悩んでいるのかも。


「何から話したらいいかな……私達の世界では竜闘の儀(・・・・)の時だけ、使用を許される魔法があるのです』


「竜闘の儀って、確か大陸の覇権をかけて4年に1度開かれるとか言ってたヤツだよな?」


『そう、武闘大会の様な物です。その大会はショウゴ達の世界から搭乗者を召喚して、私達竜機兵に乗って戦って貰うのです』


「召喚……って、今までもあったのか?」


「1年後にある大会で49回目の開催ですね。その度に召喚人(しょうかんびと)はこの地を訪れています」


 え、49回目……? 4年に1度って事は……計算すると……。


「ひゃ、195年もやってるのかそれ……!?」


『はい。私達の世界ではそれほどまでに大切な儀式なのです』


 ティアマトが説明してくれる。竜闘の儀は4年間の大陸の覇者を決める為に行われる武闘大会。大陸各国から竜機兵と召喚人(しょうかんびと)が参加し、優勝した国が大陸の運営において圧倒的に優位に立つという伝統ある戦いらしい。


 その発端となるのは大昔にあった侵略者との戦争と、戦いの最中に現れた1人の男。俺達の世界から来たというその男は、竜機兵に乗って鬼神の様な活躍をしたという。


 その男の活躍もあり、この大陸の国々は協力して侵略者を撃退。しかし、侵略者を退けたとしても争いがなくなるわけじゃない。共通の敵がいなくなった事で、今度は大陸内で争いを始めた。


「なんか、そういうのはどこの世界でも同じなんだな……」


『人の姿をした者は皆同じような考えを持つのかもしれませんね』


 そんな中、1つの提案が出されたという。大きな被害を出した各国が、被害を出さずに覇者を決める方法を。



 それが大陸の覇者を決める戦い……「竜闘の儀」という訳だ。



『もちろん、武闘大会なので死んだりはしません。参加する竜機兵は搭乗者を命がけで守るよう誓約を結んでおりますから』


 死ぬことは無い……ティアマトのどことなく抜けた雰囲気はこういう所から来ているのか。


『そして全て終わった後、搭乗者達には褒美が与えられ、元の世界に帰れます。望めばこの世界に残ることも……も、もちろん強制では無いですよ!? で、でもショウゴを呼び出した時、必死すぎて……私……』


「その事を説明し忘れたってことか」


『すみません……ショウゴが帰ってしまったらと思うと、私……』


 精神リンクを通じてティアマトの感情が伝わってくる。悲しみ、後悔……恐れ……それだけで、ティアマトが俺を利用しようとした訳じゃ無いことは分かる。


 まぁ、ヒュドラムと戦うって決めたしな。彼女を動かした時の喜びよう、兵士達を守る為に必死に訴えるあの姿……ティアマトがどんな子なのか、もっと知りたい。知ってから決めたい。今はそう思う。


「まだ、竜闘の儀ってのに出るかは決めて無いけどさ」


『うっ……そ、そうですよね』


「でも、まずはヒュドラムだろ? 倒すまでによく考えておくよ」


『ありがとうございます……!』


 ティアマトの心がパッと明るくなった気がした。精神リンクを通じて彼女の中にある嬉しさが込み上げて、俺の胸も暖かくなる。


「それにしてもさ、ティアマトが参加する事になったのはどうしてだ?」


『竜の宝玉が出場者の名を告げ、選ばれた者は竜機兵となる儀式を受ける。拒否することもできますが……』


「ティアマトはしなかったんだ」


『……はい。元より、私には有能な姉妹達がおりましたから。私に出来ることがやっと見つかったと、嬉しかったのです。ですが……』


 竜機兵になってから現実と直面したらしい。竜機兵になると、神経伝達が行き渡らずゆっくりとしか動けなくなる。その為に動きを補助する搭乗者が必要らしい。


 だから彼女は、異世界を覗く魔法を使い、搭乗者である人間を真剣に選ぶ事にした……自分の居場所を見つける為に。そういう事か。


 ……なんか、俺にも思い当たる節のある話だな。


『初めてショウゴを見た時、あのゲームを遊んでいる所を見た時、その姿がとても無邪気で、真剣で……この人は良い人かもと思いました。でも、普段のショウゴは色んな人から冷たくされていて……』


 ティアマトの声は悲しそうだった。まぁ、俺も実生活は散々だったからな。その影響でバトリオン・コアに入れ込んだんだけど。


『……ショウゴ? アナタが大会で2位だった時。なぜ相手より性能の低い機体で挑んだのですか? 相手と同じ機体を使えば、優勝できたかもしれないのに』


 はぁ……そこも見られていたのか。


「……俺が初めて操作した機体だったからだよ。カスタムはしても、それだけは絶対に譲りたくなかった」


 バトリオン・コアの大会の事を思い出す。


 戦略性のあるゲームはいつも「環境」という物がある。様々な機体が使われる中で、最も高い性能を発揮する機体が。


 だけど、俺はそれを使いたくなかった。俺が初めて乗った機体は……例えゲームでも大切にしたかった。そこには今までの楽しさや、悔しさや、喜びが、全部詰まっているから。


 でも、そんな俺の想いは結果と関係無い。それを思い知らされた大会だった。相手との接戦の中で、最後の決め手になったのは性能差だ。


 それで負けた時、色々言われたな。俺のプレイヤーアドレスに「舐めプするなら帰れ」とか、俺への人格否定とか。挙句の果てに対戦相手……優勝者から他の機体を使うよう勧められたり。あの時は精神的にかなりキツかったな。


 だけど、それは俺が弱かったから。俺があの機体の性能を最大限まで引き出せなかったからだ。俺にはその確信があった。俺が乗っていたバルディアの性能は、あんな物じゃなかった。


 だから、俺はもっと強くなると決めた。2度と誰にも負けない様に。 


『それが、アナタを選んだ理由です』


 ティアマトは、何だか嬉しそうだ。なんでだ? 俺が負けた話なのに……。竜闘の儀で優勝してみんなの役に立ちたいんだろ? なのになんで負けた俺を……。


「なんで、それが理由なんだよ?」


『アナタが使っていた機体(・・)も、きっと嬉しかったと思いますよ? 自分を最後まで信じてくれていたという事ですから』


「あ……」


 ティアマトの言葉で唐突に理解してしまう。彼女がなぜ俺に乗って欲しいと思ったのか。それは彼女が「乗られる側」として、俺を見ていたから……。


「ティアマト……」


〈50km先に魔力反応を感知。共有記憶領域を検索。戦闘を行った場所の魔力反応と照合します。──照合完了。照合率99%。間違いありません。逃走した個体です〉


 AIの声で会話が打ち切られてしまう。ティアマトは、冷静な口調でAIに問いかけた。


『ヒュドラムに動きはありますか?』


〈微速ですが移動しています。空間検知術式を使用──ヒュドラムの進行方向20km先に地下空間を検知〉


「地下空間? そこが」

『ヒュドラムの巣という訳ですね』


「なぁAI。その巣に別の入り口はあるか? 俺達が全力で飛んだ場合って先回りできるか?」


〈空間検知術式を続行──複数の入り口を検知。加速して飛行すれば待ち伏せ可能です〉


「なら、やる事は決まったな。兵士の人達と連携して……」


〈解。彼らの機体出力では待ち伏せは不可能です〉


「通信は送れないのか?」


〈解。通信魔法の範囲は限定的です。巣穴突入前に信号弾を発射する事をオススメします〉


『私達が先に戦って、後発部隊と挟み撃ちにする訳ですね。上手く先制すればダーナ達が到着する前に終わらせられるかも……』


 上を見上げる。これだけ木に覆われているなら信号弾を撃ってもヒュドラムには気付かれないか。


「よし……なら行くか」


『はい♡』


 空中へ跳躍し、翼を展開。再び飛行へ移る。ふと、彼女が先程言っていた事を思い出した。俺を選んでくれた事を。途中で会話打ち切ってしまったし……なんか、一言だけでも伝えたいな。


「……ティアマト」


『? なんですかショウゴ?』


「俺、正直今めちゃくちゃ楽しいぜ。本当にロボットを操縦できて、戦って、憧れのシチュエーションを体感できてさ。……選んでくれて、ありがとな」


『〜〜〜〜〜♡♡♡♡♡♡♡ッ!!!?」


 え? 何?


〈竜機兵ティアマトの精神状態に異常発生。精神リンクシステムにより能力値が上昇します──〉


『ハァハァ……ショウゴ……♡ ショウゴ……♡ 今のはマズイです……!! も、もう1回……今度は囁くように……ハァハァ……!!』


「ちょ!? なんか怖いんだけど!?」



 このあと、めちゃくちゃスピード出た。



〜ティアマト〜


聞きましたか聞きましたか!? ショウゴも私に乗れて嬉しいと言っていました!


私も彼に信頼して貰えるようにもっと頑張らないとですね! 具体的には興奮し過ぎてイか……コホンッ!! 気絶しないようにしないと♡


さて、次回はもう1体のヒュドラムとの戦いです。ヒュドラムを巣で待ち伏せした私達。しかしヒュドラムが防御術式を発動して鉄壁の防御になってしまいます。そんな中、ショウゴがある行動に……?


次回、「深すぎます……!?♡ってなんだよ!?」


次回は19:10投稿です!


絶対見て下さいね♡

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― 新着の感想 ―
(*´◇`) ロボットアニメは次回予告がいいんだよなぁ~ ( ・`д・´) でもネタバレはダメだぞ!  特に『○○、堕つ!』や『○○、死す!』とかな! ……あ、ティアマトちゃんはもう堕ちてたか……(…
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