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第16話 トルテリアへ向かいましょう♡

 ヨルムンガンドが出発し、俺達はハインズに続いてブリッジへと向かった。


 艦内の廊下を抜け、戦艦竜の胴体へと渡り、中央の階段から艦橋(ブリッジ)へ。色々ティアマトに質問したかったけど、ハインズに「後にしろ」と言われて泣く泣く諦める。なんだよ、ちょっとくらい聞いたっていいだろ。


「後で私が沢山教えてあげますから」


 ティアマトに耳打ちされる。


 クソ……用事が済んだら絶対この中歩き回ってやる!


 ハインズがブリッジに続く扉へ触れると、魔法陣がボワリと光る。扉左右へスライドして開く。その瞬間、俺の悔しい思いは吹き飛んだ。


「うわぁ……これ、マジでロボアニメのブリッジじゃん……」


 目の前の光景に胸の中で何かが込み上げてくる。艦橋では複数の兵士達が席に着き、操作魔法陣で作業をしていた。


「ヤバ!? 景色スゲー!!!」


 壁と一体化し、360度見渡せる横長モニターに、正面には大型のモニターまである。モニターの中の映像が動く。あれはヨルムンガンドの視界と繋がってるみたいだな。


 言ってみれば、ここはティアマトのコクピットを大型化したような空間。その中央の席にはアシュタルが座っていた。


 ドアの前で立ち尽くす俺達を置いて、ハインズはツカツカとアシュタルの側へと歩いていく。彼は、アシュタルの前まで来ると敬礼のようなジェスチャーをした。


「ビル・ハインズ以下5名、ただいまよりアシュタル王女殿下の警護に就かせて頂きます」


「ええ、頼みましたよハインズ殿。ところで……」


 アシュタルは俺達を一瞥(いちべつ)すると、正面モニターへ目を向け、呟いた。


「久しぶりですねティアマト。少し話があります。こちらへ」


「は、はい……」


 ティアマトがビクリと震える。ティアマト……やっぱり苦手なのは変わらないか。


「俺もいるから」


「ショウゴ……ありがとうございます」


 ティアマトに耳打ちして2人でアシュタルの元へ行く。アシュタルは俺がティアマトの隣にいるのを見て眉根を寄せた。


「貴方も来たのですか……」


「いたらだめなのかよ?」


「いえ、ギャアギャアとうるさい声が聞こえるなと思いまして」


「なんだよその言い方」


「別に? 注意した所で子供に分かるはずもありませんから」


 イラッとする言い方だな。子供呼ばわりは無いだろ。


 やっぱこういうタイプは苦手だ。ハインズから過去の竜闘の儀について話を聞いたから、彼女がティアマトの事を考えているのは間違いないんだろうけど、もうちょっと絡み方考えろよな。


「アシュタルはティアマトと違って口うるさい感じするよな」


 反射的に言うと、アシュタルが睨み付けて来る。お互い睨み合っていたらハインズに肩を叩かれた。


「ショウゴ……お前、もう少し敬意を払え。アシュタル様はこの国の王女(・・)だぞ。皆の前ではせめて呼び方を改めろ」


「なんでだよ? それを言うならティアマトと同じ(・・)王女だろ? 同じ姉妹なのにアシュタルだけ特別扱いしたらティアマトが可哀想じゃん」


「あのな……アシュタル様は次期女王だ。それを……」


 ハインズの腕を振り払って俺は一歩アシュタルへと歩み寄った。


「まだ女王じゃ無いんだろ? だったらティアマトのお姉さんとしては接するけど、アシュタル()なんて呼ぶ気は無いね」


 アシュタルが目を見開く。うわ、めちゃくちゃ怒ってるなこれ。王政で第一王女とか第二王女とかそんなに違うのか? その辺の知識無いからついカッとして言っちまった。


「そういうところ……本当に生意気ですね……」


 アシュタルが眼を伏せてポツリと呟く。周囲を見渡すと兵士達がひどく怯えた様子で俺を見ていた。


(おい、さすが召喚人(しょうかんびと)だな……)

(アシュタル様にあんな口を聞くなんて……)

(ヒエェェ……俺は知らないぞ!)

(私は何も見てない私は何も見てない私は──)


 周囲の声がうるさい。ティアマトがオロオロしているのも、ハインズが真面目な顔しながら実は困ってるのも感じてはいるが、ここで引けない。ここで弱気になったらアシュタルが何言ってくるか分からないし。


 アシュタルは母さんに似てるからな。こういうタイプと話す時は隙を見せたらいけない。弱気で臨んだらすぐにペース飲み込まれて口答えできなくなるんだ。


 しかし、俺の予想とは裏腹にアシュタルはそれ以上攻撃的な事を言って来なかった。


「……まぁ良いです。寛大な心で許してあげましょう」


 アシュタルがうっすらと笑みを浮かべる。その瞬間、艦橋に張り詰めていた空気が一気に緩む。ハインズに背中を肘で小突かれて少し反省した。流石に突っかかり過ぎたか……俺もなんか、冷静じゃなかったみたいだ。


 アシュタルから離れようとした瞬間、彼女がポツリと呟いた言葉が聞こえた。


(そんな顔をされると、余計に泣き顔が見たくなりますね……♡)


 アシュタルが暗い笑み浮かべているのに気付いて背筋にゾワリと悪寒が走る。周りを見ても誰も気が付いていない。コイツ……性格は違ってもやっぱりティアマトの姉妹なのかよ!?


 焦る俺をよそに、アシュタルは何事もなかったかのようにティアマトへ視線を向ける。正直、俺の感情は全く追いついていないが……俺は2人の事を見届けることにした。


「ティアマト、協議の際は私の許可無く発言をしないように」


 アシュタルが冷たい口調で告げる。ティアマトは、少し目に涙を溜めながら口を開いた。


「……お姉様の考えを教えて下さい。私にも分かるように」


 怪訝な顔をするアシュタル。彼女はさも当然というようにこう言った。


「貴女が不用意な発言をすれば、我が国は竜闘の儀で不利になる可能性があります。ツィルニトラ女王は聡明なお方。決して油断してはなりませんよ」


 ……ん?


 これって……国を建前にしてるけど、ティアマトの事を心配してるのか?


「ああそれと……警護任務で私を守るのは許可しますが、決して無謀な事はせぬように。竜機兵を失うなど言語道断。貴女もこの国の王女ならばそのプライドをかけて生き残るように」


 んん……? えっと……つまり、ヤバそうだったら撤退してもいいよってことか?


「お姉様……! 私には我が身を知り尽くしたショウゴがいるのです。決して死ぬような無様な事は致しません!!」


「よろしい……ならばその役目、果たしてみせなさい。ティアマト」


 凛とした表情で頷くティアマト。ティアマトに伝わってるかは分からないけど、アシュタルはティアマトの事心配してただけかよ。なんだよ。ややこしい言い方するよなぁ。



 ……。



 その後、アシュタルが今回の旅の目的を教えてくれた。


 前回の優勝国へ協議を持ち込むのは竜闘の儀の伝統らしい。特にトルテリアは強国として有名……連覇の可能性もある。トルテリアが再び優勝した時、交渉に制限を作るための事前協議に向かうのだとか。水面下の戦いはもう始まってるってことみたいだ。


 それにしても、トルテリアの協議の条件が俺達の出席……か。女王の方から俺達に会いたいと言ったらしいし、一体何のためなんだろう?


 ティアマトの脇を小突く。彼女は大きくのけぞり、小突いたのが俺だと分かると頬を染めて耳打ちしてきた。


(もう♡ 今日の寝室の心配ですか? 仮に別々でも私がショウゴの部屋に忍び込みますから安心して下さい♡)


(な、なんで俺が寝室の心配するんだよ……?)


(恥ずかしがらないで♡)


 さっきまでは「王家の人間です」みたいな顔してただろティアマトのヤツ! なんでもういつもの感じになってんだよ!


(違うって、ティアマトはそのツィルニトラ女王に会った事はあるのか聞きたかっただけだって!)


 ティアマトに耳打ちして返すと、彼女はあからさまに残念そうな顔をした後、コクリと頷いた。


(幼い頃に1度。その時はツィルニトラ様もまだ女王ではありませんでした)


 ううん……どうなんだろ? 久々にティアマトの顔が見たくなった? でもそれなら竜闘の儀の参加者を連れて来いなんて言う必要ないよな。


 俺達が話していると、アシュタルがウンザリしたような様子で頬をつく。


「はぁ……痴話事(ちわごと)なら私の目が届かない所でなさい」


 くっ……! 姉妹揃って何勘違いしてるんだよ……! そんなに俺は煩悩に塗れた男に見えるのか!? 2ヶ月も理性を保ってるって言うのに! 鋼の意志を……! あ、いや……まぁそれは置いておこう。意識するとマズい。


 思わず声を上げそうになったがやめた。アシュタルのこの言い草……この調子ならそろそろ解放されそうだな。ここは黙っていた方が良さそうだ。


 そして、俺の期待通りの言葉をアシュタルが告げた。


「ティアマト、ショウゴ殿を案内してあげなさい。王族らしく、ヨルムンガンドと我が国の歴史も交えて教えてあげるのですよ」


 やった! 願ったり叶ったりじゃん! 大人しくしていて正解だったな!


「分かりました。それではお姉様、皆様……私達はこれで」


 うやうやしく頭を下げるティアマト。俺は、彼女についてブリッジを後にした。




◇◇◇


 ブリッジを出た後、俺はティアマトに案内して貰ってヨルムンガンドの中を見て回った。


「スゲー!!」


「ふふっ、ショウゴ可愛いです♡」


 俺はさっきからスゴイとしか言っていなかった。というか、この状況で興奮を抑えろっていうのも無理な話だ。


 さっきのブリッジもそうだったが、ヨルムンガンドの中は、本当にロボットアニメの戦艦みたいな内装だ。金属製の内装に自動扉まである。でも、所々ファンタジーの様相もあって、見ているだけで楽しい。


 それを見て回っていると、俺の中にある疑問が浮かんだ。


「なぁ、なんでヨルムンガンドってこんなに機械があるんだ? ていうかティアマトがロボットみたいだったり、工房に機械があるのも関係あるのか?」


「それはですね……ヨルムンガンドの活躍から話した方が良さそうです」


「活躍?」


 そういや、さっきアシュタルが歴史を交えてとかなんとか言ってたな。


「ええとですね、約2000年前に……」


「せ、2000年!? 全然想像できないんだけど……」


 ティアマトが壁に寄りかかる。彼女は近くにあった窓を撫でながらヨルムンガンドの話をしてくれた。


 ヨルムンガンドは2000年前、3体の竜と共に魔王竜ドレッドノートという敵と戦って、倒したらしい。しかし、戦いの中で体の大半を負傷。ドレッドノートに簡単には死ねない呪いをかけられた事で、苦しんだままこの世界を1300年も彷徨ったという。


「そんな時出会ったのが私達アシュタリア王家の先祖なのです」



  当時の彼らは「別次元の侵略者」との戦争中だった。その敵が使っていたのが、竜機兵を始めとする魔法機械の技術。ティアマトの先祖は侵略者が使っていた魔法機械を研究していた。


 その戦争の名前が「殻竜戦争(かくりゅうせんそう)」。


 初めてティアマトに乗った時に聞いた戦争の名前だった。


「え、竜機兵ってその別次元の侵略者ってヤツの技術なのか?」


「そうです。ショウゴは私達の世界を見てこうは思いませんでしたか? チグハグな世界だと」


 確かに。ファンタジーのような牧歌的な雰囲気なのに、竜騎兵や量産機のワイヴァルス、この戦艦竜のような機械的な技術がある。そんな世界なのは……。


「別次元の技術が混ざったからかよ」


「そう、そして……」


 侵略者を研究した末、この世界の人間は、2つの姿を混ぜ合わせる事で、「竜機兵」を再現する事に成功した。


 人の姿・巨大な竜の姿、その2つを魔法機械で再構成する事で彼らは竜機兵となり、侵略者と互角に戦えるようになったと。


「この派生技術を使って助けを求めてきたヨルムンガンドを戦艦竜としたのです」


 彼らはヨルムンガンドの体を魔法機械と融合させる事で痛みから解放したとか。それ以降、ヨルムンガンドはアシュタリアと盟約を結んで、共に侵略者へ立ち向かったと言う訳だ。


「ティアマト達にそんな歴史が……あったのか」


「神話と私達の生活は密接に結び付いているのです」


 近くにあったパネルを触ってみる。この魔法機械も竜機兵もそうなのか。過去に大きな歴史の転換点があって、今がある。


 ティアマトが竜機兵になったのも、ライネさん達が機械を使ってるのも全部そのおかげか。ティアマトの言う「侵略者」ってヤツらはよほどすごい技術を持っていたんだな。別次元から来たのに竜機兵……竜と関係するのも気になる。


 ティアマトが窓を覗く。彼女の視線を追うように俺は窓を覗き混んだ。外ではタリア大森林を抜けて、広い荒野に出ていた。


 どこまでも続く空の上を小型飛竜達が気持ち良さそうに雲の上を飛んでいる。あんなに自由な竜達。だけど、同じ竜でもティアマトやヨルムンガンドはすごい歴史を背負っているんだな。



 その時。



「あ」


 ティアマトが何かを見つけたように声を上げた。


「どうした?」


「い、いえ、あの飛竜……なんだか形がおかしいような……」


 ティアマトが窓の外を指す。その先に、はるか遠方にはポツリと小さな影が見えた。


「なんだ……あれ……?」


 徐々に近付いて来る影。それが「人型兵器」だと気付いた頃にはヨルムンガンドの声が頭の中に響き渡った。



"敵襲じゃ!! 距離7000、数10!! あの装備……空賊じゃぞ!"



「空賊!? なんだよそれ!?」


「ショウゴ! 今はとにかく格納庫へ! ……大森林を抜ける所を狙われたの?」


 ティアマトがポツリと呟いてから走り出す。俺達は急いで格納庫へ向かった──。






〜ティアマト〜


くううう〜!! せっかくショウゴと2人きりだったのにまさか空賊が来るなんて……!?


あ! いけません! つい本音が溢れてしまいました! 予告をしないと!



突如襲いかかってきた空賊達。しかし、その中は通常と違う戦艦竜の姿もあって……? なんだかその竜はヨルムンガンドの事を知っているみたいです。そんな中、私とショウゴは大空へと出撃します。


次回、「初めての出撃です♡」


絶対見てくださいね♡

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