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第1話 え? 美少女に迫られるんだが?

 

「はぁ!? ロボット……!?」


 目の前には18メートルはあるエメラルド色の巨人が立っていた。


『はい♡ 私に乗って下さい♡』


 そこから聞こえる女の子の声……まさか女の子がロボットへ変身するなんて。なんで俺、こんなことになってんだ?


 話は数分前に遡る──。




◇◇◇



「やっとお会いできましたねショウゴ♡」


 ゲーセンに行った帰り道。突然不思議な光に包まれ、気がついたら知らない場所に立っていた。


 目の前には、にこやかな笑みを浮かべる女の子がいた。10代か20代か、俺とそれほど歳の離れていない女の子が。


「アナタに、その……お願いが……」


 恥ずかしそうにチラチラと俺を見るその子。だけど、その子は俺と少し違っている。


 淡い緑色の長い髪、金色の瞳に瞳孔が猫のように鋭い。フンワリとした白いドレスを着ていて……頭には2本の小さな()がある。うねりを持っていて、先端が上を向いているツノが。


 コスプレには見えない質感……だけど目の前にその子は確かに存在していて、その子に名前を呼ばれて余計に混乱してしまう。


「え、俺の事知ってるの?」


「もちろんです! アナタの名前はハガショウゴ。私の1つ上で19歳の日本人。ご両親と揉めた事で家を飛び出し、今は一人暮らしで……自宅と職場を往復する毎日を送っておられます……でも、そんなアナタにはある特技があります! ゲーム「バトリオン・コア」という特技が!!」


 早口で俺の事を話し出す女の子。その様子に気味の悪さを覚えた。実家を出てからはバイト以外、誰にも会っていないはずなのに。なんでそんな事まで知ってるんだよ?


 俺の不安をよそに女の子が捲し立てるように続ける。


「そう! そしてショウゴはそのバトリオン・コアで日本大会2位(・・)の実力者! ですがアナタの周りの人達は、その事を誰も知らない。誰もアナタを認めていない。あんなに努力して技術を磨いたのに! ……あぁ、なぜなのですか!」


 2位(・・)という言葉に胸がズキリと傷む。だけど、突然興奮してキレ散らかす女の子に、胸の痛みより先に「なぜ?」という言葉が頭を巡る。


「ショウゴは好きな物に懸命に向き合っているのに! なぜそれを誰も分からないのですか! ああ腹立たしい! バカです! バカ者達です! 許せません!!」


「えぇ……? なにその熱量……怖いんだけど……」


 彼女の言うバトリオン・コアとは、ゲームセンターに設置されたコクピットシート型筐体(きょうたい)の対戦ロボットゲームだ。


 コクピットシートとAR技術を組み合わせた「本物」的な操縦体験。動きと共にシートが動き、砲弾の衝撃まで感じる興奮、愛機バルディアを操る爽快感に、ロボットを通じて自分の体が拡張される感覚。


 元々ロボットアニメやゲームが好きだった俺は、あの筐体が大好きだ。愛してると言っても過言じゃない。あのコクピットにいる時だけは、本当の俺でいられる場所だと……そう思ってる。


 だけど、その事は誰にも言っていない。バイト先でバカにされても、元同級生達から見下されても、親から見放されても、それだけは絶対に言わなかった。言ってしまうと俺の楽しみが奪われると思ったから。


 抑圧されて、自分の事を否定されるのは、もう沢山だから。


 だけど……なんでバトリオン・コアの事まで……。


「知っています。アナタの事ならなんでも……」


 俺の事を潤んだ瞳で見つめる彼女。徐々に怖くなって来る。身に覚えがないのに親しみのような物を向けてくるこの子に。


「っていうか、ココ、どこだ?」


 周囲を見る。よく見ると、そこは石造りの壁に覆われた広い空間だった。天井は高く、暗がりになっていてどこまで続いているのか分からない。内装から頭に浮かんだのは神殿のようなイメージ。奥に扉のようなものがあるが、異様に大きい。一体何が出入りする扉なんだ?


「アナタを召喚したのです。私達の世界へ」


「召、喚……?」


 別の世界に……そんなマンガみたいな事あり得るのか? いや、あれは転生だったか? 俺は俺のままだよな?


 自分の両手を見てみる。服はゲーセンを出た時と同じ。上下の黒いジャージのままだ。自分の体を見回していると、目の前の女の子はクスリと笑って手で口元を押さえた。


「世界間転移魔法の原理をお話しても分かりませんよね。ただ1つ事実なのはそう、私がアナタを召喚したこと。アナタをずっと見ておりました……そして思ったのです。アナタにこそ、私の元へ来て欲しい、と」


 女の子が少し頬を赤らめて俯く。彼女は深呼吸すると、うやうやしく頭を下げた。



「初めましてショウゴ。私はティアマト・リ・アシュタリア。アシュタリア王国の第二王女です」



 ティアマトという女の子が再び俺を見つめる。見つめるというか、すごい熱の籠った視線で。


 なんだその反応……? え? さっき親しみだとか思ったけど……そうじゃなくて俺、この子に好かれてる? そういやさっき「ずっと見ていた」とか言ってたよな。もしかして、ストーカー?


「そ、そんなに見つめられたら……恥ずかしい、です……!」


 顔を真っ赤にして手で顔を覆うティアマト。うぅん……その様子はとてもメンヘラやストーカーには見えない。純朴(じゅんぼく)そうな女の子と言った様子だ。角が生えてる事以外は。


 彼女は真っ赤になった顔をブンブン振って咳払いした。


「ほ、本題に入りましょう! アナタにはあるお願いがあってここへ来て頂きました!」


「なんだよお願いって?」


 ティアマトという女の子は、モジモジしながら言葉を絞り出した。



「お、お願いはですね……私に乗って(・・・)欲しいのです……ッ♡」



「は? え? それってどういう……」



 ティアマトは、一言「がんばれ、私」と呟くと、俺に背を向けてドレスを脱ぎ始めた。



「ちょ!? なにやってんの!?」


「ふ、服を破らない為……です!」



 すぐ脱げるような構造になっていたのか、スルスルと下ろされていくドレス……慌てて目を背けようとした時、ある物が目に入ってしまう。


「なんだあれ……文字、か?」


 ティアマトの背中には、古代文字のような物がビッシリと刻まれており、その文字の1つ1つが緑色の光を放っていた。彼女は胸のまえで両手を組んで、ポツリポツリと言葉を紡ぎ始める。



「我らが父よ。竜神イァク・ザァドよ。我が肉体を真の姿へ回帰させたまえ。我が名はティアマト・リ・アシュタリア。竜の子にして鉄の巨人となった者。今、彼の者の鎧に──」



 呪文のような物を唱え終えた彼女は、最後に一言呟いた。



回帰魔法・竜機兵リグナリオ・オブ・ドラゴレギス



 瞬間、ティアマトの体が虹色の粒子になって空中へと飛んでいく。


「き、消えた……!?」


 粒子が頭上に集まっていく。それが眩い光を発したと思った次の瞬間、巨大な脚が現れた。


「私を見て下さい……♡」


 神殿内に轟音が響く。上を見上げると「それ」はいた。


 エメラルド色をした装甲に、所々金色が装飾された「鋼鉄の巨人」が。


 ゲームの時の癖で、機体の各部から性能を推測してしまう。あの大きさ……実家の6階建てマンションと同じくらいか? 全高18メートルはありそうだ。一見すると人型ロボのようだが、どこか生物的にも感じる。


 見た事のない質感。でも間違いない……俺が空想してやまなかったサイズ感。それが目の前にある。


 胸が高鳴ってくる。さらに他の部位へも視線を向けてしまう。足は鉤爪のようになっており、背中には折りたたまれているが……竜の翼のような意匠が。


 下から見上げているから分かるが、背面に大型の推進装置(スラスター)がある。恐らく背面スラスターと翼で飛ぶんだろう。よく見ると、機体各部に小型の姿勢制御用スラスターも。空中戦が得意なのか? それに、あれだけスラスターがあれば動きの自由度はかなり高いはず。


 全体のシルエットはどことなく女性的で、左胸を隠すように特徴的な装甲が付いている。頭には2本の角。鼻と口の無いマスクタイプの顔には、少し優しげな金色のツインアイが輝いていた。そこで改めて俺は感じた。目の前に現れた物が何なのかを。



「はぁ!? ……ロボット!?」



◇◇◇


 ──これが、この数分間で俺の身に起こったことだ。まさかこんな事になるなんて……。



『ショウゴ。共に闘いましょう? 1年後に行われる大陸の覇権をかけた闘い……「竜闘の儀」を!』




「お、お願いって……俺にティアマトに乗って戦えってコト!?」


『はい♡ 私に乗って下さい♡』


 ロボットに変身したティアマト。その姿のインパクトに疑問とか、色んな事が頭から吹き飛んでしまう。


 彼女が膝を付き、巨大な手がゆっくりと俺の前に差し出される。俺達しかいない神殿内に、ティアマトの声が反響した。


『どうぞ。こちらへ』


 正直言って、俺のテンションは急激に上がっていた。本物のロボが現れた事に。


『怖がらないで? 大丈夫ですよ。だから来て……?』


 彼女の声に誘われるように、恐る恐るティアマトの手に乗ってみる。彼女の指先から機械音が響き、その指に包み込まれてしまう。


 俺が落ちないように気を遣ってくれたのか、慎重に立ち上がるティアマト。地面から離れて行く事にものすごい興奮を覚えてしまう。


「マジかよこれ!」


 頬をツネっても夢じゃない。本物のロボットに……!? ずっと夢見た事が現実に!?


『ホントです! ショウゴの夢が叶いますよ! ロボットに乗るという夢が!』


 嬉しそうな声を上げながら、彼女はコクピットへと案内してくれた。


 ヤバイ……!! 俺が本物のロボに乗る? 手のひらに伝わるひんやりした金属の質感、ティアマトの指の隙間から頬を伝う風の感触。高所にいるという実感。い、生きてて良かったぁ……!


 コクピットシートへの期待感に胸が膨らむ。俺の中で熱い何かが込み上げて来る……!!



 俺は今、幸せの絶頂にいた。



 が。



 俺を包んでいた手が開かれる。開かれた先で自分が今どこへ居るのかが分かってしまう。



『ここです。ど、どうぞ……中へ……♡』



 ティアマトのロボ形態。その下腹部の少し下、いや……股関節? に手が添えられていた。



「えぇ……?」



 つまり、俺は今、巨大な女性型ロボの、というか、女の子の、その……ソコ(・・)に立ち尽くしてた──。




〜ティアマト〜


え? ここどこですか?


あとがき……? 私に何か話せと言うのですか? なんでもいい? 思った事を話せば良いのですね? お願いも忘れずに? え、お願いってこれを言うのですか?


うぅ〜恥ずかしいですが、頼まれたからには全力でやってみせます……!



ティアマト、いきます!



初めて間近で見たショウゴの凛々しいお顔……私興奮して倒れそうになってしまいました。次回はいよいよショウゴが私の中へ……? 2人が繋がる(・・・)瞬間、ぜひ見て下さいね♡



次回、「え!? コクピットってソコ!?」


本日8/11は15:30、17:30、18:10、19:10、20:10に投稿されるそうですよ?


絶対見て下さいね♡

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(`・◇・´)ノ 待たせたな作者様!私は出遅れたのではない!まとめ読みを開始するだけだっ!!(久しぶりの【なろう】投稿で忙しかった読者) 女の子がロボットに変身、そのロボットに主人公が乗ると…… う…
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