大学に関する引用(甲斐,2025,p1)
------ということで、運動方程式に基づき決定され、予測可能なのがニュートン力学であるが、それで説明できなかった事象についてはアインシュタインらの発見による量子力学が説明することとなります。来週は不確定性原理について解説します。これで今日の講義は終わりです」
終鈴が鳴り響くと共に、教授の足音は教室の外へと向かっていった。途端、教室内はザワザワとし始めて、教室は授業後の装いへと変化した。
ああ絶望だ。もう終わりだ。今にも叫びたい気持ちを抑えながら、俺はノートに黒板の最後の一文を書きなぐった。そう何が絶望って、
「このままでは留年の危機である!!!!」
いやそもそも、なんなんだこの教科書は。この厚さでは辞書じゃないか。いや、辞書の方がまだ索引があって読みやすい。じゃあなんなんだこの教科書は。まだ5ページでこの難しさなら、俺はあと何年大学にいればいいのだ?
俺は太ももの下でシワシワになった左手を取り出して指折る。四年制で留年は確か4回までだったかなと、左手では収まらないくらいの年数がかかるかもしれないと頭を抱えた。どうしよどうしよ……
……グゥ------
あっ、一旦ご飯を食べるか。
俺は、考えるのをやめることにした。
俺の名前は、甲斐 泰貴。年齢は18歳だ。東京公立大学理学部物理学科の新一年生である。高校生の頃は、学問に関してブイブイ言わせてた自信はあった。だが、大学が始まって2週間になる今、その授業の難しさに早速留年を憂いている。
一番の懸念すべき点は、友達がいないことである。自分の高校からは遠いため、今は上京して一人暮らしである。故に、友達もいなければ土地勘もない。言わば、ぼっち大学生である。
次の懸念すべき点は、何の変哲もない一般人なことである。高校時代の新体力テストはCだったし、歌も平均並み。もちろん特徴のない黒髪だ。ただ運がいいことに身長は高くて、人からはよくモテる身長と言われるがモテたことは無い。テキトーなことを言わないで欲しいもんだ。
俺は食べ終わった弁当をそそくさとしまった。そして教室の真ん中で騒ぐグループに一瞥し、立ち上がって次の教室へ向かう。ここは1号館で次の教室は12号館だから、移動には10分はかかる。
道中にはそこかしこに掲示板があり、サークルの勧誘ビラが貼ってある。上京前に母親が、あなたサークルに入ってたくさん友達作るのよ!と言っていたのを思い出した。
「やっぱ友達はサークルで作るしかないよなぁ」
俺は一号館の自動ドアの隣に立ち止まって、掲示板を見ることにした。
色とりどりのビラによって突然始まったオーディションを、審査員の俺は10点満点で審査していく。写真を用いたり絵を用いたり、色んなパフォーマンスがあるが、共通している赤色の掲示許可のハンコはさながらオーディション番号である。しかし、どのパフォーマンスも俺に満点を出させるほど興味を引くものはなかった。
時間も迫ってきたため、仕方なく次の教室に向かうことにした。
******************
天才か!!!!
思わず布団の上に正座して拍手をしてしまった。
大学から帰ってきた俺は、ユーチョーブで今日の授業の解説を観ていた。
なんて便利な時代なのか!こんな完璧な解説が観れるとは思ってもいなかった!!きっとこの人は、殺せ○せーなんだ!!!と。そう思った俺は、この人はマッハ何で動くんだろうかと思考をめぐらせながら、殺せ○せー(どちらかというと、顔は烏○先生よりだが)のチャンネル登録をすませた。そして、突然やってきた眠気に従うことにし、スマホの電源を閉じーーーーーー
『ブーーーー』
スマホのバイブが鳴った。
俺は寝る前のスマホは良くないと分かりながらも、もう1度スマホを取って通知を見ることにした。ミンスタの通知だ。ひと目でわかるアイコンの隣に目をやると、おすすめの文字と、その下には
公立大学 量子もつれサークル……???
******************
目の前には所々錆びたドアがある。唯一輝いているのは、後ろから差す陽光を受ける金色のベル。下には、御用の方はこのベルを鳴らしてくださいと、ポップな文字で書いてある。
そう、このドアは"量子もつれサークル"の部室のドアである。元々物理が好きだった俺は、お昼に行われたオーディションに遅れて参加した1人の天才子役に、声をかけざるを得なかった。
初めてのサークルなので、やはり緊張はする。明日にしようか……いや、ここでチキってどうするよ俺。 そして、ここまで来たならと俺は、ついにベルについた紐を勢いよく引っ張った!
プツン!!!!!!
何か切れた音と共に、やけに軽くなった紐を見た。
「ああああああああああ!」
紐が切れてしまった!引っ張りすぎた!どうしよう早速備品を壊してしまった……。俺が頭を抱えようとした時、扉が大きな音を立てて開いた。その向こうには女の人が立っていた。
『『あ』』
「どうしたの?叫んでたみたいだけど……」
女の人は眉をひそめて、俺の顔を見ている。俺は、右手にある紐をもう1度見て、すみません!と誠心誠意謝った。
「悪気はなかったんですが、このベルを引っ張ったら力が強すぎたみたいで、切れてしまって……」
「アハハハハハハ!ッハ!く、苦しい」
「え……?」
顔を上げた先には、大笑いした女の人がいた。
何かおかしい事でもあったのだろうか……。
「ごめんなさい!」
女の人は笑いが収まると、髪が風を切るスピードで頭を下げた。
「君、新入生だよね?実は、そのベルの紐わざとすぐ切れるようにしてあるの。サークル長の悪ふざけなんだけど、『ベルの不等式の破れ』っていう量子力学の話があって……。それに掛けて、『ベルの紐の破れ』って……」
俺は黙って帰ることにした。
初めましてパンダブルです。ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
皆さんの1番好きな季節はいつでしょうか。昨今、温暖化により、春と秋が短くなったように感じます。
私は秋が好きです。1番記憶にあるのは、自分が入試を受ける直前の秋です。机に向かってばかりでは、頭が凝り固まってしまいそうだったのでよく散歩をしていたのですが、その時間はとても有意義な時間だったと思います。
話を戻しましょう。私は、今後より一層秋が短くなるのだと思います。ここで、文というのは写真のようなもので、秋を切り取った本は沢山あります。そして文は永遠です。いつしか秋を知らない人達が、本の秋に触れて散歩する日が来るのかもしれませんね。
最後に、面白いと思っていただけたら、ブックマークに追加、リアクション、評価をお願いします!感想も待ってます!