第2話 え!? コクピットってソコ!?
「はぁ!? コクピットってここなのか……!?」
「はい♡」
俺は、ティアマトの下腹部というか、股関節というか、なんか恥ずかしい場所に立っていた。
い、いや!! ター◯エーとかア◯ビスとか確かにソコにコクピットがあるロボはいるけどさぁ! それって外付けじゃん! あ、いや……ブレンパ◯ードは体内に入るタイプだけど……で、でもティアマトみたいに話さないし!
こ、こんな……ここから中に入るとか……!?
『今開けますから♡』
ティアマトがぽつりと呪文のようなものを唱えると、彼女の下腹部に魔法陣が浮かび上がる。困惑して頭上を見上げると、彼女のつぶらなツインアイが俺をジッと見つめていた。
『ソコです。触れてみて下さい』
「ま、マジ……?」
いや、ちょっと待ってくれ。俺はロボゲーとロボが好きなただのオタクで、変態じゃないんだ。こんな状況に放り込まれてはいそうですかって適応できるかよ!
『……』
「うっ……!?」
ティアマトのツインアイが無言の圧力をかけて来る。マスクタイプの顔だからどんな感情なのか分からないし……なんだよ、ちょっと怖いんだけど……。
『い、嫌ですか……? 私に乗るのはそこまで……?』
ツインアイから涙がジワリと浮かび、ボトリボトリとサッカーボールサイズの涙が落ちて来る。それが俺にいくつも直撃し、俺はあっという間にずぶ濡れになってしまった。
「わっぷ!? わ、分かったよ!! 覚悟決めるって!」
意を決して魔法陣に触れてみる。すると、俺の右手はズプリとその中へと沈み込んでしまった。この魔法陣を潜って中に入る……そういう搭乗方法って事か。
『あ、あ、あ……♡ 入って来きます……! ショウゴが私の中に入って来るのを感じます……!♡』
「ちょ!? 変な誤解を生むような事言うなって!」
俺は、彼女の声から逃げるように一気に中へと入った──。
◇◇◇
ティアマトの中は、狭い球体のような場所だった。赤茶色の壁面に覆われた空間、その中央にコクピットシートがある。想像よりずっとシンプルな見た目に拍子抜けしてしまう。とりあえず、目の前にあるシートへ座ってみるか……。
「ペダルはあるな。この辺りはバトリオン・コアに似てる。でも、スティックやコントローラーは無いな」
シート周りを探っていると、耳元でティアマトの声が聞こえた。しかし、先ほどの彼女の声ではなく、どこか無機質な声だ。
〈補助術式、起動〉
「ん? 今なんて言ったんだ?」
その声は、よく分からない言葉を呟き始めた。
〈竜機兵ティアマト。搭乗者精神適合レベル確認。適合レベル55%──竜機兵50%、搭乗者5%。搭乗者に僅かな精神接続の意思を感知。搭乗者を第二の脳として登録。搭乗者の言語能力をこの世界の言語表現と同期させます〉
「なんだ? 補助AIみたいなもんか?」
〈解。本術式は竜機兵ティアマト、及び搭乗者であるショウゴ・ハガの接続用AIデバイスとお考え下さい。この声に従って、竜機兵ティアマトとの精神リンクを開始して下さい〉
「精神リンク……?」
〈解。承諾と判断。ショウゴ・ハガの精神をティアマト・リ・アシュタリアへ接続します。カウントダウンを開始。3、2、1……接続〉
瞬間、俺の座るシートからいくつもの光の線が現れて、俺の手や足にその線が繋がった。俺の手足に5本の線が登って来る。やがてその線は、俺の左胸に魔法陣のような模様を描いた。針とかコードじゃない。ただの光だ。痛いとかは無いな。
〈接続確認。操作魔法陣展開。ティアマトの視界をコクピットスクリーンへ映し出します〉
「眩しっ……!?」
コクピット内に光が灯り、赤茶色の壁だった場所には外の映像が映る。座席とペダル以外何も無かった空間には、光の魔法陣がいくつも現れた。それは、俺の前にキーボードのように配列され、俺の両手にも拳大の魔法陣が2つ浮かび上がった。
コクピットを見回していると、ティアマトの声が聞こえ始めた。
『ショウゴ……はぁ……私の中にショウゴを……あ、感じます……暖かい……これが、繋がったという事なのですね……あ、あ、幸せ……♡』
……。
聞かなかった事にしよう。
〈注意。本機のベース人格となるティアマト・リ・アシュタリアは他者との精神接続、及びショウゴ・ハガへの執着心により感情が暴走する傾向があります。ご留意下さい〉
留意って……できるかよそんなの!
〈ティアマト・リ・アシュタリアがショウゴ・ハガの拒絶反応を感知〉
『嫌なの、ですか!? う、ぅぅぅぅ……』
モニター前がジワリと歪む。そのままボタボタ大粒の涙が落ちていく。
「わ、悪かったって! 大丈夫大丈夫! だから泣くなよ!」
『はぁ……♡ よかったです♡』
マジか。大変だぞこれ……。
俺は、補助AIの声へと意識を集中する事にした。
〈両手の指を魔法陣へ〉
補助AIの声に合わせて魔法陣に5本の指をかざす。すると、ズプリと魔法陣の中に指が沈み込んでいく。魔法陣の向こうに指は見えないが、指先の感覚はある。指先がどこかに繋がっているのかも。
『あ!? はぁ、ダメ……!? 深いです……! おかしくなっちゃう……♡』
〈問題ありません。続けて下さい〉
『あ、ソコ……弱いです……! ダメッ……くふっ……あ、ちょっと……!?』
〈ティアマトとの接続が安定しました。操縦はティアマトとの精神同調と両手の魔法陣及びペダル操作による補助行動によって行われます。まずはティアマトへ落ち着くように声をかけて下さい〉
「……なんだこれ?」
悶えるティアマトの声と、無機質に話すAIの差が凄すぎる。ロボットに乗った感動が塗り潰されるくらいなんだけど……と、とにかく落ち着かせるんだったよな。
「大丈夫か? 一応、接続っていうのは完了したみたいだけど」
『はぁ……♡ はぁ……♡ すみません、幸せすぎて、つい……で、では共に動いてみましょう。ショウゴは操縦にだけ集中して下さい。私が合わせますから』
〈ショウゴ・ハガの脳内へ操縦マニュアルを書き込みます〉
「う……っ!?」
バチリと目の前が光った後、俺の脳裏に操作方法が浮かんだ。それが俺のバトリオン・コアの操縦経験と結び付き、どこをどう動かせば良いのか、手に取るように分かる。この魔法陣の指先と、ペダルを使えば……。
〈操縦開始〉
『お願いします♡』
「う、動かすぞ……!」
バトリオン・コアでの感覚を手繰り寄せて歩いてみる。体が一瞬浮いたと思った瞬間、地面にティアマトの右足が着地し、振動を感じた。壁面に映し出された映像が前へ進んでいく。
「スッゲ……スゲー!!」
胸の奥に嬉しさとワクワク感が込み上げた。初めて本物のロボットを動かす感覚。振動や音や感触が夢じゃないと伝えてる。ここは本当に現実なんだという想いが湧き上がって来た。
「やった……!? これでいいのかティアマト!?」
『はい♡ すごく上手です。私も感動してます!』
2歩3歩と歩を進めてみる。立ち止まって今度は腕を。上を見上げたり、旋回も。すごい。自分の思ったように動かせる。ちょっと冒険してジャンプしても問題無い。
こ、こんな日が来るなんて……!
「ヤバい……! めちゃくちゃ楽しいぞティアマト!」
興奮して彼女に声をかけるが、返事が無い。彼女は動き回りながら上を見上げていた。
「ティアマト?」
『すごい……この姿でもこんなに自由なんだ……これで、みんなの役に立てます……ありがとう、ありがとうございます……ショウゴ』
精神がリンクしているからか、彼女の嬉しい気持ちが伝わって来る。それと共に、今まで彼女が巨人の姿で手足を動かせずもどかしい思いをしていたことも。
だから、彼女には搭乗者が必要だったのか。そして、それに俺を選んでくれた……。
それは、嬉しいかもな。
『良かった……アナタの操縦技術を、信じていました……』
「俺の……技術……」
俺を必要って……。
その時、出口の扉がバンと開かれた。
『ティアマト様!!』
扉の奥からティアマトをシンプルにしたような機体が現れる。鈍い銀色の機体に頭部には緑のライン。そこから放たれる女性の声。その機体は、慌てたように扉の外を指した。
『モンスターが……ヒュドラムがこの神殿へ向かってます!! 早く退避を!!』
『なんですって……!?』
ティアマトの声にも緊張が混ざる。先ほどまでの空気が一変したのを、俺は感じた。
〜ティアマト〜
またココ……? シリアスな場面だったのに……ハッ!? いけません文句を言うなどと! あとがきを話すのですよね?
えっと、まずは告知?
第3話は17:30投稿だそうです!
そ、それと次回予告……ですよね。コホン。
ショウゴと初めて繋がった瞬間、いかがでしたか? 私、もう嬉しすぎて舞い上がってしまいました♡
次回は凶悪なヒュドラムとの初戦闘! ショウゴの実力、その目に焼き付けて下さい! もしかしたら私も熱く燃えがってしまうかも……?
次回、「戦闘中に変な声出すなよ!?」
絶対見て下さいね♡