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第24話 女王を狙う影


「ハインズ! ワイヴァルス・カスタム──出るぞ!」


 ハインズ機が跳躍する。ハッチで機体が見えなくなった瞬間、翼を展開したワイヴァルス・カスタムが天高く飛翔した。これで俺達を残して全員が出撃済み。ティアマトは先に変身しようとしていたがハインズに止められていた。俺達が焦って出撃するのを警戒したのか? とにかく、俺達も早く出撃準備しないと。


「ティアマト、竜機兵に」


「待って」


 ティアマトが竜機兵へと変身しようとした時、ライネさんに呼び止められた。


「2人とも、竜核(レギスコア)に新しく書き込んだ装備情報を確認しておくわね。新たに実体剣が背面にマウントされてるから。それと腰のワイヤークロー。アレも射程距離を伸ばしてある。今までと感覚が違うから気を付けて」


「分かりました、ライネ」

「ありがとうライネさん」


 実体剣は使い勝手いいからな。最初から装備状態にしてもらった方が戦闘に広く対応できるし、デフォルト装備は心強い。それにワイヤークロー。この前の空賊戦で思い付いた事があったから強化して貰ったけど、早速使うタイミングが来たな。


「あ、あと。これも」


 ライネさんはニヤリと笑みを浮かべ、何かを差し出した。


「今朝頼まれた物も渡しておくわね。これで竜機兵になっても無くなる事は無いはずよ」


「大急ぎで仕上げてくれたのですね。無理を言ったのに……ありがとうございます」


 彼女が差し出したのは俺がティアマトにプレゼントしたスミンの花の髪飾りだった。


「あ……」


 ティアマトは髪飾りを受け取ると、角の近くにそれを付けた。銀色にキラキラ光る花びらに、中央の青い宝石。ティアマトは、俺の耳元に口を寄せた。


「もう、ショウゴの前では外しませんから。心配しなでくださいね?」


「あ、あぁ」


 顔がボッと熱くなる。このために外してたのか……何だかさっきモヤモヤしてたのが恥ずかしい。ていうか、ティアマトってこんな雰囲気だったっけ? いつもはもっと一方的に気持ちをぶつけてくる感じなのに。


 ワシャッとあたまを掴まれる。ライネさんがニヤニヤと笑みを浮かべ、俺の背中を思い切り叩いた。


「ほら、シャンとしなよショウゴ殿! 戦いに行くんでしょ?」


「わ、分かってるっての!」


 ティアマトがクスリと笑って格納庫の中央へ走っていく。そして両手を胸の前で組み、目を閉じた。彼女が詠唱をしている間、俺も自分の頬を叩く。前回に続き2度目の実戦だ。気合い入れろよショウゴ。



回帰魔法・竜機兵リグナリオ・オブ・ドラゴレギス



 呪文と共にティアマトの体が光に包まれ、エメラルド色の機体が現れる。ティアマトの手に乗り、コクピット前の魔法陣の前まで行く。彼女の魔法陣に触れようとした時、もう一度ライネさんに声をかけられた。


「姫様のこと、頼んだよ!!」


 ライネさんに親指を立てるジェスチャーで返し、ティアマトへ向き直る。


 ……よし。もう出撃しても問題無いだろ。今頃、ハインズ達が飛竜の群を引き付けてくれているはずだ。


 俺は気合いを入れてティアマトの魔法陣に触れる。



 が。




「ん……はぁ……な、中へ……♡ あ、あっ、あ……♡」



 一気に気合いが抜けた。



「……ティアマト。その声もうちょいなんとかならないのか? み、みんな聞いてるぞ……?」


 格納庫にいたみんなは、なんとも言えない表情でジッと俺達を見ていた。ライネさんもどういう顔してるんだ? 真顔……!? みんなの真顔が怖い……!! せめて恥ずかしがっていて欲しい……!!


「ちょ、おい、みんな見てるって……」


「わ、分かってますぅ……ん♡ あ、んんっ……!?♡」



 我慢は無理だったかぁ……。仕方ねぇ。



 みんなの視線を見ないようにして一気にティアマトの中へ。彼女が一際大きな声を上げたような気がしたが気にしない事にした。あまりゆっくりはしていられない。急いでシートへ座った。


「AI。精神接続の準備できたぞ」


〈搭乗者ショウゴ・ハガと竜機兵ティアマトの精神接続を開始します──各部システム良好。ティアマト・リ・アシュタリアの精神に多幸感を感知。接続率が85%まで上昇。操作魔法陣を展開します〉


 85%? めちゃくちゃ接続率上がったな。何かやったっけ?


 考えた瞬間、脳内に髪飾りを付けたティアマトの顔が浮かんで、俺は急いで頭を振った。危ねぇ……ティアマトに読まれたら恥ずかし過ぎて悶えるぞこれ……!


 俺の体に光の線が走る。目の前にキーボードのような古代文字が浮かび上がり、両手に操作用魔法陣が浮かぶ。両手の指を一気に差し込む。俺の指は魔法陣の中にズプリと入って見えなくなってしまった。


『ひぎぃ!? い、いきなりはズルいです……♡』


「こんな事話してる場合じゃないって! こっからは真剣に行くぞ」


『私はしんけ、んっ♡ ですよっ!!』


「ほらほらボケッとしないで2人とも! 対大型飛竜用のヴァース・ライフルも忘れないで!」


 ライネさんに言われてハッチ横にマウントされていた銃を掴む。魔法陣を通してティアマトの両手にズシリとした重みを感じた。


「弾切れになってもマナ粒子が溜まればまた撃てるから! 焦っちゃダメよ!」


「分かってる!! ハッチ開けてくれ!!!」


 近くの技術士へ頼んで目の前のハッチを展開して貰う。その上に乗り、スラスターを数度ふかす。よし、問題無し。急がねぇと。



「ショウゴ・ハガ。竜機兵ティアマト──出撃する!!」

『行きます!!』



 跳躍。草原と断崖に囲まれた空へと飛び出す。一瞬の重力を感じながら翼を展開。翼にマナ粒子が反射し、虹色の輝きが周囲に浮かぶ。


「女王を探さないとな」

『補助術式に索敵させます!』


 ペダルを踏み込みスラスターを噴射。俺達は、ツィルニトラとユウの元へ飛翔した。




 ……。




 ショウゴ達が出撃した後、格納庫に残されたライネ・ツクリジヤはポツリと呟いた。


「自分の中に誰かが入ってくる感覚か……私もちょっと経験してみた……ん?」


 そこまで言ってライネは視線を感じた。周囲にいた技術士達が皆ライネのことを見ていたのだ。


「え? 今ライネ主任経験してみたいっていった?」

「竜機兵になりたいの?」

「マジ? じゃ、じゃあ俺が搭乗者に……」

「ふざけんな!! 俺に決まってるだろ!!」

「ライネ主任は私のものですぅ!!!」


「何ふざけた事言ってんのアンタ達!! 整備に戻って来るかもしれないんだから大急ぎで準備しなさい!! 戦闘中なのよ!!!」



 鬼の形相でライネ主任技術士が叫ぶ。格納庫では再び技術士が慌ただしく動き始めた。交換用のヴァース・ライフルやパーツを運ぶ物に、関節部の部品を用意する者。外で行われる戦闘とは異なる場所で、彼らの戦闘も始まったのである。




◇◇◇


 〜ショウゴ・ハガ〜


 出撃して数分。西の方を見るとハインズ達が飛竜の群にライフルを撃ち込んでいた。そのおかげで飛竜達の意識は完全に彼らへ向けられて?。これなら、ツィルニトラの元へも向かえそうだ。



「グオオオオオオォォォォ!!!!」



 ペダルを踏み込んだ瞬間、ティアマトの2倍はある飛竜が襲いかかって来た。


〈群れから外れていた個体のようです〉


「見りゃ分かるっての!!」


 咄嗟に姿勢制御スラスターを噴射させて回避。胴体へワイヤークローを撃ち込む。


「グギャ!?」


「早速役に立ってくれたな!!」


 全てのスラスターをオフにへ変更。落下する機体。ワイヤーがピンと張り、遠心力が生まれる。その瞬間、背面スラスターを噴射して弧を描く。竜機兵の機体重量がかかった事で、飛竜は大きくバランスを崩した。ブランコのような動きで飛竜の反対側面へと回り込む。


「グギャア!?」


『今ですショウゴ!!』

「よし!!」


 ワイヤーの揺れが上に向いたタイミングでクローを閉じた。上空に投げ出される機体。姿勢を制御。ライフルを構え、ヤツを照準に納める。飛竜はまだバランスを崩したまま。ヤツは、体勢を立て直そうと翼を必死にはためかせていた。


「対飛竜用ライフル。その威力……見せてもらうぜ!!!」


 飛竜の胴体にヴァース・ライフルを数発撃ち込む。圧縮されたマナ粒子の弾丸がヤツの胴体に風穴を開けた。ヴァース・キャノンより威力は落ちるが、これが外付け武器として連写できるっていうのは心強いな。


「グギャアアアアアアアアアア!!!?」


 悲鳴を上げた飛竜は、回転しながら落下していった。再びティアマトの翼を展開。背面スラスターをふかせて飛行する。


『撃破は容易いですが数が多いですね……』


 ティアマトの言う通りだ。前方は竜達に埋め尽くされてる。流石に全部と戦うのは無理があるぞ……。


「ヨルムンガンドは?」


 背後に視線を向ける。そこではヨルムンガンドが飛竜達と戦っていた。


"危ないじゃろうが!!"


 敵が連続発射するブレスを回避し、隙を見て背中の砲身からマナ粒子砲を発射するヨルムンガンド。その直撃を受けた大型飛竜は、真っ盛様に地上へと落下していった。


"思い知るがよい雑魚共が!!"


 得意気に鼻を鳴らすヨルムンガンド。その周囲をハインズ達5体のワイヴァルスが旋回し、陣形を組みながら他の飛竜を堕としていく。


 ……あっちは流石だな。だけど、もうあれだけの竜達がトルテリアへ接近したんだ。あの配置からは動けないだろうな。あそこを手薄にしたらトルテリアの港に竜の群れが突っ込んじまう。俺達は早く女王の元へ向かわねぇと。


「グオオオオオオオ!!!」


「っと! 油断してる場合じゃねぇな!!」


 側面から襲いかかって来た中型飛竜の攻撃を回避し、ヴァース・ライフルを連射する。飛竜が落下するのを見届けてから加速。翼が風に乗るとさらに加速した感覚がする。


 向かって来る複数の飛竜達。それを回転しながら避け、ライフルを撃ち込み、ひたすら直進。竜達の合間を潜り抜けると、急に目の前にレビアタンとドレイガル達が映った。



"どーーーーーーーーーーん!!!"



「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!?」


 レビアタンが大型飛竜に体当たりする。大型飛竜は不自然な形に体が折れ曲がり、もがく事も無く地面へ落下していった。



"レビアタンに喧嘩売るなんて2万年早いんだもんね⭐︎"


 両手で口を「いー」と開いて舌を出すレビアタン。マスコットみたいな動きだけど、めちゃくちゃ強い。周囲を旋回していた小型飛竜達を尻尾の一撃で叩き落とし、頭上にいる中型飛竜を背中の二門のキャノン砲で撃ち落としてる。さすが弩級戦艦竜だな。ドレイガル達との連携もいい。


 だけど……。


『おかしいです。ツィルニトラ女王がいません』


 ツィルニトラがいるなら前線で指揮をしているはず。なんでだ?


「どこにいるんだ?」


 周囲を旋回しながら女王を探す。すると、レビアタン達よりさらに東へ向かった場所にツィルニトラがいた。アイツ……かなりレビアタンから離れてる。戦闘しながらどこかへ誘い込まれてないか、アレ?


〈前方に大量の魔力反応を感知。竜の群れが引き起こす竜嵐現象(りゅうらんげんしょう)だと思われます〉


「竜嵐?」


〈解。数百体の竜が旋回し、そこへ獲物を追い込む狩りの手法です。獲物の逃走を防ぎ、内部で強力な個体が獲物を仕留めます。外敵から狩りの邪魔を防ぐ効果も併せ持ちます〉


 逃げなくさせる……罠って事かよ。


〈攻撃と回避を繰り返す事で獲物の意識を逸らし、その隙に竜嵐へ誘導している模様です〉


 飛竜と戦っているツィルニトラは、レビアタンからさらに引き剥がされていた。彼女の誘導されている先には、飛竜達がグルグルと回り竜巻の様な物を作っている。アレがAIの言う竜嵐か。


 戦場から離れた俺達なら確認できるけど、あの前線にいたら気付いていなくてもおかしくない。


『ショウゴ!! アレを!!』


 ティアマトの視線の先にはムシュフシュがいた。巻き起こる飛竜の竜巻の隙間からその姿が見える。静かに飛行し、獲物を待つように両眼をギラつかせながら漂う戦艦竜。その姿は明らかに先日戦った時とは違う。この前はもっと野生的な動きだったはずだ。


〈ムシュフシュに強力な魔力反応を感知。先日とは桁が違います〉


 全身に緊張が走る。マズイ。理由は分からないけど……アイツ、マジでツィルニトラ単機を狙ってる。知能まで上がっているのか?


〈トルテリア軍の長である竜機兵ツィルニトラを隔離、討伐する事で士気の崩壊を狙っていると推察されます〉


 ハインズが言っていたのはこの事かよ。国そのものを襲えば俺達は対処しなければいけなくなる。当然ヨルムンガンドやレビアタンもそちらを優先せざるを得ない。



 その隙に女王だけを狙う……そういう作戦かよ!







〜ティアマト〜


 早くなんとかしないとツィルニトラ様が……!


次回はツィルニトラ様達の戦いからお送りします。一騎当千の力をみせる竜機兵ツィルニトラとその登場者ユウ・シライ。しかし、そんな彼らに対しムシュフシュが……?ダメです!このままでは2人が……!?


次回、「ツィルニトラとユウ」


次回も絶対見て下さいね♡

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